予実管理を効率的に行うために押さえておきたい考え方と作成方法
予算とは会社の数値目標です。
会社を経営していくうえで数値管理はかかせません。会社としてまず避けたいのは赤字になることです。
赤字を避けるために月次決算や半期決算など、その都度会社の状態を把握して、判断をする必要があります。しかし、会社として成長していくためには赤字にならないようにするだけでは十分ではありません。きちんと利益を稼ぎ出し、その利益を投資して会社を成長させていくサイクルを描ける状態でなければなりません。
そのためにも、必要な売上と適正な費用を管理する必要があります。予算はそのための指数となるため重要なのです。
予実管理とは
予実管理とは、「予算」という目標値に対して実際の「実績」を比較しながら管理するものです。予実管理ですぐにイメージできるものといえば「売上」ではないでしょうか。予実管理を行うことで、前年度の実績などをもとに作成した本年度の「予算」に対して「実績」はどうだったのか、その差異を可視化することができます。
予実管理では、売上高だけではなく、原価や経費、利益などの管理も行います。売上実績が予算を超えることは良い傾向ですが、製造原価や経費が予算を大幅に超えていれば、利益としての実績が少なくなることも出てきます。したがって、安定した経営をするためには、さまざまな部分で予実管理を行うことが大切になります。
予実管理が重要な理由
なぜ、企業にとって予実管理は重要なのでしょうか。予実管理が重要なのは、さまざまな部署・部門がある中で、目標を定めずに進めることは多くの無駄が発生するためですします。また、目標を定めずに企業活動を行い、成果を上げることは難しいものです。そもそも、企業として売上、原価、経費、利益をどのくらいの目標値で達成するか、その計画を明確にしていなければ、健全な運営は成り立ちません。
たとえ作成した予算に対して実績が達成できなくとも、達成できない要因はどのような理由があったのか、適切に問題点を把握して都度見直していくことが非常に大切なのです。
予実管理で押さえておきたい2つのポイント
- 予算管理を行う者が明確な予算を作成する
- 予算管理がしやすい予算を作成する
1.予算管理を行う者が明確な予算を作成する
それほど大きくない会社では、社長が会社全体の予算管理を行っている場合がほとんどですが、会社が大きくなれば「部」や「課」と組織化され、それぞれが与えられた予算の管理を行うようになります。
「部」の長であれば「部」の予実管理をし、「課」の長であれば「課」の予実管理をし、個人に予算が与えられているのであれば、個人が予算を達成するべく管理する必要があります。
つまり立場によって管理しなければならない予算は変わります。
なぜ与えられた予算を達成しなければならないのかを、「会社」の予算はこれだけで、そのために各「部」にはこれだけの予算を達成する必要で、そのためには各「課」にはこれだけ必要と説明し、一人一人に予算を浸透させる必要があります。
予実差異が生じても誰が何を改善すべきするか分からない予算にならないようにしましょう。
2.予算管理がしやすい予算を作成する
予実管理を行う上で重要なことは、予算と実績が乖離した場合に、その原因を突き止めて、説明できるようにしておくこと、そして解決策を提示できるようにしておくことです。
予算管理者が原因分析を行える資料を経理は提供できなければなりません。
そのために予算作成段階で費用をある程度細分化しておくと良いです。
細分化された予算であれば、何によって生じた差異なのか発見しやすくなります。
ただ細かくし過ぎても管理しにくくなりますので注意が必要です。
予算作成の工程
- 目標を決める
- 予算作成に必要な数値を見極める
- 人件費予算を作成する
- 施設予算(減価償却費)を作成する
- その他固定費予算を作成する
- 部門粗利率を求める
- 売上予算を作成する
- 各部署の予算を合わせる
- 販売管理費予算を作成する
- 目標との差異を埋めていく
1.目標を決める
理想としては3年後の目標を作り、そこから逆算して1年ごとの予算を作成するやり方をしたいところですが、今回は1年分の予算作成の場合で説明したいと思います。
目標となる数字は「営業利益」です。
ただし借入が多い場合や資産運用に力を入れているといった場合、営業外損益を加えた「経常利益」を目標とするのもいいでしょう。
まず会社として利益をどれだけ出したいのか決めます。
これは経営者の判断になります。
利益の決め方は経営者によって異なりますが、多くの場合直前期の営業利益を参考に決めます。
しかし、予算作成の段階ではまだ営業利益は確定していないので、予想される利益を元に決めることになります。
そのためにも経理は判断に資する資料を作成する必要があります。
2.予算作成に必要な数値を見極める
予算数値は過去実績値をベースに作成をします。
項目によってどの期間の実績値を利用するか異なります。
たとえば、家賃や人件費は売上に連動しない固定費ですが、同じ期間で集計した数値を利用できるわけではありません。
家賃は固定金額なので、直近月の数値をそのまま利用できます。
しかし、人件費の中の時間外(残業代)は繁忙期と閑散期では数値が異なりますので、一定期間を集計して平均値を計算する必要があります。
このように費用によって作成方法が異なりますので、項目によって参考となる数値の集計を変える必要があります。
たとえば、予算作成を2022年1月に始める場合、直近12か月(2021年1月~2021年12月)の数字を抽出し、費用項目に応じて参考にする数値を見極める必要があります。
3.人件費予算を作成する
人件費は人員計画に基づいて予算を作成します。
人件費は人事異動、新規採用、定年退職などさまざまな要因により増減が生じます。
人件費は、人員が1人違うだけでも数字が大きく変わりますので、各部門において適正な人員を再検証する必要があります。
人件費にあたる項目はいくつもあります。
- 基本給
- 時間外
- 通勤手当
- 法定福利費
- 退職金
- 福利厚生費(健康診断料など)
これら人に基づいて発生する費用を人員ごとに試算し、人員計画に基づいて部門予算として作成します。
増員予定がある場合は、誰かをモデルにして人件費を加算します。
ただ社員数が多い会社で一人一人積み上げていくのは大変ですので、大まかな人数に平均給与をかけて計算したもので予算を作成する方法もあります。
その際に利用する平均給与は直近の月次のものを使うのがいいでしょう。
ただし、時間外は時期によって変動があるので一定期間の数字から試算する必要があります。
通勤手当も半年分を一括支給している場合に、月額で見ないといけません。
4.施設予算(減価償却費)を作成する
各部門が来期に購入予定の固定資産を把握するとともに、予算外の固定資産購入を管理するためにも必要な資料となります。
各部門に現在利用中の固定資産リストを渡し、購入予定の固定資産を記載して返してもらいます。
その際、購入予定額が分かるような見積書等を添付してもらい、減価償却費を計算します。
注意点として、現在償却中資産の買い替えによるものか、新規購入のものかで増える費用は大きく異なります。
買い替えによるものであれば、以前の償却費とあまり変わらない費用が発生することになりますが、新規購入の場合は償却費が純粋に増額されます。
5.その他の固定費予算を作成する
人件費や減価償却費は固定費の代表的なものですが、その他にも家賃や通信料といった費用があります。固定費には毎月一定額発生するものだけでなく、協会費や年払いの保険料のように半年や年に1回発生するものあります。営業交通費や交際費のように必ず発生するけれど、月によって発生額にばらつきがある費用もあります。
そういった費用は1ヶ月間だけを見るのではなく年間発生額で見た方がいいです。その他にもその年度に特別発生した費用があります。
このように費用を仕分けして細分化して、その他の固定費予算を作成していきます。またこの作業を通じて見直し可能な費用がないか確認します。
6.部門粗利率を求める
求める粗利は業種によってさまざまです。
工事、人材派遣、コールセンター、物販とさまざまな業種の部門がある会社の場合は、部門によって意識すべき粗利率が異なるため、部門ごとに過去実績などに基づいて目安となる粗利率を計算しましょう。
なお、「粗利率」は「粗利÷売上高×100」で計算し、「粗利」は「売上高-売上原価(仕入原価)」で計算します。
7.売上予算を作成する
各部署から売上予算をもらいます。
8.各部署の予算を合わせる
3~7の予算を合算して仮の部門予算を作成します。
『売上予算-売上原価-人件費予算-施設予算-その他経費=部門利益』
各部門予算を合算して、全体の部門予算を作成します。
9.販売管理費予算を作成する
部門ごとに販売管理費予算を持たせている場合は不要ですが、分けている場合は別途販売管理費予算の作成が必要です。
基本的な作成方法は2~5と同じです。
10.目標との差異を埋めていく
各予算を積み上げて出た営業利益が会社の目標とする営業利益を下回る場合、その差異を埋めていく場合があります。
差異を埋めるには、売上を増やすか費用を削減するかしかありません。
その場合、どの部門に改善させるかをこれまでに作成した部門利益の予算に戻ってどうするかを考える必要があります。
予実管理の重要ポイント
予実管理を行う目的は、数字の動きをタイムリーに把握した上で必要な改善策を打ち出すことです。
数字の動きをタイムリーに把握するために重要なポイントは、会計データの動き(実績)と各部門から上がってくる今後の見通しの動き(予測)の両方に目を光らせ、異常値が出たら速やかにその原因を確認することです。「いつかは正常値になるだろう」と思い込んで異常値を放置しておくと、後々大きな問題につながりかねません。会計データの動きと今後の見通しの動きは月次単位で確認するようにしましょう(今後の見通しの動きを月次単位で把握することが難しければ、四半期単位でも問題ありません)。
異常値が発見された場合、その部門へ速やかにフィードバックすることが重要です。フィードバックでは可能な限り粒度の細かい情報を伝えると、異常値を解消するために必要な改善策を打ち出すことが容易になります。さらに、単に情報を伝えるだけではなく、部門と一緒に改善策を考える姿勢を出すことによって、部門の協力も得られやすくなるでしょう。
なお、年度が終わった時点で予算と実績との間に乖離があった場合は、速やかにその乖離の理由を確認することをおすすめします。理由を確認して必要な改善を行うことで、より予算の精度を高めることができるようになります。
予実管理表の作り方
予実管理表はエクセルでも簡単に作ることができます。エクセルで作成するときは、部門ごとの予実管理シートを作成した上で、そのシートの数字を会社全体の予実管理シートに飛ばす方法で行うと便利です。
部門ごとの予実管理シートの作り方について、下図の予実管理表をもとに解説します。
まずは予実を管理する項目を選定します。項目は、あまりにも大雑把なものだと予算と実績が乖離している原因の確認が難しくなる一方、あまりにも細かいものだと予実管理の業務に多くの手間が取られてしまうため、会社ごと・部門ごとに適切な項目を選択しましょう。この事例では、売上は商品ごと、販管費は主な項目ごとに予実管理表を作成しています。
次に予算の金額と各種計算式を入力します。「予算比」の列には、異常値がひと目で分かるようにセルの強調表示ルールを設定しておくと便利です。
最後に実績を入力します。実績の入力を間違えると誤った分析結果が出てしまいますので、注意して入力しましょう(特に桁数間違いにはご注意ください)。
以上で営業1課の予実管理シートが完成しました。あとはすべての部門の数字を表にまとめれば、予実管理表が完成します。
おすすめ本の紹介
予実管理についてより詳しく知りたい方向けに、おすすめの本を2冊紹介します。
1冊目は、「会計知識ゼロからの はじめての予算管理」(梅澤真由美著、日本能率協会マネジメントセンター)です。この本は、「会計知識はないけれども予実管理について一通り学びたい」という方におすすめの本です。全体的に平易な内容で、すいすい読み進めることができます。
2冊目は、「実践Q&A 予算管理のはなし」(芳野剛史著、中央経済社)です。この本は、これから予実管理の業務を担当する方だけでなく、現在予実管理の業務を担当している方にもおすすめの本です。予実管理の業務を行うにあたってわいてくる素朴な疑問について、経験豊富な著者が丁寧に解説してくれています。
予実管理におすすめのシステム
予実管理は、エクセルなどの表計算ソフトなどでも自作できますが、社内全体で把握できるように、システムを利用する方法もあります。いくつかおすすめのシステムをご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
「Sactona」
予実管理、予算編成、見込み管理などを行えるクラウド対応の管理システムです。グループ会社の管理や経営計画などの経営管理業務の業務を効率化することができます。エクセルフォーマットをそのまま利用できる点が特徴です。
「楽楽販売」
販売管理の効率化に有効な管理システムです。顧客管理や受注、売上管理ができ、部署やプロジェクト単位での予実管理ができます。その他にも購買、請求管理もできるため、購買稟議から支払いまでを一元管理することができます。
経理プラス:サブスクリプションビジネスの請求管理をラクにするポイント
「楽楽精算」
クラウド型の経費精算システムです。予算を事前に設定することで予算を超過する申請の入力制限をすることができ、厳密に予実管理を運用することができます。また、科目や部門、担当者別にデータを集計することができるため、次期予算の作成に活用できます。
>>「楽楽精算」経費・予算管理機能についてはこちら
まとめ
予算管理の目的は予算を守ることではありません。会社を成長させていくために必要な利益を確保するために管理をするわけです。予算以上に利益が見込めるのであれば、予算計上していなくても将来の受注獲得のために先行投資するという判断も予実管理を行っていれば可能になります。
また、正確な予実管理を行っていれば、期末の利益着地を見ながら決算賞与を出すか否かの判断をすることもできるようになります。決算賞与をその事業年度中に支払えばその年度の損金の額に算入できますし、事業年度末時点において未払であっても一定の要件(事業年度末までに個別の支給額をすべての従業員に通知することなど)を満たせばその事業年度の損金の額に算入することができるので、利益が出た年度の節税にもつながります。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。