ヘッジ会計に関する会計基準 ―適用要件や具体的な方法―

ヘッジ会計に関する会計基準 ―適用要件や具体的な方法―

「ヘッジ会計」という言葉を聞いたことはありますか?金融商品を扱う業務に携わっておられる方はご存知かと思いますが、少々複雑で取っつきにくい印象をお持ちの方も多いと思います。
今回は、ヘッジ会計について基本的理解を確認した上で、ヘッジ会計を適用する要件や具体的な方法をご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

ヘッジ会計とは何か

金融商品会計基準では、「デリバティブ取引により生じる正味の債権および債務は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は、原則として当期の損益として処理する」とされていますが、ヘッジ目的でデリバティブ取引を行っている場合、デリバティブの評価差額は当期の損益として処理をするのではなく、ヘッジ会計が適用されます。

参考:(公)財務会計基準機構 「企業会計基準第 10 号 金融商品に関する会計基準 」

企業が保有している資産・負債は、市場価格変動、金利変動、為替相場変動等のリスクに晒されています。そのため、これらの変動に伴う損失発生を回避すべく、デリバティブなどを利用することがあるのです。企業が保有する資産・負債が時価評価されるものなのであれば、デリバティブを時価評価し、両社の評価差額を当期の損益として処理することで、そのヘッジ効果は同一会計期間の財務諸表に反映されることになります。

しかし、相場変動等の影響による評価差額が財務諸表に反映されない資産・負債をヘッジ対象とするヘッジ手段たるデリバティブについて、原則どおりに時価評価し、その評価差額を当期の損益として処理を行うと、ヘッジ効果が財務諸表に反映されないことになります。そのゆえ、ヘッジ対象およびヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を財務諸表に反映させるヘッジ会計が必要となるのです。

ヘッジ取引の種類

ヘッジ取引は、ヘッジ対象が相場変動等による損失の可能性に晒されています。そのため、ヘッジ対象とヘッジ手段のそれぞれに生じる損益が互いに相殺されるか、もしくはヘッジ手段によってヘッジ対象のキャッシュフローが固定化され、その変動が回避される関係になければなりません。

それでは、具体的にどのようなヘッジ取引が存在するのか、その種類をみていきましょう。

  • 価格変動を相殺するヘッジ取引
    ヘッジ対象が相場変動リスクに晒されており、なおかつ、ヘッジ対象の相場変動とヘッジ手段の相場変動の間に高い相関関係が存在し、ヘッジ手段がヘッジ対象の相場変動リスクを減少させる効果を持つ取引のことをいいます。
  • キャッシュフローを固定するヘッジ取引
    ヘッジ対象がキャッシュフロー変動リスクに晒されており、なおかつ、ヘッジ対象のキャッシュフローとヘッジ手段のキャッシュフローとの間に高い相関関係が存在するときに、ヘッジ手段がヘッジ対象のキャッシュフロー変動リスクを減少させる効果を持つ取引のことをいいます。

ヘッジ会計の適用要件

「金融商品会計基準第五.三」では、ヘッジ会計の適用要件は以下のように規定されています。

  1. ヘッジ取引の要件
    ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、取引時に、次のいずれかによって客観的に認められること。

     

    (1)当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認できること
    (2)企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定および内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること

  2. ヘッジ取引時以降の要件
    ヘッジ取引時以降において、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される状態、またはヘッジ対象のキャッシュフローが固定され、その変動が回避される状態が引き続き認められることによって、ヘッジの効果が定期的に確認されていること。

少々堅苦しく、抽象的な表現で分かりにくいですが、要するに、「事業活動におけるヘッジの対象とする資産・負債、予定取引にどのようなリスクがあり、それらのリスクをどのようなヘッジ手段で解消していくのかを、社内規程などで明確にしておきなさい」ということです。また、企業は、指定したヘッジ関係について、ヘッジ取引時以降も継続して、高いヘッジ有効性が保たれていることを、その都度確認することを求めています。

ヘッジ会計の具体的方法

繰延ヘッジ(原則的方法)

繰延ヘッジとは、ヘッジ手段に係る損益または時価評価による評価差額を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで、資産または負債として繰り延べる方法です。

ヘッジ手段に係る損益または評価差額を繰り延べる場合、繰延損失は資産、繰延利益は負債とし、その流動・固定区分はヘッジ対象資産・負債の流動・固定区分に応じ、それぞれの総額をもって貸借対照表に表示されます。ただし、流動・固定区分内で繰延損失と繰延利益を相殺して総額表示できるものの、総裁前の総額を注記しなければなりません。

また、予定取引をヘッジ対象としている場合は、予定取引実行時に取得する資産または発生する負債の流動・固定区分に応じて表示をしますが、予定取引発生時に資産の取得や負債の発生を伴わない取引については、予定取引の発生予定時期が貸借対照日後1年以内か、それ以降かによって、流動・固定区分を行います。

ヘッジ対象とされた予定取引が、損益が直ちに発生するものである場合は、当該取引実行時に繰延ヘッジ損益を当期の損益として処理します。ヘッジ対象とされた予定取引が、棚卸資産や有形固定資産などの資産の購入である場合、繰延ヘッジ損益は取得した資産の取得価額に加減する処理を行います。

時価ヘッジ(例外的方法)

ヘッジ対象である資産または負債の相場変動を損益に反映できる場合には、ヘッジ手段に係る損益または時価評価による評価差額を、ヘッジ対象である当該資産負債に係る損益と同一の会計期間に認識するという方法です。

時価ヘッジが適用されるのは、ヘッジ対象の時価を貸借対照表価額とすることが認められるものに限定されます。そのため、金融商品会計基準の規定との関係から、時価ヘッジの対象となり得るのは「その他の有価証券」のみと言えるでしょう。

金利スワップの特例処理

資産または負債に係る金利の受払条件を返還することを目的に利用されている金利スワップが、金利変換の対象となる資産もしくは負債とヘッジ会計の要件を充たし、なおかつ、その想定元本、利息の受払条件(利率、利息の受払日等)および契約期間が、当該資産か負債とほぼ同一である場合には、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を、当該資産または負債に係る利息に加減して処理することが可能です。

まとめ

ここまで、ヘッジ会計の意義と具体的方法を見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
少々複雑で取っつきにくい印象があるかもしれませんが、ご理解の確認・整理に役立てて頂ければ幸いです。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。