自己資本比率は50%あれば優良?平均値から見る目安と改善方法を解説!
自己資本比率とは会社の財務状態の健全性を計る指標の一つです。総資本のうちに自己資本の占める割合をいいます。自己資本比率が高いことは財務状態の健全性が高いことを意味するので、財務状態の健全性を保つためには自社の自己資本比率を随時チェックするようにしましょう。
この記事では、自己資本比率の定義、使い方、改善の方法を紹介したあと、自己資本比率の目安と他の指数との関係について解説します。
自己資本比率とは
自己資本比率は企業の財務状態の健全性を測る数字の一つで、次の式で計算されます。
<計算式>
計算式のとおり、自己資本比率とは総資本のうち自己資本の占める割合で計算されます。この「総資本」とは貸借対照表の負債・純資産の部の総額のことであり、言い換えると会社が事業のために集めたお金と、過去の利益のうち内部留保していた金額の合計額です。
このうち、負債の部は借入金や買掛金など、いつか返済しなければならないお金です。これに対し、純資産の部の中心は株主から出資を受けた金額と過去の利益のうち内部留保していた金額であり、これらはいずれも返済する必要はありません。
つまり、自己資本比率とは、事業のために集めたお金と過去の利益の内部留保のうち、返済不要なものがどのくらいあるかの割合であると言い換えることができます。当然のことながら、返済不要なお金の割合が高ければ高いほど企業の財務状態は安定していると言えます。
自己資本比率の「自己資本」とは
純資産の部は、以下によって構成されています。
- 株主資本
- 評価換算差額等
- 新株予約権
このうち、自己資本比率の自己資本にあたるのは、一般的に新株予約権以外の合計です。「新株予約権」とは、特定の相手に株式を一定の価格で購入できる権利を与えたもので、株主資本とは区別されます。
また、このうち「評価換算差額等」とはその他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益などの合計額で、「株主資本」とは資本金、資本剰余金及び利益剰余金の合計額のことです。
自己資本比率の使い方
自己資本比率は、企業の財務分析に利用されます。自社が外部からどう見えるかを知るための数字となったり、競合他社との比較によって安全性確保の目安としたりすることも可能です。特に、同規模あるいは同業種の他社よりも自己資本比率が低い場合は、自社の借入と返済のバランスを見直すことで倒産リスクを回避することに繋がります。
自己資本比率の目安は何%?
自己資本比率の目安は、20%~50%あれば普通、50%を超えれば高いと考えてよいでしょう。シンプルに考えると、自己資本比率50%とは返さなければならないお金と返さなくて良いお金が半々の状態です。半々であれば、会社がつぶれることはありません。
ちなみに、中小企業実態基本調査によると、平成28年度決算から算出した中小企業の自己資本比率は40.08%(※)という結果でした。
(※)経済センサス基礎調査をもとに、合計11業種に属する中小企業から調査対象約11万社を抽出して実施された調査。
(参考)中小企業庁「平成29年中小企業実態基本調査速報(平成28年度決算実績)」より
自己資本比率を見るときのポイント
会社の安全性は、自己資本比率に加えて資産と負債の内容から総合的に判断します。ここでは、自己資本比率が高いとき・低いときに、資産と負債について見るべきポイントをご紹介しましょう。
自己資本比率が高いとき
自己資本比率が50%を超えるような安全性の高い会社であっても、資産のうち現金や普通預金の額が少ない場合は注意が必要です。資産の多くが長期前払費用や長期貸付金のような現金化ができない(あるいはすぐにできない)資産だと、突発的な支払が発生したときに現金が不足してしまう可能性があるからです。現金が不足すれば、新たな借入を行うことになります。
また、自己資本比率が高いということは、事業で新規の投資を行っていないという見方もできます。売上高が安定していれば問題ありませんが、徐々に減少している場合は注意が必要です。
自己資本比率が低いとき
自己資本比率が低い会社は安全性に注意が必要ですが、負債の内容も確認しましょう。負債の多くが短期借入金(1年以内に返済が見込まれるもの)であれば、翌期には自己資本比率は上がるはずです。したがって、それほど問題視する必要はありません。
自己資本比率の改善方法
自己資本比率の向上は、企業が将来に渡り安定経営を続けるためにも着手すべきものといえます。向上のための方法は、「総資本を減少させる」または「自己資本を増やす」こと、この二つのいずれかです。
総資本を減少させる
総資本を減少させるには、負債合計を減らす必要があります。減らすべき負債の代表例は借入金です。たとえば、使っていない土地や建物といった不動産を売ったり、滞留している売掛金を第三者へ譲渡したりなどの手段で現金を確保し、この現金を元手に早期に借入金を返済すると、負債合計を減らすことができます。その場合、資産が減少しすぎないように、資産と負債のバランスも図りながら行わなくてはなりません。
自己資本を増加させる
自己資本を増加させる場合の方法としては、増資をして資本金を増やすのが一般的となっています。また、利益を確保して内部留保(利益剰余金)を増やすことがおすすめです。
上記のほか、長く計上されたままの売掛金の処理も検討しましょう。売掛金は本来、一定期間で回収されるべきものです。回収見込みのない不良債権は、適切に処理することが望ましいでしょう。
自己資本比率の目安とポイント
自己資本比率を知ることは、企業の経営状況を判断する材料のひとつとなります。では、具体的にどのくらいの比率でどのような判断となるのか、比率の目安とポイントについて、業種ごとに解説していきます。
まずは、自己資本比率の一般的な目安は次のとおりです。
- 自己資本比率40%から50%まで・・・・・・おおむね安定
- 自己資本比率50%から70%まで・・・・・・優良
- 自己資本比率70%以上・・・・・・非常に優良
業種によって多少の増減はありますが、おおよその目安の自己資本比率が30%、できれば40%以上であることが望ましいとされます。
財務省が発表した令和2年1月~令和3年3月期の法人企業統計調査によると、資本金別の自己資本比率は次のとおりです。なお、下記の表は全産業の統計です。
(単位:%)
区分 | 令和2年 1~3月期 | 4~6月期 | 7~9月期 | 10~12月期 | 令和3年 1~3月期 | 4~6月期 |
---|---|---|---|---|---|---|
資本金10億円以上 | 44.5 | 44.3 | 44.0 | 43.3 | 43.3 | 43.6 |
1億円から10億円 | 42.8 | 41.9 | 42.1 | 41.7 | 42.5 | 43.7 |
1,000万円から1億円 | 42.6 | 42.8 | 42.0 | 41.2 | 42.0 | 38.5 |
令和2年以降の場合、新型コロナウイルスなどの影響もあるため、それ以前の自己資本比率を確認しておくことも重要になります。平成27年~令和元年の自己資本比率は、下記の通りです。
(単位:%)
区分 | 平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | 平成30年 | 令和元年 |
---|---|---|---|---|---|
資本金10億以上 | 45.0 | 44.8 | 45.2 | 45.5 | 44.8 |
1億から10億 | 39.2 | 39.9 | 40.2 | 42.0 | 42.7 |
1,000万円から1億 | 37.9 | 38.3 | 41.0 | 41.2 | 42.8 |
2015年以降は、資本金の規模にかかわらず自己資本比率が高まっていましたが、令和2年以降はわずかに低くなっているようです。
次に、業種ごとの自己資本比率の目安について、中小企業庁が発表する平成28年~平成30年までの中小企業実態調査をもとに確認していきます。
(単位:%)
業種 | 平成28年 | 平成29年 | 平成30年 |
---|---|---|---|
サービス業(その他) | 45.88 | 42.48 | 48.29 |
生活関連サービス業・娯楽業 | 34.26 | 35.98 | 34.00 |
宿泊業・飲食サービス業 | 16.71 | 21.17 | 20.16 |
学術研究・専門記述サービス業 | 56.65 | 59.92 | 56.44 |
不動産業・物品賃貸業 | 33.23 | 36.83 | 39.07 |
小売業 | 38.06 | 36.30 | 32.13 |
卸売業 | 39.69 | 38.11 | 40.45 |
運輸業・郵便業 | 35.79 | 35.49 | 34.11 |
情報通信業 | 57.28 | 54.33 | 56.10 |
製造業 | 45.95 | 45.66 | 45.33 |
建設業 | 39.27 | 40.87 | 43.71 |
上記の調査結果からも読み取れる通り、業種によって自己資本比率は異なっています。宿泊業など固定資産や設備投資が多い業種では、自己資本比率が低く抑えられる傾向があります。一方で、情報通信業などIT系の企業の場合は、大掛かりな設備投資が少なく自己資本比率は高くなる傾向です。
全産業において良好といえる比率の目安は40%程度ですが、業種によって自己資本比率は異なるため一概にはいえません。個々に「良好な比率」を判断していく必要があるでしょう。
自己資本比率と他の指数との関係
自己資本比率は、自己資本÷総資本の割合から計算されますが、この逆数を財務レバレッジといいます。
<計算式>
これは自己資本に対し、どのくらいのお金を事業に使っているかを表す指数です。自己資本比率が低い会社ほど、財務レバレッジは高くなります。「財務レバレッジは上げない方がいいのでは」と思うかもしれませんが、財務レバレッジが上昇することによって別の指数が上がります。それが、ROE(自己資本利益率)です。このROEは、自己資本に対してどれくらい効率的に利益を上げているかを測る指数、つまり会社の収益性をみる指数になります。
<計算式>
これを分解すると、以下のような計算式になります。
(※)ROA(総資産利益率)・・・当期純利益 ÷ 総資産 × 100
ROEやROAがどのような指数かは、こちらの記事をご覧ください。
経理プラス:ROAとROEの違いとは 計算方法と収益性分析の指標を確認しよう
自己資本比率と自己資本利益率の関係
自己資本比率とROEは、トレードオフの関係にあります。
たとえば以下のような会社では、自己資本比率が25%と50%の場合、ROEは次のように変化します。
- 総資産が80万円
- 当期純利益10万円
<自己資本比率が25%の場合>
総資産80万円(うち自己資本20万円)、当期純利益10万円
- 自己資本比率・・・25%(20万円 ÷ 80万円 × 100)
- ROE・・・50%(10万円 ÷ 20万円 × 100)
<自己資本比率が50%の場合>
総資産80万円(うち自己資本40万円)、当期純利益10万円
- 自己資本比率・・・50%(40万円 ÷ 80万円 × 100)
- ROE・・・25%(10万円 ÷ 40万円 × 100)
まとめ
自己資本比率は高いほど安全性が高まりますが、会社が効率よく稼げているかどうかを表す指数は下がります。自己資本比率が高いことは良いことですが、自己資本比率が高くて会社の売上高の減少が続いている場合は、事業拡大や販路開拓の分岐点にきているのかもしれません。
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