貸倒損失で節税?貸倒損失の計上基準は
売上は伸ばしたい、でも税金が高いのは困る……多くの経営者がこのようなジレンマに悩まされます。今回はそんな悩みを解決する一助になるかもしれない「貸倒損失」を中心に取り上げていきます。
節税の基本を確認しよう
節税策と呼ばれるものの多くは、利益を減らすことにより実現されます。利益を減らすためには以下の2つの方法が考えられます。
- 売上を減らす
- 費用を増やす
「売上を減らす」のは、大概が売上隠し、つまり脱税になってしまいがちです。従って、節税策の多くは「費用を増やす」方法により実現されます。
ここで注意をしたいのは、費用を増やすためには「現預金支出を伴うことが多い」ということです。典型的な節税策である保険で考えてみると「保険料100万円を支払ったことにより、30万円の税金が安くなった」というケースなどがあります。短絡的に「30万円の税金が安くなった」ということだけではなく「現預金支出で考えれば、70万円多くお金が出ていった」ことを知っておくことが大切です。
多くの経営者が望む「お金は出て行かないけれど税金は安くしたい」ということ。そのような都合の良い方法があるのでしょうか。実は費用の中には現預金支出を伴わないものがいくつかあります。今回紹介する貸倒損失もその1つです。
貸倒損失の計上基準は?
貸倒損失とは、取引相手に対する金銭債権が回収できなくなったときに計上するものです。たとえば、以下のような例が考えられます。
- 4月30日に計上したA社に対する売上100万円が、6月30日にA社が倒産したことにより回収不能となった
借方 金額 貸方 金額 4/30 売掛金 100万円 売上 100万円 6/30 貸倒損失 100万円 売掛金 100万円 - 7月31日にB社に50万円を貸し付けたが、9月30日にB社が倒産したことにより回収不能となった
借方 金額 貸方 金額 7/31 貸付金 50万円 現預金 50万円 9/30 貸倒損失 50万円 貸付金 50万円
ここでポイントとなるのは「倒産」という言葉です。「倒産」は、法律用語ではありません。一般的な意味では事業活動の継続ができなくなった時点で倒産ということが多いようです。しかし、貸倒損失を処理する場合にはそのような曖昧な定義では問題があります。税務上、貸倒損失は次のような条件に該当したときに計上することができます。
- 会社更生法、民事再生法等の規定により債権の切り捨てが決まったとき
- 債権者集会の協議や金融機関等からのあっせん協議において、合理的基準に従い債権が切り捨てられたとき
- 相手先の債務超過が継続しており回収が見込まれず、相手に対して書面により債務免除を通知したとき
上記のような状況に該当したときには、問題なく貸倒損失を計上することができます。
実は法令では「相手先の資産状況等が悪化して全額の回収が不能となったとき」「一定期間取引が停止した後、弁済がないとき」にも計上が認められる、とされています。しかし、こちらの基準については判断基準が曖昧です。自社側の感覚で回収不能だと判断して貸倒損失を計上したが、税務署から指摘されて計上が認められなかった、という事例も存在しています。
より確実なのは1~3で紹介した基準に該当したときです。
貸倒損失は支出を伴わない費用
すでにご紹介した通り、貸倒損失は現預金支出を伴わない費用です。たとえば決算前の段階で保有している売掛金の内に、1~3の基準に従い回収不能となったものがあるとします。回収不能になったことにより損失は生じていますが、あらためて現預金の支出があるわけではありません。つまり、貸倒損失を計上することにより「お金を使わず利益を圧縮し、節税を実現することができる」のです。
より積極的に貸倒損失を活用するのであれば、3に掲げた債務免除の通知を検討すべきです。相手先の状況を考えると、明らかに回収はできそうもないのであれば、いっそのこと債務免除を書面で通知することで貸倒損失を計上して節税を図るのが良いでしょう。自分から免除を通知するのは抵抗があるかもしれませんが、免除しようとしまいと回収が見込めないのであれば、いっそのこときっぱり回収を諦めて、節税をした方が賢明ではないでしょうか。
もちろん、一番好ましいのは売掛金や貸付金の回収状況について常に確認、請求をすることにより回収不能を生じさせないことです。しかし、どれだけ管理しても回収不能は出てくるものです。至善の策が駄目なのであれば次善の策を採用する、このような思い切った選択も事業経営では必要になってきます。
まとめ
費用計上による節税策の多くは現預金支出を伴います。そんな中、貸倒損失は現預金支出を伴わない費用です。貸倒損失は税務上の基準に適合した場合に計上をすることができます。より積極的な活用を目指すのであれば、回収不能が見込まれる相手に対する債務免除の通知を検討すべきでしょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。