包括利益の表示が義務化?当期純利益との違いや計算方法を知ろう

包括利益の表示が義務化?当期純利益との違いや計算方法を知ろう

包括利益の表示を財務諸表に取り入れることが、企業においても進められています。しかし、包括利益とはどのようなものなのか、経理担当者でも知識として不安に感じている人が多いのではないでしょうか。
今までの損益計算書で利益を表すものは当期純利益が一般的でした。しかし、包括利益は当期純利益も含んだ企業の利益という捉え方になるわけです。今回は、包括利益の概要や当期純利益との違い、計算方式などについて詳しく見ていきましょう。

包括利益とは

包括利益とは、純資産の変動額の中で、持分所有者と直接の取引によらないものも含むもので、「当期純利益」+「その他の包括利益」の合計を指しています。この「その他の包括利益」とは具体的にはどのようなものか、株式を例にしてみましょう。

株式は所有する株価が上昇したときには、株式自体の価額が上がり利益を含んだ状態になります。しかし、実際に利益として確定されるのは、株式を売却し売却益が発生したときです。

つまり売却前は、利益が出るのではないかという予測を含んだものになっているわけです。このような含み益が、「その他の包括利益」となり、次の5つの項目に分けられます。

  • その他有価証券評価差額金
  • 保有している株式や債券などの有価証券になります。時価の評価によって生ずる含み利益を計上します。

  • 為替換算調整勘定
  • 海外の子会社を所有している場合に、財務諸表を円に換算するときの為替レートによって生ずる利益を計上します。

  • 退職給付に係わる調整額
  • 退職金のために備えている分について、将来的に給付されるときに負債として生ずるものとして計上します。

  • 繰延ヘッジ損益
  • 時価評価となっているヘッジに係わる損益や評価差額が、利益が確定されるまで繰延されたときに計上するものです。

  • 保有土地の時価差額
  • 保有している土地を時価で再評価したときに、当初より含み利益が出る見込みとなるものを計上します。

包括利益と当期純利益の違い

損益計算書(P/L)内にある包括利益と当期純利益には、どのような違いがあるのでしょうか。先にも述べた通り、P/L内では、「当期純利益」+「その他包括利益」が「包括利益」になっています。

当期純利益は、会社の1年間の売上から必要経費や支払うべき税額を差し引いたもので、最終的にいくらの利益が残ったのかという「利益」の部分です。一般的に認識されている利益のことです。

「その他の包括利益」は、有価証券など純資産の増加分であり「含み益」の部分です。含み益は、実際に利益として確定しているものではない点が当期純利益との違いになるでしょう。

包括利益で分かること

国内の会計基準では、従来は当期純利益だけのP/Lでしたが、ここ最近は国際会計基準で求められている包括利益を取り入れたP/Lになっている傾向もあります。

P/Lに包括利益を取り入れるメリットのひとつとして、会社の経営上の利益が、時価変動によって純資産がどのくらい影響をうけているかを把握できる点があります。

以前から国内のスタンダードとされてきた当期純利益のみでは、会社の営業活動を通した事業利益の増加だけしか把握することはできませんでした。しかし、「その他の包括利益」を加えて包括利益を表示することにより、市場の動向にも沿ったより広い範囲をP/L内で表すことができるのです。

包括利益の計算方法を詳しく解説

最後に、包括利益の計算方法について確認していきましょう。計算書は次の「1計算書方式」と「2計算書方式」とどちらかを選択することができます。

<1計算方式>
当期純利益の表示と包括利益の表示を1つの計算書で行う方式となります。

売上高6,000
******
当期純利益800
<その他の包括利益>
その他有価証券評価差額金130
繰延ヘッジ損益70
その他包括利益合計200
<包括利益>
包括利益1,000

<2計算方式>
当期純利益を表示する損益計算書と包括利益を表示する包括利益計算書の2つで行う方式となります。

<損益計算書>
売上高6,000
******
当期純利益800

<包括利益計算書>
当期純利益800
その他包括利益
その他有価証券評価差額金130
繰延ヘッジ損益70
その他包括利益合計200
<包括利益>
包括利益1,000

「その他の包括利益」に関するものは、区分して表示されることになりますが、その利益の構造については以下の図を参考にしてみてください。

資産負債
純資産
資本金
資本準備金
利益余剰金
その他包括利益

なお、2019年9月の段階では、包括利益の表示は財務諸表での義務付けにはなっていません。国際基準での会計が求められる企業でなければ、まだ適用には至っていない企業も多いようです。しかし、将来的には義務付けになる可能性もあります。

まとめ

今回は、国際基準の会計となる包括利益について、概要や当期純利益との違い、「その他包括利益」の内訳、「包括利益」の計算方式などについてお伝えしました。
一般的な利益として捉えていた当期純利益とは異なり、市場性を加味した考え方が「包括利益」です。純資産に対する市場を反映することで、より広い見方で分析をすることもできるようになるでしょう。
「その他包括利益」については、勘定からの拾い出しについてチェックミスがないよう経理担当者は注意して進めるようにしましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 渡部 彩子

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大学卒業後、自動車関連の社団法人にて10年以上に渡り管理部門に在籍。経理・総務・人事の実務を経験し、同法人在籍中に日商簿記2級を取得。その後、保険・金融業界での経理業務の経験を経て、ライターとして独立。これまでの実務経験を元に経理業務をテーマとしたコンテンツ制作を中心に執筆。