安全性分析とは?企業の倒産リスクを評価する手法

安全性分析とは?企業の倒産リスクを評価する手法

管理会計の代表的な分析手法の一つに、「安全性分析」があります。安全性分析とは、企業の倒産リスクを評価する手法の総称です。

今回はこの安全性分析の手法について、詳しく見ていきましょう。

安全性分析とは何か

安全性分析とは、企業の倒産リスクを評価する手法の総称です。
狭義には、企業の支払能力(solvency)の分析と言い換えることができ、短期支払能力と長期支払能力に分類されます。

支払能力に問題がある企業はビジネスチャンスを逸しかねないだけでなく、買掛金や支払手形の返済ができずに最悪の場合は倒産に追い込まれる可能性もあります。

短期支払能力は、一般的に流動性(liquidity)とも呼ばれます。短期的な支払能力を表す流動性の代表的な比率としては、「流動比率」と「当座比率」が挙げられます。

一方、長期的な支払能力を表す流動性の代表的な比率としては、「株主資本比率」と「固定比率」が挙げられます。

次は、短期支払能力、長期支払能力を評価するための代表的な比率を、計算式とあわせて見ていきましょう。

流動比率

流動比率は次の式から算出できます。

流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100

この比率は短期に支払期限が到来する流動負債に充当することが可能な流動資産をどの程度持っているかを示す比率で、歴史的に「Two to One Ratio」とも呼ばれてきました。すなわち、200%以上が好ましい比率というわけです。

しかし現実には、ほとんどの日本企業が200%にはるか及びません。金融機関が企業へ貸し付けを行う審査の際には、債務の弁済能力を第一に考えることから、こうした比率を目安として用いていました。

現在でも、短期支払能力を分析する際の最もポピュラーな指標であることに変わりありません。

当座比率

当座比率は次のように計算されます。

当座比率(%) = 当座試算 ÷ 流動負債 × 100

当座比率は、アメリカの銀行業だったアレキサンダー・ウォールが開発した財務比率であり、企業の短期支払能力を分析する比率です。

流動比率は分子に流動資産を用いますが、当座比率は分子に当座資産を用います。流動資産に含まれる棚卸資産は、売却しなければ現金化することはできないため、短期負債の返済に即座に利用できるとは限りません。

たとえ流動比率が200%であっても、流動資産のほとんどが棚卸資産である場合、負債の返済に充当することができず弁済不能に陥ります。そこで考え出された指標が、当座比率です。

分子には、現金預金、売掛金、受取手形、有価証券といった換金性の高い資産が含まれます。一般的に、当座比率が100%を超えていれば、その企業は安全性が高いとされています。

自己資本比率

ここまで見てきた流動比率、当座比率は、短期の支払能力を評価する際に利用できる指標です。これに対して、企業の長期的な支払能力や全体としての安全性を測定する指標が「自己資本比率」「負債比率」です。自己資本比率は、次の式から計算できます。

自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ 総資本 × 100

総資本のうちの自己資本(株主資本)の割合を示すのが、自己資本比率です。自己資本比率が高いということは、利子を払う負債がそれだけ少ないことを意味します。それゆえ経営の安定度も高まります。これらは同時に、外部の債権者にとっての安全度が高いことを意味しています。

近年、銀行のBIS規制(銀行の自己資本比率を一定率以上に高め、それによって銀行経営の安定度を高めようとするもの)が強化されています。

自己資本比率は、巨大な資産を抱える銀行の安定性評価の参考指標となっている代表的な指標です。一方、負債比率は、次の式から算出できます。

負債比率 = 負債 ÷ 自己資本 × 100%

これは、貸借対照表の資本と負債の比率を表す比率です。この比率は、自己資本比率と内容的にほぼ重なるので説明は省略しますが、ポイントとしては、自己資本比率が高いほど安全性が高まるのに対して、負債比率は低いほど安全性が高まります。

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固定比率・固定長期適合率

さて、長期的な安全性を評価する際には、もう一つ触れておくべき比率があります。それは、長期的な設備投資とそれに必要な資金の源泉に関する比率です。

長期的な投資は、短期的に回収することができません。そのような投資を短期的な資金で賄っていては危険極まりないです。

そこで、長期的投資は長期資金で賄うべきという発想に至ります。そのための指標が「固定比率」「固定長期適合率」です。固定比率は、次の式から算出できます。

固定比率(%) = 固定資産 ÷ 自己資本 (純資産) × 100

長期的な投資である固定資産を、返済の必要のない自己資本でどの程度賄っているかを評価するのが固定比率です。比率は低い方が好ましく、できれば100%以下が望ましいといわれています。また、固定長期適合率は、次の式から算出できます。

固定長期適合率(%) = 固定資産 ÷ {自己資本 (純資産) + 固定負債} × 100

固定長期適合率も、伝統的に重視されてきた指標です。「固定資産を自己資本でなくても長期的な負債でカバーすればいい」という発想からこの比率は利用されています。

インタレスト・カバレッジ・レシオ

ここまで見てきたのは、すべて貸借対照表上の財務数値を用いた安全性分析の比率でした。

ここで、損益計算書上のデータを用いる安全性の指標を一つ挙げておきます。それが、「インタレスト・カバレッジ・レシオ」です。インタレスト・カバレッジ・レシオは、次の式から算出できます。

インタレスト・カバレッジ・レシオ = (営業利益+受取利息・受取配当金) ÷ 支払利息

インタレスト・カバレッジ・レシオ(Interest coverage ratio)とは、簡単に言うと、支払わなければならない利息の何倍の利益を稼いでいるかを示す指標です。つまり、インタレスト(支払利息)をカバーする利益をどれくらいあげているかが問題となります。

金融費用は、営業利益に受取利息および受取配当金を加えた事業利益から支払われます。ただ、ここで注意しなければならないのは、創出される事業利益をすべて金利支払いにあてることができないケースもあるということです。

よって利益ベースのインタレスト・カバレッジ・レシオばかりでなく、以下に挙げるキャッシュベースのインタレスト・カバレッジ・レシオをあわせて利用することも少なくありません。

インタレスト・カバレッジ・レシオ(キャッシュベース)(%) = 営業キャッシュフロー ÷ 支払利息 × 100

まとめ

ここまで安全性分析の代表的指標について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。安全性分析を究極まで推し進めていくと、「倒産を事前に予測できないか」といった問題意識にたどりきます。
もしも倒産を予測できたなら、投資家はその企業に投資しないでしょう。また、社債権者は社債を購入しませんし、銀行は貸付をしません。
予測である以上絶対はありませんが、安全性分析による倒産予測の努力がもたらすベネフィットは計り知れないことがおわかりいただければ幸いです。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。