知らないと損する監査対応の基本 (後編)
前回に引き続き「知らないと損する監査対応の基本」をお伝えします。
監査の要点とは
前編にて、監査人は財務諸表の項目レベルでの評価のため、財務諸表を勘定科目などの構成要素に分解し、その中から定量的・定性的に重要な勘定科目を選定する、とお伝えしました。
重要な勘定科目には、たとえば、期末残高が大きい、取引量が多い、取引が複雑である、見積もりの要素が大きい、関連当事者との取引である、前期から大きく変動しているなどの特徴がある勘定科目が選ばれる傾向があります。
そしてそれぞれの勘定科目について以下のように確かめるべき目標を設定します。これらの目標は「監査要点」と呼ばれます。
監査人は会社から提出される資料を利用して、これらの監査要点を確かめようとしているのです。
- 実在性(本当に存在するのか)
- 網羅性(すべてが漏れなく計上されているか)
- 権利と義務の帰属(会社のものか)
- 評価の妥当性(適切な価額で計上しているか)
- 期間配分の適切性(正しい期間に計上されているか)
- 表示の妥当性(きちんと分類して開示されているか)
たとえば、重要な勘定科目として現預金が選ばれたとします。
監査人は貸借対照表に表示されている現預金が適正かどうかを確かめるために、その現預金は本当に存在しているのか(実在性)、全ての現預金が貸借対照表に記載されているか(網羅性)、貸借対照表に計上されている現預金は会社のものか(権利と義務の帰属)、外貨は正しく換算されているか(評価の妥当性)…というように監査要点を一つずつ確かめていくのです。
そしてそれぞれの監査要点を確認するのに適した資料を、社内の監査対応担当者に提出するよう依頼するのです。
その際、監査人が資料名のみを提示してくる場合も多々あるかと思います。しかし、依頼された通りの資料を提出しても追加で資料依頼が行われる場合などは、提出した資料と確かめようとしている監査要点が一致していない可能性があります。
そのような場合には監査人に「どういった監査要点を確かめようとしていますか?」と聞いてみると良いと思います。
監査人は監査における重要性の基準値やリスク評価を会社に教えることは禁止されていますが、効果的・効率的に監査を遂行するために、確かめようとする監査要点まで隠す必要はありません。監査対応担当者側から、積極的に疑問を投げかけ、コミュニケーションを行うことで、無駄なやりとりを最小限に抑えることができます。
監査人を上手に利用しよう
これまでの説明で、監査人は財務諸表の中から重要な勘定科目を選定し、さらにそれらを監査要点に分解して適正性を確かめているということがお分かりいただいたと思います。
監査人はそれらによって得られた証拠を総合的に判断して、最終的に意見として表明するのです。
このように書くと、監査人は会社と対立する存在のように思えるかもしれませんが、そんなことはありません。
適切に財務諸表を作成している会社であれば、監査を受けることで財務諸表の適正性について監査人からお墨付きをもらうことができるのですから、監査人と対立し無駄な監査コストを上げるよりも、彼らと協力し効率的に監査を進めたほうが得策です。
そのための方法として監査人に確かめようとしている監査要点を確認した上で資料を提供するということを先ほどは述べました。
また、期末の監査時点だけではなく、期中においても監査人を上手に利用することで、監査コストを抑えることもできます。
たとえば、期中において新たな設備を購入しようとしているとします。この時、減価償却方法や耐用年数の決定といった旧来からある論点はもちろん、現在では資産除去債務の見積もりなどのように新しい会計基準による新たな論点についても適切に対応しなければなりません。
この時、社内の知識・経験だけで対応しようとすると限界があり、会計処理を決定するのに時間もコストもかかってしまいます。また、期末監査の時点で会社の会計処理が否認されてしまっては元も子もありません。
そこで、新しい取引の発生や、新しい会計基準への対応が必要と見込まれる場合には、なるべく早く、できれば事前に監査人に相談することをお勧めします。
監査人には独立性が求められていますので、最終的な決定は会社が行わなければなりませんが、日々の業務において多くの類似例に接している監査人の知見を取り入れない理由はありません。
監査人も人間ですから、新しい取引の処理についてまったく知らされないまま、期末時点に初めて発覚したとしたらクライアントに対する不信感も高まるでしょうし、監査を厳格化しなければという気持ちにもなるのではないでしょうか。
監査人も本音では会社に適切な会計処理をしてもらって、なるべく効率的に監査を終え、無事に無限定適正意見を出したいと思っています。
まとめ
適正な会計処理が担保されている限り、会社と監査人の利害は相反するものではないと思います。監査人を上手に利用して、監査コストの削減に取り組んでみてはいかがでしょうか。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。