法人税の「納税充当金」とは 基本と留意点

法人税の「納税充当金」とは 基本と留意点

納税充当金という言葉をご存知でしょうか。「見慣れているような気もするし、見たことがないような気もする」という方が多いのではないでしょうか。納税充当金とは、税法上の用語であり、法人税の確定申告の実務に携わらない限り、経理担当の方であってもあまり馴染みがない言葉かもしれません。今日はこの納税充当金について、基本的理解を確認していきます。

納税充当金の基本

納税充当金は税法上の用語であり、会計上の「未払法人税」に当たる概念です。法人税を計算するとき、会計上の利益の金額をベースにして課税所得を算出します。会計上、未払法人税は費用として収入から控除されますが、税法上は損金不算入とすべき支出ですので、控除する必要があります。
具体的には確定申告書の別表の中に、納税充当金という表現が登場します。経理担当者の方にとって、未払法人税という科目は会計上携わる機会が多く、馴染みが深いものですが、税務と経理の分業体制が一般的な中にあって、納税充当金という言葉に対する理解が薄い方も多いかと思います。
以下に、納税充当金に関わる実務について、ご紹介します。本題に入る前に、前提知識として税効果会計の概念をおさらいしていきましょう。

税効果会計とは

税効果会計とは、「企業会計上の資産または負債の額」と「課税所得計算上の資産または負債の額」に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(=法人税等)の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続きです。

企業会計における税引前当期純利益と課税所得の金額には、その算定目的、算定方法の相違により通常差異が生じることから、税金費用を納税額方式で算出した法人税等のままにしておくと、税引前当期純利益の額と法人税等の額が対応しなくなります。これを合理的に対応させる手続きが、税効果会計なのです。

企業会計における収益または費用の計上時期と、税法での益金または損金算入時期の相違による期間差異(一時差異)と、これに該当しない永久差異とがあります。これらのうち、税引前当期純利益の額と法人税等の額の合理的対応のための調整ができるのは、「期間差異(一時差異)のみ」であることに注意が必要です。

一時差異には、当該一時差異が解消する時に、その期の課税所得を減額する効果を持つ「将来減算一時差異」と、当該一時差異が解消する時に課税所得を増額する効果を持つ「将来加算一時差異」があります。

納税充当金に係る経理・税務の留意点

税効果会計基準には、個別財務諸表での一時差異の生じる場合として、

  1. 収益又は費用の帰属年度が相違する場合
  2. 資産の評価替えにより生じた評価差額が直絶資本の部に計上され、かつ課税所得の計算に含まれていない場合

がありますが、多くの場合発生するのは「1」によるものです。

この「1」の要因によって生じる一時差異は、確定申告書上において、そのすべてが「別表四」と「別表五」の明細書に記載される必要があります。

なお、別表四は税務上の損益計算書、別表五は税務上の貸借対照表と解釈できます。
別表四が税務上の損益計算書であるのは、法人の確定した決算により損益計算書に計上された当期純利益をもとにして所得金額を算出する明細書であることに由来します。その算出過程で処分欄の留保に記載されたものは、利益積立金額に変動を生じさせることから、これらを同時に、別表五(一)の当期中の増減または当期利益処分等による増減に記載されます。

今回テーマである「納税充当金」という言葉も、これらの別表明細の中に登場する言葉です。
冒頭で、「納税充当金とは、会計上の未払法人税に対応する概念である」と説明しましたが、上述の税効果会計との対応を理解いただけた方は、少しずつイメージが湧いてきたのではないかと思います。

企業が決算において、当期利益に係る法人税、住民税及び事業税の見積額を控除し、税引後の当期利益を計上するとき、法人税及び住民税は税法上損金不算入です。また、仮に事業税のように損金性が認められるものであっても、当期分は中間申告したものを除いて当期の損金とは認められません。そのため、法人税、住民税及び事業税については、申告書の別表四で記載しなければならないのです。

同時に、別表五(二)の繰入額と取崩額の欄に適切に記載することが求められます。たとえば、会計上、将来的に支払い法人税等を未払法人税等の科目で立てる場合、以下のような仕訳となります。

(仕訳の例)

借方金額貸方金額
法人税・住民税及び事業税xxx未払法人税等xxx

また、たとえば、会計上、法人税等を普通預金で納税した場合、すなわち未払法人税等を消去する仕訳を切る場合、以下のような仕訳となります。

(仕訳の例)

借方金額貸方金額
未払法人税等xxx普通預金xxx

納税充当金の概念について解説してきましたが、税効果会計の概念を理解されている経理担当者の方は、容易に理解頂ける内容であることがお分かりいただけたかと思います。

まとめ

ここまで、納税充当金と税効果会計の概念についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
とくに納税充当金は、経理担当者の方にとって馴染みの深い税効果会計と、切っても切り離せない関係にあることがお分かりいただけたかと思います。
経理と税務を分業されておられる会社の担当者の方にとっては、お互いの領域の仕組みがどのようにリンクしているのか、イメージしていただく良い機会になったのではないでしょうか。

明朗な経理処理に基づき、期間損益に照らした正しい申告と納税を徹底することは、企業の屋台骨を支える守りの機能だけでなく、新規事業立上げに打って出るときや、既存事業領域の見直しを行う際に戦略を考察するための重要な前提条件になるという意味で、攻めの機能という側面も持っています。
そうした意味で経営機能の中枢を担っていくために、納税充当金、税効果会計の理解を確認する助けになれば幸いです。ぜひ、今回ご紹介したポイントを経理業務に活かしてみてください。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。