支払証明書と出金伝票の活用方法 領収書がなくても経費にできる!?
会社の経費は、領収書を基に損金計上を行うことが一般的ですが、領収書がなければ経費(損金)にできないという決まりはありません。また、税法では「取引等に関して作成または受領した書類」を帳簿とともに保管することが義務とされていますが、この「書類」を領収書に限定するという規程もないのです。
そもそも領収書とは支払いの事実を証明するための書類です。税法に規定されている事項(領収書の作成者名、取引があった日付、支払内容、支払額、領収書の宛名)が記載されていれば(要記載事項は2022年8月時点の情報です)、いわゆる「領収書」でも「レシート」でも問題ありません。
領収書もレシートもない場合
普段の生活の中で、ときにレシートがもらえない場合や紛失してしまう場合があります。レシートがもらえない場合とは、たとえばお祝いや香典などの慶弔関係の支出、自動販売機の飲み物、あるいは自動改札用の切符を購入した際などが挙げられるでしょう。
紛失した場合は、相手によっては再発行に応じてくれるかもしれません。しかし、不特定多数の方々が決済する店頭であれば、再発行に応じてもらえるケースは稀です。そこで活用されるのが、「支払証明書」と「出金伝票」になります。
この2つはいずれも支払った側が作成する書類で、支払内容を自己申告するものです。市販の綴りを購入して、経理担当者が1冊もっておけば十分でしょう。2つの書類内容はほぼ同じですので、2つとも導入し、社内ルールで使い分けることもできます。
支払証明書等を作成する時の注意点
支払証明書や出金伝票の作成には注意点があります。
他の参考書類を併せて保管する
支払証明書や出金伝票は、領収書やレシートがない場合の代替方法です。ただし、あくまで自己申告に過ぎないため、外部機関が発行した領収書やレシートに比べて一般的には証拠価値が下がります。あまりに作成数が多ければ、税務調査の際に疑いの目を向けられる可能性もあるでしょう。
そのため、支払証明書や出金伝票を作成する際は可能な限り他の参考書類(招待状、会葬御礼など)を一緒に保管し、支払いがあったことを客観的に証明できるようにしておくことが大切です。
必要項目は記載する
支払証明書や出金伝票の作成にあたっては、「作成者」「日付」「支払内容」「金額」「支払先」の5項目を記載することが必要です。
科目が交際費の場合は、事業関連性を証明するために、作成者に対して相手の名前や関係性を記録してもらうことも忘れずに依頼しましょう。また、領収書を得られなかった特別な理由があるものについては、後に尋ねられる可能性を考慮して経緯を記録しておくことをおすすめします。
ビジネス書式テンプレート:支払証明書
ビジネス書式テンプレート:出金伝票
支払証明書や出金伝票は税務調査に必要か
社内で作成したような書類は、税務調査で認められないのではないかと考える方もいるでしょう。しかし、決してそのようなことはありません。
確かに税務調査において経費の存在を証明するには、領収書やレシートなど外部機関が発行した書類を揃えておくことが望ましいでしょう。しかし、税務調査においては、書類の有無により経費の認否を行うわけではありません。あくまで、その支払が事実かどうかを総合的に判断するのです。そのため、領収書やレシートを保管することができなかった経費については、支払証明書や出金伝票、または他の関係書類で、支払いが発生した状況を可能な限り自ら証明することが求められます。
つまり、支払報告書や出金伝票、あるいはそれ以外の支払い事実が分かるものを提示できれば、外部機関が発行した書類がないからと言って損金算入を諦める必要はないのです。
消費税法上の注意点
ここまで経費について見てきました。しかし消費税の課税事業者については、保管書類の規程がやや異なります。もっとも注意が必要なのは、紛失時の対応です。
消費税の課税事業者が仕入税額控除を適用する際には、帳簿のほか、相手が発行した請求書等の書類の保管が要件となります。書類の保管は3万円以上の支払いについては義務ですが、3万円未満の支払いであれば省略することが可能です。なお、帳簿の保管はいずれも必要になります。
しかし、たとえば自動販売機で飲み物を購入した場合や自動改札用の切符などは、書類(領収書)が発行されません。これについては「やむを得ない場合」とし、交付を受けられなかった理由と支払い相手に関する事項を帳簿に記録することで、書類の保管義務は免除されます。
ところが書類の紛失はこの「やむを得ない場合」に含まれず、書類の保管義務は免除されません。さらに「それなら支払証明書や出金伝票を作成しよう」としても、消費税の場合、それだけでは不十分となります。
その理由は、仕入税額控除のために保管しなければならない書類が、取引の相手から交付される請求書や納品書、領収書等のほか、「相手からの確認を受けた」自己作成の仕入明細書等とされているからです。つまり支払報告書や出金伝票を作成しても、相手からの確認を受けていないため、仕入税額控除を適用することはできません。よって、消費税の課税事業者が3万円以上の支払い書類を紛失した場合は、再交付してもらうか、仕入明細書等の書類を作成し相手の確認を受けることが必要になります。
なお、インボイス制度が開始される2023年10月1日以降は、「3万円未満の支払いであれば書類の保管は不要」というルールが廃止されます。よって、3万円未満の支払いであっても領収書等の書類の保存がなければ、消費税の仕入税額控除の規定の適用を受けることが原則としてできなくなりますのでご注意ください(自動販売機で購入した飲み物代や近距離切符など、領収書等の書類を入手できない場合の取り扱いはインボイス制度開始前後で変わりません)。
支払証明書と出金伝票の保存期間
作成した支払証明書と出金伝票の保存期間は領収書やレシートと同様の扱いで、帳簿とともに原則7年間の保管が義務となります。ただし法人の場合、欠損金の繰越期間が10年であることから、欠損金の生じた事業年度分については10年間の保存が必要です。また、個人事業では一部の書類のみ5年間の保存となります。
帳簿と書類の保存期間を別にすると、手間がかかる上に誤廃棄の原因にもなりかねません。そのため、個人事業は全て7年間、法人は原則7年間で必要に応じて10年間保存と運用することが現実的でしょう。
消費税では、書類と帳簿を7年間保管する義務があります。ただし、5年経過すれば帳簿か書類のいずれかの保存によることができます。よって、前記の個人事業の7年間あるいは法人の7年間(必要に応じて10年間)に合わせれば適正に保管できるため、個別に覚える必要はありません。
まとめ
支払証明書と出金伝票の活用方法についてまとめると、以下のようになります。改めて確認し、頭に入れておきましょう。
- 領収書等を受け取れない場合や紛失した場合は、支払証明書や出金伝票の作成で経費(損金)にすることも可能だが、支払証明書や出金伝票には必要事項(作成者、日付、支払内容、金額、支払先)を明記した上で、他の参考書類も併せて保管する
- 保存期間は原則7年間で、法人の欠損金が生じた事業年度分は10年間となる
- 消費税の場合、書類紛失時においては支払証明書や出金伝票作成では不十分となる
経理プラス:出金伝票の書き方のポイントは6つ!経理処理方法も紹介
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