デューデリジェンスが決める企業価値 経理が読み取るべきこととは

デューデリジェンスが決める企業価値 経理が読み取るべきこととは

投資機関の業界やM&Aの世界でよく使われるデューデリジェンスという言葉。その概要だけでなく、特に経理や税務の分野における関わりについて確認していきましょう。
  

入念な事前調査

デューデリジェンスとは「投資活動を行う前の事前調査」のことです。ここでいう投資活動とは、非常に広範なものを指しています。たとえば以下のようなものがあります。

  • 新規事業分野への挑戦

業況の調査、初期投資額の妥当性、必要な人材の育成期間、アウトソーシング分野の確認など

  • 不動産投資

不動産の立地、周辺の環境、人口動静、土地や建物の資産価値、登記情報など

  • 企業への出資(いわゆるエンジェル投資家など)

社長の人柄、取り組んでいる事業の先進性や成長性、競合他社の調査など

これらはすべて、広い意味でデューデリジェンスの中に含まれます。お金を出してもらいたい人と出す人との間には、一定の情報格差(非対称性)があります。出す人側の情報不足をできる限り補い、正しい判断を下せるように、入念な事前調査が行われます。

そして、特に経理や税務が関わるのは、近年盛んになってきたM&A分野(企業売買)での調査です。企業売買や組織再編というのは、その企業に値段をつける作業と言い換えることができます。正しい値付けをするためには、正しい経理、税務の処理が必要不可欠です。 
 

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財務デューデリジェンスと税務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスとは

財務デューデリジェンスとは企業の業績、財政状態、資金繰りなどを、決算書やそれに付随する資料を用いて分析することです。たとえば以下のような調査が該当します。

  • 損益計算書 P/L(業績)

営業利益(本業での利益)、経常利益(金融取引などの影響を考慮)、税引前利益(特別利益や特別損失の影響を検討)、税引後利益(税負担額の妥当性について)など、企業の収益や費用から期間的な業績を判断します。

  • 貸借対照表 B/S(財政状態)

資産、負債、純資産の保有状況について調査します。資産の中にその価値が危ぶまれるようなものは含まれていないか。手元の現預金に対して短期負債の金額は適切か。企業の健全性を図るためには必要不可欠な作業です。

  • キャッシュ・フロー計算書 C/F(資金繰り)

P/LやB/Sだけでは、その企業の業績や財政にどれだけの資金的な裏付けがあるのかを分析することはできません。なかには黒字倒産といった企業も存在します。その企業がどれくらい現預金を獲得する能力を有しているのかを知るためには、C/Fを分析するのが一番です。

その他、主要得意先ごとの取引明細や固定資産台帳、給与明細など外部公表用から場合によっては内部管理用も含め、さまざまな資料を調査する必要があります。

税務デューデリジェンスとは

財務デューデリジェンスと紐づけて、税務デューデリジェンスも重要な意味を持ちます。法人税や法人住民税、消費税など、さまざまな税務申告について適切な処理が行われているのか、確認をしなければなりません。

残念ながら、企業の中には悪質な脱税行為を働いているところもあります。また、脱税とはいかないまでも、税務的に議論を呼びそうな取引(租税回避行為や妥当とは言い難い人件費の設定、極端な節税保険など)も存在します。対象企業がこういった税務上のリスクを抱えていることを知らずに買収をした場合、そのリスクが顕在化したときに損失を抱えるのは企業を購入した側です。

また税務には「税制適格要件」というものがあります。組織再編(合併など)を行うときにこの要件を満たしている場合、さまざまな利点が生じます。繰越欠損を有している企業との合併を考えている場合などは、税制適格についてしっかりと調査しなければなりません。

このように、M&Aの世界では財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンスは非常に大きな意味合いを持っています。

数字を読むだけが仕事ではない

財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンスは数字が読み込めれば大丈夫というものではありません。特に近年は、決算書や申告書に付随する書面の重要性が非常に高まっています。

決算書には注記覧があります。ここには決算書を作成するに当たっての前提条件や特記事項が記載されています。その企業がどのような点に注目をし、どのような事柄に注意をしているのか、注記欄からさまざまな情報を分析することができます。
また取引によっては、企業によって異なる処理方法を採用していることがあります。「収益の計上はいつの時点なのか」「在庫の計上はどの方法を採用しているのか」、こういった情報も注記覧などから確認することが大切です。

税務申告の世界では、たとえば書面添付制度というものがあります。申告書の作成を税理士が行っているときに添付をすることが認められているもので、そこには当該申告書を作成するに当たってどのような点に留意したのか説明がされています。

決算書や申告書に記載されている数字(定量的情報)とあわせて、これらの書面に書かれている文章(定性的な情報)の整合性を調査することも、大切なデューデリジェンスと言えます。

まとめ

デューデリジェンスとは、投資活動を行う前の事前調査のことで、その分野は多岐にわたります。財務や税務の分野では企業買収や組織再編で特に重要度が高く、数字を読み込むだけでなく各種書面の内容まで分析をすることが必要であると言えます。
 

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 税理士 高橋 昌也

税理士 高橋 昌也

高橋昌也税理士・FP事務所 税理士 1978年神奈川県生まれ。2006年税理士試験に合格し、翌年3月高橋昌也税理士事務所を開業。その後、ファイナンシャルプランナー資格取得、商工会議所認定ビジネス法務エキスパートの称号取得などを経て、現在に至る。

高橋昌也税理士・FP事務所