請求書に発行義務はある?インボイス制度での変更点や注意点について

請求書に発行義務はある?インボイス制度での変更点や注意点について

商品やサービスの取引を行った場合に発行する請求書。会社では普段、何気なく発行したり受け取ったりしているかもしれません。では、そもそも請求書を発行する義務はあるのでしょうか?また、2023年10月1日より開始されるインボイス制度では、適格請求書(インボイス)という新たな形式の請求書が導入されます。本記事では、請求書の発行義務の有無を確認した上で、インボイス制度のもとでの変更点や注意点を解説していきます。

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請求書の発行義務についての基礎知識

まずは請求書一般の発行義務の有無や必要性について考えてみましょう。

請求書に発行義務はある?

会社や個人事業主などの事業者が商品やサービスを販売した場合、特に事業者間の取引においては、代金を回収するために請求書を発行することが一般的です。しかし、発行する義務があるかというと、法律上は請求書の発行義務は定められていません。実際のところ、小売店やレストランのように商品やサービスの売手と買手が同じ場所にいる状況では、請求書の発行なしに客が支払いを行い、それに対して領収書やレシートを発行することが一般的です。

請求書に発行義務がなくても、発行したほうが良い理由

それでは、なぜ請求書を発行することが一般的になっているのでしょうか。簡単にいうと、商品やサービスの取引が行われた事実やその内容・金額を取引当事者双方に明示的に示すためです。これにより取引の事実に客観性を持たせるとともに、当事者間の認識を明確にできます。また、特に大企業の場合や取引額が大きい場合には、客観的な書面なしに支払いをすることは難しく、事実上は請求書の発行が求められることになります。

このように、支払いを適切に行うために請求書は重要ですが、取引当事者の認識の相違によるトラブル防止にも役立ちます。請求書があることにより、支払い忘れを防止できますし、当初は口頭で合意していた事項を備考欄などに記載しておけば、取引内容の細部に関する認識の齟齬を防止することも可能です。

請求書に有効期限は存在する

民法の規定により、請求書の有効期限は発行日から5年間と解釈されています。2020年の民法改正前は2年だったため、2020年3月までに発行した請求書は有効期限が2年であるのに対し、2020年4月以降に発行した請求書は有効期限が5年というのが基本的な考え方になります。

有効期限内の未払いの請求書については、取引先に内容証明郵便で督促状を送付できます。このように催告を行えば、催告時から6か月間は債権の時効が成立しないため(民法150条第1項)、請求書の有効期限を2年または5年より延ばすことが可能です。

インボイス制度導入で請求書の発行義務はどう変わる?適格請求書(インボイス)発行事業者に登録した際の注意点

2023年10月1日からは、インボイス制度が導入されます。インボイス制度によって、請求書の発行義務はどう変わるのでしょうか。また、どんな点に留意が必要になるのでしょうか。

インボイス制度とは?

インボイス制度とは、原則として適格請求書(インボイス)の受領を一定期間受領することで消費税の仕入税額控除を認める制度です。正式名称は「適格請求書等保存方式」といいます。制度導入後、請求を受ける側が仕入税額控除を適用するには、原則として適格請求書が必要になります。これにより、消費税申告時の端数計算の方法も少し変わることになります。

なお「原則として」と書いたのは、インボイス制度の導入当初は経過措置が認められているためです。経過措置の内容は、以下のQ&AのQ3で解説します。

インボイス制度の導入で請求書の発行義務はどう変わる?

適格請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者として登録している事業者のみです。適格請求書発行事業者の登録をするには、税務署に登録申請書を提出する必要があります。令和5年度税制改正大綱により、2023年10月1日から適格請求書発行事業者になるには、2023年9月30日までに登録申請すればよいことになっています。

また、適格請求書発行事業者の登録申請を行うには、消費税の課税事業者でなくてはいけません。簡易課税制度を利用している課税事業者も登録が可能です。免税事業者が適格請求書を発行するためには、課税事業者になるとともに、適格請求書発行事業者の登録を行う必要があります。

インボイス制度のもとでは、適格請求書発行事業者が取引先から適格請求書の交付を求められた場合には交付の義務があります。区分記載請求書等保存方式のもとでは、そのような義務は消費税法に明記されておらず、より厳格な制度に移行することになります。

インボイス制度のもとでの留意事項は?

インボイス制度において、自社が相手方に交付した適格請求書の記載に誤りがあった場合、修正インボイスの交付が必要です。国税庁のQ&Aでは、以下の2つの修正方法が例示されています。

  • 誤りがあった事項を修正し、改めて記載事項の全てを記載したものを交付する方法
  • 当初に交付したものとの関連性を明らかにし、修正した事項を明示したものを交付する方法

また、値引き・返品・割戻しなどの売上にかかる対価の返還などが行われる場合には、返還インボイスを交付する必要があります。

適格請求書発行事業者は、交付した適格請求書の写しを保存する義務があります。交付したインボイスの記載事項が確認できるものであれば、書類そのもののコピーではなく、複数の適格請求書の記載事項に係る一覧表などの保存も認められます。 保存期間は、交付した日を含む課税期間の消費税申告期限から7年間です。

適格請求書を電磁的に作成した場合は、電子データで保存することもできます。電子帳簿保存法により、2024年1月からは電子取引の電子保存が必要になります。法人税や所得税において求められる電子帳簿保存法への対応ができていれば、適格請求書の電子保存も対応でき、経理業務の効率化が期待できます。

出典:政府広報オンライン 令和5年10月からインボイス制度が開始! 事業者が進めておきたい準備とは?

請求書に必要な記載事項

以下では、請求書に記載する必要がある事項に関して、それが複数税率の導入でどう変わったか、そしてインボイス制度でどう変わるのかを解説します。

すべての請求書に記載すべき必須項目

消費税の仕入税額控除の要件として、原則として以下の事項を記載した請求書が必要です。

  • 発行者の氏名または名称
  • 取引年月日
  • 取引内容
  • 税込みの取引金額
  • 発行相手の氏名または名称

複数税率の存在で加わった請求書の記載事項

2019年10月1日から導入された軽減税率制度により、請求書に複数税率の区分表示が必要になるケースが生じました。このように、複数税率を区分記載した請求書を区分記載請求書といいます。

区分記載請求書は、インボイス方式導入前の2023年9月30日まで用いられます。通常の請求書に加えて、記載が必要となっている項目は以下の通りです。

  • 軽減税率が適用される品目については、軽減税率が適用される旨
  • 適用される複数の税率と、税率ごとに区分表示した対価の合計額(税込み)

2023年10月1日以降

上記に加え、2023年10月1日以降の適格請求書に記載が必要となる項目は以下の通りです。

  • 適格請求書発行事業者の登録番号
  • 適用される税率ごとに区分表示した消費税額

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インボイス制度のもとでは適格請求書の交付・受領がとても重要に

以上より、 2023年10月1日から導入されるインボイス制度での重要な変更点をまとめると、次のようになるでしょう。

  • 適格請求書発行事業者には適格請求書の交付義務がある。
  • 適格請求書発行事業者でなければ、適格請求書を交付できない。
  • 買手側は、適格請求書を受領しなければ原則として仕入税額控除を受けられない(経過措置は以下のQ3を参照)。

適格請求書の交付の有無が仕入税額控除の可否に直結する(=買手側の事業コストに影響する)ため、インボイス制度開始後は、適格請求書の発行や受領が非常に重要になります。

請求書についてのQ&A

最後に、請求書に関してよくある質問に答えていきます。

Q1.請求書と領収書の違いは?

請求書は、物やサービスの対価の支払いを請求する書類です。それに対して、領収書は物やサービスに係る代金を領収したことを示す書類となります。支払いをした者が領収書の発行を求めた場合、相手方は発行することが民法上の義務となっています。民法上、請求書の発行義務はありません。

Q2.請求書と支払通知書の違いは?

請求書や領収書は、物やサービスを販売する側が発行します。これに対して、支払通知書は支払う側が発行するものです。主に事業者間取引において、相手方に支払いを事前通知するために発行されます。支払通知書の発行義務はありませんが、双方の管理上の便宜のために発行することがあります。

Q3.課税事業者は適格請求書発行事業者に登録する必要がある?

登録は必須ではありません。ただし、登録しなければ適格請求書を発行することができず、原則として取引先は仕入税額控除を受けられないことになります。したがって、課税事業者が取引先に迷惑をかけないためには、適格請求書発行事業者に登録することを検討すべきと言えるでしょう。

ただし、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。経過措置の内容は、次のとおりです。

  • 2023年10月1日から2026年9月30日まで / 仕入税額相当額の80%を控除可能
  • 2026年10月1日から2029年9月30日まで / 仕入税額相当額の50%を控除可能

なお、この経過措置の適用を受けるためには、「80%控除対象」など、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を帳簿に記載する必要があります(書き方についての厳格な指定はありません)。

Q4.インボイス制度開始以降で、免税事業者が発行する請求書の取り扱いはどう変わる?

免税事業者は、適格請求書を発行することはできません。その意味では、免税事業者にとっての取扱いは何ら変わりません。しかしながら、免税事業者の請求書を受け取った側に違いが生じます。適格請求書でなければ、仕入税額控除を受けられなくなるからです。

以上を踏まえると、免税事業者は、適格請求書発行事業者に登録し適格請求書を発行することを取引先から求められる可能性があります。

Q5.適格請求書発行事業者かどうかの確認はできる?

国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認できます。13桁の登録番号を検索画面に入力すると、番号に該当する適格請求書発行事業者の名称が表示されます。

なお、取引先の会社名のみでは登録の有無を確認できないため、取引先から登録番号を入手する必要があります。また、取引先から適格請求書を受け取った後であれば、適格請求書に記載されている登録番号をもとに、取引先が本当に適格請求書発行事業者であるかの確認も可能です。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

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※:デロイト トーマツ ミック経済研究所「クラウド型経費精算システム市場の実態と展望」(ミックITリポート2022年9月号:https://mic-r.co.jp/micit/)より

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監修 公認会計士 村上 カツ

村上カツ様写真

公認会計士。大卒後、一般企業に4年間勤務した後、大手会計事務所で勤務。外資系企業の不動産投資スキームに係る税務アドバイスや申告を中心に経験。 その後、系列の海外事務所にて、日系企業のための税務DDや法人税・間接税のアドバイスを実施。