決算書は数字だけではない!? 決算書や申告書の読み解き方
経理や決算といえば「数字を扱うもの」と考えている方は多いかと思います。もちろんその理解は間違っていないのですが、近年では数字で表せない定性的な情報の価値が高まっています。今回は決算書における注記、それに税務申告書における書面添付制度について確認します。
決算書の注記とは何か
決算書の注記とは、その決算書が完成するまでの背景を説明するためものです。その種類は大きく三区分されます。
会計処理の方針
複数の会計処理方法がある場合に、どの方法を採用して処理をしているのかを説明します。
補足説明
注目すべき科目や、過年度と比べて大きく数字が変動した科目について、なぜそのような数字になったのか説明をします。
簿外情報
会計上、数字に反映できない項目が存在します。たとえば以下のようなものです。
- 計上されていないリース債務
- 後発事象(決算期末以後に起こった特筆事項。資本取引に関する内容や、災害などにより大きな損失が生じたことなど)
決算書における個別注記表
具体的には、以下のような注記が存在します。
重要な会計方針に係る事項に関する注記
- 有価証券や棚卸資産の評価方法
- 固定資産の減価償却方法
- 引当金の計上基準
- その他、リースや消費税に関わるもの
貸借対照表に関する注記
減価償却累計額や担保に供している資産の情報など
損益計算書に関する注記
関係会社との取引高や、研究開発費など特定の勘定科目に関する補足情報など
株主資本等変動計算書に関する注記
- 期末時点の発行済株式の数
- 配当に関する事項など
上記以外にも、さまざまな注記が存在します。また、公開会社と非公開会社(株式の譲渡資源状況により判断されます)により、開示が要求される項目が異なります。公開会社の方が、外部利害関係者が多いことから、要求される項目が多いです。
どのような項目が必要なのか、下記リンク先も参考にしてください。
(参考)中小企業庁 中小企業の会計31問31答より
優れた投資家は「注記」をよく読んでいる
決算書の注記には企業の経営に関する考え方が色濃く表れます。また、ときには注記がきっかけで粉飾や脱税が発覚することもあります。不自然な数字の変動と、それを取り繕うような注記から、優れた投資家はそれらの「隠された事実」を読み解くことがあります。
その一方で、注記を最大限活用することで、内外の利害関係者から高い信頼を得ている企業も存在します。冒頭でも触れた通り、近年では「数字に反映されない情報」の価値が上がり続けていることから、注記の存在感は年々高まっていると言えます。
税理士による書面添付制度
決算書における注記と同じような機能を有しているのが、税務申告書における「税理士による書面添付制度」です。その申告書作成に関わった税理士が、特に留意をした会計処理や税務の取り扱いなどを中心に記載していきます。
本書面を作成するにあたり、税理士は企業から相談を受けたことを念頭に、企業の現状や今後の展望、会計や税務における特記事項(特に目立って計上されている費用や設備投資、人材育成に関する方針など)を含め、実に多様な内容を記載することが可能です。
書面添付制度のメリット
本制度における最大のメリットとも言えるのは、税務調査の省略です。書面添付を実施している場合、税務署は税務調査に着手する前に、税理士に対する意見聴取を行うことになっています(いわゆるマルサと呼ばれるような無予告調査などは対象外)。その意見聴取において税務署側の疑問が解決した場合、税務調査が省略される場合もあります。
税務調査は、実施されてしまうと最低でも丸一日、長い場合には数ヶ月という時間がかかります。数々の問い合わせに対応する必要もありますし、なにより精神的な負担が非常に大きいです。
書面添付制度を活用し、あらかじめ「目立っていそうな項目」について納税者側から積極的に情報を開示していくことで、無用な税務調査を防ぐことができます。また良好な書面添付は税務署側からも歓迎をされる傾向にあります。また、しっかりとした書面添付を実施していると、金融機関などに対する説明資料としても転用されていることもあるようです。
数少ない「納税者側の意見を書面にして述べる制度」として有効活用できると、企業にとって非常に心強い制度と言えます。
参考:日本税理士会連合会 書面添付制度
まとめ
注記とは決算書の数字には表れない定性的な情報について補足するための制度です。処理方法、補足情報、簿外情報などを文章で説明します。さまざまな種類の注記があり、公開会社・非公開会社の区分に応じて注記をすることが要求されています。
この注記を通じて、企業が高い評価を得たり、ときには粉飾が発覚したりするようなこともあります。
また、税理士による書面添付制度は税務申告書における注記制度のようなものです。上手に活用することで、税務調査の省略などが期待できます。
これからの企業経営において、経理担当者や関与している税理士は、その企業の事業について決算書の数字だけではなく、「言葉で説明できる力」を身につけることが求められると言えるでしょう。
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