融資担当者はここを見ている -回転期間編-

融資担当者はここを見ている -回転期間編-

融資を判断する金融機関の担当者は、分析的な手法を使って、決算報告書の分析をします。

今回は、その中でも古典的な手法として使われる粉飾を見破るために利用されている分析手法についてお話しをしていきます。

売掛金や在庫は粉飾によく使われる

会社が粉飾に手をつけ始めるときに、最も手をつけやすい勘定のひとつは売掛金と棚卸資産でしょう。
手法としては古典的ですが、簡単にできるのでついつい実施している会社もあるかもしれません。
架空売上を上げる時に必要な仕訳は、以下の仕訳だけです。

 借方科目金額貸方科目金額
売掛金×××売上×××

たった、一行の仕訳を入れるだけで、売上が計上されて、利益がかさ上げされるのです。

計上にあたって、架空の売上を計上するのは、かなり悪質ですね。それ以外でも、関連会社に押し込み販売をするといった手法も、形式的には会計上売上を上げることに説明がつく部分もあるかもしれませんが、実態として無理矢理売上を作り上げているという点で、粉飾のひとつと言えるでしょう。

仮に架空の売上を計上した会社があったとした場合、決算書にどのような影響が出るのかを考えてみましょう。

分析指標に反映される

前提条件

粉飾決算のもとになった仕訳

 借方科目金額貸方科目金額
売掛金100売上100

粉飾前の決算数値

売掛金  50
売上高  500
利益   50

粉飾後の決算数値

売掛金  150
売上高  600
利益   150

分析指標

上記の前提条件の中で、売掛債権回転期間を算出してみます。
売掛債権回転期間は、期末の売掛金÷1ヶ月あたりの売上高で算出するケースが多いですが、算出された指標から何ヶ月程度の売掛金が残っているのがわかります。
算出された回転期間が短ければ短い程、販売後に速やかに換金がされており、望ましいことになります。
逆に回転期間が長い場合、滞留して不良債権化している売掛金があるのではないかと疑われます。
場合によっては、粉飾をして架空売上が計上しているのではないと思われるかもしれません。

今回の前提条件をもとに売掛債権回転期間を算出してみましょう。

粉飾前で算出した場合

50÷(500÷12)=1.2ヶ月

だいたい、1ヶ月と少しの売掛金が残高として残っていることが想定されますので、末締め末入金の会社であれば妥当な数値と言えます。

粉飾後の数値で算出するとどうなるでしょう。

粉飾後に算出した場合

150÷(600÷12)=3ヶ月

粉飾した決算書で算出するとなんと3ヶ月になります。会社の入金サイトによりますが、前年まで1~2ヶ月程度で推移していた会社が3ヶ月になった場合には、異常な感じがすると思います。

このような決算書を受け取った融資担当者は、間違いなくなぜこんなに回転期間が悪化したのかを聞いてくると思います。
今回は少し極端な例にしましたが、粉飾をすると分析指標に必ずどこかにきしみが生じるのです。そして、見る人が見れば必ず疑いの目で見られるのです。

今回のケースですと粉飾前の売上高利益率は50÷500で10%でしたが、粉飾後は150÷600と25%になります。
このように利益率にも異常値が出てきます。

棚卸資産は粉飾の罪悪感が少しなかったりもする

先程の例は、架空売上と言うことで、実際に伝票を入れるとなるとかなりの罪悪感にさいなまれると思います。
これが、棚卸資産になると罪悪感が少なく感じる人も多いのではないでしょうか。
棚卸資産の勘定を使って利益を多く見せようとする粉飾の場合は、期末の在庫の数値を本来の数値よりも多く計上します。

在庫を多く計上すると言うことは、その分だけ売上原価が少なくなり、結果として利益が多く計上されるからです。

罪悪感が少なくなると書いたのは、架空売上の場合は、一行明らかに実態のない仕訳を投入するのに対して、在庫での粉飾の場合は、期末に投入する次の仕訳の数値を変更するので、いずれにしろ投入する仕訳であり、その数値を変えるので少し罪の意識を感じなくなることがあるからです。もちろん、常識的な観点があればこの行為自体もかなりの問題で、罪悪感を持つべきではありますが・・・

期末に投入する仕訳は次の仕訳です。

 借方科目金額貸方科目金額
商品×××期末商品棚卸高×××

本来あるべき数値を上記の仕訳に記載せずに、粉飾した数値(あるべき金額と異なった理由としては、数量を数え間違えた、単価を記載し間違えた等々、いくつかの言い訳があると思います。)を記載して仕訳を投入します。

このような処理の結果、分析指標はどのようになるのでしょうか。
簡単な例で考えてみましょう。

前提条件

粉飾決算のもとになった仕訳

 借方科目金額貸方科目金額
商品200期末商品棚卸高200

※本来の在庫数値は100であった

粉飾しなかった場合の決算数値

商品   100
売上高  500
利益    50

粉飾後の決算数値

商品   200
売上高  500
利益   150

分析指標

設例をもとに棚卸資産の回転期間を算出してみます。ここでは、棚卸資産÷1ヶ月あたりの売上高を計算式として算出します。
粉飾をしなかった場合は、100÷(500÷12)で、2.4ヶ月となりますが、粉飾をした場合は、200÷(500÷12)で、4.8ヶ月となり、かなりの異常値となります。

分析指標は、ほぼ全ての融資担当者が目を通しているものですので、何か小細工をして決算書を作ると言うことは、そのような疑いの目で見られてしまうのだと言うことをよく理解しておきましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

経費精算システム「楽楽精算」

著者 公認会計士 中尾 篤史

CSアカウンティング株式会社専務取締役  公認会計士・税理士 日本公認会計士協会 租税調査会 租税政策検討専門部会・専門委員 会計・人事のアウトソーシング・コンサルティングに特化したCS アカウンティング㈱の専務取締役として、中小企業から上場企業及びその子会社向けに会計・税務のサービスをひろく提供している。 著書に「BPOの導入で会社の経理は軽くて強くなる」(税務経理協会)「たった3つの公式で「決算書」がスッキリわかる」(宝島社新書)「経理・財務スキル検定[FASS]テキスト&問題集 」(日本能率協会マネジメントセンター)など多数

CSアカウンティング株式会社