年末調整の実務でよくあるQ&Aまとめ

年末調整の実務でよくあるQ&Aまとめ

今回の記事では、年末調整業務を行うにあたり、よくある疑問と解決するために必要な判断基準をQ&A形式でお伝えします。 

年末調整の対象

質問:12月末締、1月10日支給分は年調対象に含めますか?

回答:年調対象は、年内支給分であり、1月10日支給分は含めません

年末調整は、給与の支払いを受ける人からみれば収入の確定した給与の総額について行います。
支給日が決まっている場合は支給日が「収入の確定する日」であり、支給日が定められていない場合には実際の支給を受けた日となります。
年末調整は、本年中に支払いの確定した給与すなわちその年内に支払いを受けた給与の総額で行うため、給与締日が年内であってもその支給日が翌年である給与は本年の年末調整の対象となりません。 

扶養の範囲について

扶養の範囲は「所得者と生計を一にする配偶者以外の親族又は、都道府県知事から養育を委託された児童や市町村長かた養護を委託された老人で1年間の合計所得金額が38万円以下の人、および青色申告者の事業専従者として当該の年間を通して給与の支払いを受けていない、又は白色申告者の事業専従者でない人」と定められています。従業員様から提出された扶養控除申告書を機械的に処理するのではなく、「誰が扶養に該当するのか」というのを下の質問から改めて確認してみてください。

質問1「生計を一にする」とは具体的にどのような状況ですか?

回答1「ひとつの財布で生活しているかどうか」を確認してください

「生計を一にする」とは、「ひとつの財布で生活しているかどうか」とお考えいただいて構いません。立法趣旨と同じく「その従業員様の収入で養っているかどうか」をご判断頂ければと思います。

  • 生計を一にしている例
  • 同居していなくても、仕事・学校・病気の都合で離れて暮らしている場合であっても、生活費・学費・医療費の仕送りが行われている場合には「生計を一にする」ものとなります。

質問2「親族」の範囲は誰ですか?

回答2「6親等内の血族と3親等内の姻族」を指します

「一般的な家族構成であれば、配偶者以外ほぼ全員含まれる」とお考えいただいて構いません。たとえば、子、両親、祖父母、孫、兄弟姉妹、伯叔父母(おじおば)、従兄弟姉妹(いとこ)、義理の兄弟姉妹、甥姪、はみんな「親族」の範囲内です。 極端な例を挙げると、再従兄弟姉妹(はとこ)も「親族」となりますが、年末調整で問題が出てくるケースはほぼありません。参考まで下のページが「親族」の範囲を分かりやすくまとめてあるので、必要な方は参考にしてみてください。

国税庁:No.1180 扶養控除 「親族」の範囲 

質問3「合計所得金額が38万円以下」とは?

回答3「総所得金額に各種損失及び損失の繰越控除を足し戻して、各種分離所得を合計した金額」です

まず年末調整にあたっては、「給料だけなら、税引前年収で103万円以下」、「年金だけなら、65歳未満は108万円以下、65歳以上は税引前で158万円以下」という基準で判断してください。

複数の所得があり、年末調整で合計所得金額を正確に計算する必要が出た場合は、確定申告書をベースに考えるのが分かりやすい方法です。
ただし、合計所得金額38万円以下は令和元年分までであり、令和2年分からは48万円以下になります。

埼玉県HP:所得の種類と計算方法
国税庁HP:所得の種類と課税方法

生命保険料控除の契約者について

質問 妻が契約者の生命保険は生命保険料控除の対象となりますか?

回答 契約の名義に限らず生命保険料控除の対象となります

妻や子が契約者でも、夫が支払ったものは夫の生命保険料控除の対象となります。
控除対象の生命保険料は、自分が締結した契約に限らず、給与の支払を受ける人が保険料を支払ったことが明らかであれば、控除の対象とすることができます。ただし、その保険金の受取人が給与の支払を受ける人または、その配偶者その他の親族である場合に限ります。

  • 夫と妻、どちらから生命保険料控除するのが節税となるか?
  • 保険契約が複数本あり、生命保険料控除証明書が複数枚に及ぶ人もいます。夫の所得の方が高く所得税率が高いことを前提とすると、生命保険料・個人年金保険料の旧契約は夫から控除して上限12万円に近づけるようにし、残りを奥様から控除するという形にすると節税効果が高くなることが多いです。厳密には契約内容を加味すべきでありますが、下記の手順を参考にしてみてください。

    ①2人の控除額の合計が最大になるように、保険契約を振り分ける。
    ②そのうち、控除額が大きい方を夫の保険料控除として割り振る。

年末調整における医療費控除 の取り扱い

質問 医療費控除は年末調整で控除することができますか?

回答 年末調整の対象ではありません。医療費控除は確定申告で控除します

「医療費の領収書も提出しなければならない」という感覚を持っていて、年末調整の際に提出しようとする方は結構多いでが、対象外です。しかし、確定申告をする際においても、2017年分から領収書の提出は不要になり、代わりに「医療費控除の明細書」を添付することで申告できます。

  • 確定申告について
  • 年収が320万円を超えている人なら、自腹で払った医療費が10万円を超えた分(保険金を差し引きます)が医療費控除の対象となるので、10万円以下の場合には確定申告による税金還付を受けることは出来ず手続きそのものが不要であることを教えてあげてください。裏返すと、年収320万円以下の人は医療費が10万円以下でも医療費控除の対象となります。

  • 高額療養費について
  • 高額療養費制度は医療保険の制度の一つで、病院や薬局で支払った額が一ヶ月間で一定額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。
    年末調整と直接関係はありませんが、会社内で医療費の負担にお困りの方がいらしたら高額療養費の制度を適用しているか念のため聞いてあげてください。

最後に

この記事では年末調整業務について、分からないまま進めてしまっているであろう事項、誤りやすい箇所をまとめました。年末調整担当の方には、年末調整に取り掛かる前あるいは年末調整事務を終えられた後の再確認、申告書などの記載に当たって注意事項を従業員様に周知するための文例などとしてご活用頂ければと存じます。 

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 服部 峻介

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北海道大学経済学部卒。有限責任監査法人トーマツ入社後、上場企業の監査、内部統制、IPO支援、株価算定、M&A、不正調査等を実施。経営コンサルティング会社役員を経て、Seven Rich会計事務所を開業。スタートアップ企業を中心に、3年で160社以上の新規クライアントに対して会社の設立から会計税務、総務、ファイナンス、IPOコンサルなど幅広い支援を行っている。

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