中小企業の資金調達で抜け落ちている視点とは
企業が資金を調達する方法はいくつかありますが、一般的にイメージしやすい調達方法は、①外部からの出資と、②金融機関からの融資になるでしょう。出資は返済する必要がないお金であり、借入金と違って利息も担保も必要ありません。しかし、中小企業が安易に出資を受けることには注意が必要です。
出資は融資よりも得なのか
融資は返済が必要なうえに利息も支払うのに対し、出資は返さなくても良いお金なので、一見するとお得な感じがあります。
しかし、出資の場合は、出資者(株主)への配当を検討する必要があります。出資の資金調達コストである「配当」は、融資の場合の「借入利息」とは違い、損金にならないため、節税の効果がありません。ですから、配当率と金利を考えると、実は出資の方が一般的に、融資よりも調達コストは高くなります。また第三者からお金を入れてもらうわけなので、当然、出資者の意向を経営に反映させていく必要もあるでしょう。
そして、最大のデメリットとなるのが経営権の問題です。通常の株式は、株主の持ち分に応じて経営権が生じることになります。単純に株式を発行して特定の株主比率が大きくなってしまうと、経営者は自由に経営をコントロールすることができなくなってしまいます。その結果、出資者に経営権を奪われたり、買収などのリスクも発生することになります。
また、そもそも一般的な中小企業は、ベンチャーキャピタルや個人投資家など、外部の出資者から出資をしてもらうことは難しいのが現実です。出資者にハイリターンを期待させるレベルの会社でなければ、出資の対象にならないからです。
そこで一般的な中小企業は、金融機関から融資を受けることが最も現実的な資金調達方法になります。
金融機関を選ぶうえで抜け落ちている視点がある
それでは、企業が資金調達できる金融機関にはどのようなところがあるでしょうか。大きく分けると「民間金融機関」と「政府系金融機関」の2つがあります。
民間金融機関には、主に銀行、信用金庫、信用組合などがあり、多くの企業が民間金融機関と取引をしていると思います。
しかし、社名に銀行や信金とついていても、一般企業が同業他社と規模や営業方針が違うように、金融機関もそれぞれに規模や融資のスタンスは異なっています。
実は、多くの中小企業が金融機関を選定するうえで、抜け落ちている視点があります。金利や借入期間といった、借入条件以前に、実は重視すべき大切な基準があるのです。それは、「自社の規模に見合う金融機関からお金を借りる」ということです。
一般企業の場合、規模とは、売上高や社員数、資本金の額を指しますが、金融機関の場合は「預金量」でその規模が測られます。「預金量」というのは、その名の通り、預金者から預かっているお金の量です。金融機関は自分たちのお金を貸しているのではなく、預金者から預金として預かったお金を貸しているということは、当たり前ですが、忘れられがちな事実です。
お金を預かったままでは預金者に利息を払うだけになってしまうので、そのお金を貸して、利息収入を得なければ自分たちが存続できません。つまり、預っているお金が大きければ大きい金融機関ほど、逆に「貸さなければいけないお金」も多くなるというわけです。
金融庁のサイトで、各行の預金量は公開されています。たとえば、信用金庫で大手といわれるところでも、地方銀行の大手と比べると10倍の預金量の差があり、さらにその大手地銀とメガバンクでは10倍の預金量の差があるのです。預金量の差はそのまま金銭感覚の差につながります。
たとえば、1,000万円の融資をどう思うかは、それぞれの金融機関でまったく異なるのです。信用金庫ではそのまま1,000万円と捉えてくれるものが、その10倍規模の地銀では10分の1の100万円くらいの感覚、さらにその10倍規模のメガバンクではそれが10万円くらいの価値しかないような感覚です。当然、金融機関はお金をたくさん借りてくれる会社を大切にしますが、その「たくさん」の感覚が違うのです。同じ1,000万円を借りるなら、10万円の感覚で軽く扱われるメガバンクではなく、信用金庫で借りるべきなのです。
ところが1,000万円から3,000万円くらいの融資をメガバンクから受けている中小企業は意外と多くあります。しかも、銀行のリスクの少ない信用保証協会の保証つきのケースばかりです。額も少ないし、しかもリスクも少ないでは、メガバンクが大切に思ってくれることはないでしょう。
多くの企業で、このような付き合うべき金融機関との「規模のミスマッチ」が起きており、企業側の「片思い」が発生しているのです。
一度、自社が付き合っている金融機関の預金量を確認して、比較してみることをおすすめします。
政府系金融機関の特徴とは
政府系金融機関では、①日本政策金融公庫の国民生活事業、②日本政策金融公庫の中小企業事業、そして③商工組合中央金庫の3つが有名です。民間の金融機関と違い、一般的には馴染みが薄く、資金調達の候補としてあがってこないこともあるでしょう。メガバンクや大手地銀のように駅前に支店があるわけではなく、日本政策金融公庫はそもそも預金を取り扱いませんのでATMを見かけることもありません。そのような政府系金融機関ですが、民間金融機関とは違った融資スタンスをとっており、中小企業にとってはいざという時にこれほど頼りになる存在はありません。
たとえば日本政策金融公庫の方針の基本は「民間の補完」です。これは、民間がやれることは民間に譲り、民間がやりづらいことを担うという考え方です。具体的には、創業したばかりで実績もなく、信用の低い起業家はなかなか民間金融機関から融資を受けづらいのが現状です。また、業績の悪化した企業に対しては、民間金融機関はその融資した資金が回収不能になるリスクを恐れ、融資をしづらくなります。
しかし、信用がないからと誰も融資をしなければ日本に新たな事業が生まれる可能性を狭めてしまいます。そこで政府系金融機関の登場となるのです。
民間がやれない時にその補完をするのが彼らの存在意義であり、困ったときに頼りになる存在なのです。災害発生時やリーマンショックのような世界的な経済危機の発生時に、セーフティネット融資が発動されるのは、信用保証協会、日本政策金融公庫、商工中金の3つです。BCP(事業継続計画)の一環として、普段から政府系金融機関から資金調達をしておくことも、企業のリスク管理としては非常に大切な視点です。
役員借入金の注意点
金融機関からの借入ではなく、個人から借入をするという方法もあります。役員借入金の場合、同意があれば、法人は利息を支払わないこともできます。法人が単に無利息の借入先を見つけたという解釈ができるからです。実際、多くの中小企業で役員借入金は存在します。同族会社では自由に会社に貸して、好きな時に返済をしているケースも見受けられますが、正しくは金銭消費貸借契約書を締結し、議事録を作成するなど、会社と個人間の契約を整備する必要があります。
役員借入金の注意点としては、相続の問題があります。役員借入金は役員個人の財産です。そのため、その役員が死亡した場合には、その金額は相続財産として相続税の対象となります。多額の役員借入金が会社にいつまでも残っていると、その役員の相続人は、高額な相続税を支払うことになってしまう場合もあるのです。
まとめ
出資や融資以外にも、売上債権と仕入債務のサイトを見直したり、資産の売却で資金を調達することができます。また、少人数私募債やABL(動産担保融資)、クラウドファンディングなど資金の調達方法も多様化しています。単なる追加借入の検討だけではなく、今の自社にとって最も合う調達方法を選択しましょう。
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