新株予約権の会計処理 ―取得時と使用時の会計処理と税務上の話―
はじめに
新株予約権は、実務上の取引頻度は多くありませんが、ベンチャー企業を始め、近年ではその活用が広がりつつあります。今回は、活用範囲の広がる新株予約権の会計処理を分かりやすく説明します。
新株予約権とは
新株予約権とは、株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます(会社法第2条第21号)。新株予約権は「有価証券」に該当し、それを取得した個人又は法人は、その権利を行使することにより、あらかじめ決められた期間内であれば、いつでもその会社の株式を一定の価額で取得することができます。ゆえに、この新株予約権を取得した者は、その発行会社の株価が将来どんなに上昇しても、一定の価額で株式を取得する権利を有することになります。なお、将来この会社の株価が、一定の価額よりも下落した場合には、その権利を行使せず放棄することで損失額を新株予約権の取得価額に限定することが可能です。そのため、新株予約権は、株式取得の選択権(買う権利=コール・オプション)の性格を有する有価証券であるといえます。
新株予約権の会計処理 ―発行した場合―
1.新株予約権発行額総額1,000円(新株予約権1個)
2.新株予約権1個につき発行する株式は2株
3.権利行使期間は15年4月から17年3月まで
4.権利行使価額は1株当たり2,000円
―発行時(発行者)
新株予約権者から払い込まれた金額を『新株予約権』(純資産)勘定で処理します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
当座預金 | 1,000 | 新株予約権 | 1,000 |
―権利行使時(発行者)
発行時の払込額と行使時の払込額(行使価額)の合計を資本金勘定に振り替えます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
新株予約権 | 1,000 | 資本金 | 5,000 | |
当座預金 | 4,000 |
―行使期間満了時(発行者)
失効分を『新株予約権勘定』から『新株予約権戻入益』(特別利益)勘定に振り替えます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
新株予約権 | 1,000 | 新株予約権戻入益 | 1,000 |
新株予約権の会計処理 ―投資目的で取得した場合―
―取得時(取得者)
有価証券としての保有目的に応じて会計処理します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
投資有価証券 | 1,000 | 当座預金 | 1,000 |
―権利行使時(取得者)
新株予約権を行使し株式を取得した時は、帳簿価額で株式に振り替えます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
投資有価証券 | 5,000 | 投資有価証券 | 1,000 | |
当座預金 | 4,000 |
―行使期間満了時(取得者)
失効分を『投資有価証券勘定』から『新株予約権失効損』(特別損失)勘定に振り替えます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
新株予約権失効損 | 1,000 | 投資有価証券 | 1,000 |
税務上の考え方
発行時において、新株予約権に対する払込金額を新株予約権の発行価額とし、払込金額が新株予約権の時価を上回る場合、または下回る場合においても、受贈益または寄付金等の認定はありません。なお、権利行使時においては、付与者から権利行使に際して払い込まれた金銭等の額と新株予約権の発行価額の合計額は税務上も資本金等の額として処理されます。
最後に
新株予約権は、インセンティブを目的としたストックオプションとして利用することのほか、買収防衛策として利用することも可能です。今後、資本政策が多様化していく中で、ますます利用が拡大すると考えられる新株予約権。発行者側、取得者側の両面においてその会計処理と税務上の取り扱いを知っておくことが経理担当者として有用でしょう。
経理プラスでは、新株予約権取引の他にも経理担当者の皆様が悩んでしまいがちな会計処理についてお伝えしております。その他の記事も皆様の実務に役立つと思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
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