内部統制を理解して監査コストを下げよう!

内部統制を理解して監査コストを下げよう!

前回は、監査リスクを構成する固有リスク、統制リスク、発見リスクの各リスクについて説明いたしました。

経理プラス:監査リスクの理解が監査コスト削減の鍵!

現在の監査は、リスクに着目した、リスクアプローチによってなされており、企業が統制リスクを低くすることで、監査コストを低く抑えることができるのでしたね。
今回は、この点についてもう少し詳しく解説していきたいと思います。

監査コストを低くするキモ、統制リスクとは

統制リスクとは、重要な虚偽表示が、企業の内部統制によって防止されない可能性のことでした。つまり、適切な内部統制を整備、運用していれば、統制リスクを低く抑えることができるというわけです。
そして、この統制リスクこそが企業が監査コストを低く抑える鍵となるものなのです。

企業が大規模化、グローバル化し、取引量が増加し複雑化するにつれ、監査人は企業の内部統制に依拠して監査せざるを得なくなってきました。
内部統制が有効に機能している項目については、統制リスクが低いと考え、監査人の監査手続は簡単なものにすることができます。
逆に、内部統制が有効に機能していない項目については、重点的に監査が行われ、結果として監査コストが増大してしまうというわけです。
最近では、上場企業の内部統制が有効に機能しておらず、不正な会計が行われたケースなどもニュースで取り上げられていますので、ここで一度内部統制とは何かについて学んでおきましょう。

内部統制は監査のためだけにあるんじゃない!

内部統制とは、基本的には以下の4つの目的を達成するために、業務に組み込まれているプロセスを言います。

  1. 業務の有効性及び効率性
  2. 財務報告の信頼性
  3. 事業活動に関わる法令等の遵守
  4. 資産の保全

監査に直接関係する目的は2番目の「財務報告の信頼性」です。適切な財務報告を達成することが、内部統制の目的の一つであるということです。
しかし、内部統制にはこの他にも目的があることを忘れてはいけません。

第1の目的では、事業目的達成のための手続きを内部統制として定めることで、業務の有効性と効率性が高まるということが挙げられていますし、法令などを遵守や、会社の財産が不当に使用されたり処分・盗難されたりしないことも第2の目的、第4の目的にそれぞれ掲げられています。
つまり、内部統制は監査に関連する、財務報告のためだけにあるのではなく、企業の業務の有効化、効率化や法令の遵守、資産の保全のためにもあるというわけです。

したがって、内部統制は適正な財務報告のために、厳しくすればするだけ良いというわけではありません。他の目的(特に業務の効率性)との兼ね合いの中で、企業にとって最適な内部統制を整備、運用する必要があります。

監査は内部統制の構成要素に着目して行われる

内部統制が、財務報告の信頼性のためだけにあるのではないというのは前述のとおりです。
しかし監査が、企業の状況が適切に財務諸表に表されているか否かに着目している以上、監査においては内部統制が財務報告の信頼性という目的を達成しているかどうかが問題となります。
監査人はまず、企業の内部統制を以下のような構成要素に分解し評価します。

  • 統制環境
  • リスクの評価と対応
  • 統制活動
  • 情報と伝達
  • モニタリング
  • ITへの対応
内部統制の構成要素の概念図

そして、それぞれの構成要素の評価結果から統制リスクを決定し、それに応じて監査手続を実施するというわけです。
したがって、内部統制の構成要素はどれも大切なのですが、本稿ではこのうち、統制環境と統制活動について説明いたします。

内部統制の土台となる「統制環境」とは

統制環境とは、企業の誠実性や倫理観、経営者の意向や姿勢、経営方針、企業の慣行などのことです。すなわち、企業の気風を決定する要素といってよいでしょう。
統制環境は、企業で働く人たちの意識に、陰に陽に影響を与え、内部統制の土台となるものです。他の内部統制要素がどんなに立派に整備されていたとしても、統制環境が疎かでは、内部統制が適切に運用されることは期待できません。
監査人は、経営者層へのヒアリングや、取締役会、監査役会が適切に監視を行っているかなどを調査し、統制環境を評価します。

内部統制のかなめ「統制活動」とは

統制活動とは、経営者の指示命令が適切に実行されるための方針や手続きをいいます。
経営者の指示が適切に実行されるためには、適切な人物に適切な権限や職責が付与され、職務が分掌されていなければなりません。

たとえば、金庫に保管されている現金を、小口現金の担当者が取り出せ、しかも記帳までできるとしたらどうでしょう?小口現金担当者は誰にも知られることなく、金庫の現金を持ち出せ、帳簿上も辻褄を合わせることができてしまいます。
そのため、金庫の現金を引き出すためには、部長の承認が必要で、記帳についても小口現金担当者以外の方がするようにしておく必要があります。内部統制は多くの場合、こういった職務分掌、相互牽制の上に成り立っています。

不正や誤謬が発生するリスクを減らすために、各担当者の権限及び職責を明確にし、職務を複数の者の間で適切に分担する体制を構築することが大切です。こうして統制リスクを下げることができれば、監査コストを抑えることができるということです。

まとめ

今回は内部統制の目的について改めて確認いたしました。監査の話題でよく話題に挙がる内部統制ですが、実は監査のためだけでなく、企業の効率を高めたり、資産を保全するためにも有用であることがお分かりいただけたでしょうか。

また、内部統制のうち主要な構成要素である統制環境と統制活動についても解説いたしました。内部統制の適切性では、職務分掌についてのみ関心が向きがちですが、実際には統制環境という、企業の気風を決定する土台ともいえるものも重要だということがお分かりいただけたと思います。
内部統制の軸をなす、統制環境と統制活動を適切に整備することで、統制リスクを下げ、監査コストの抑制を図っていただければと思います。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 大野 修平

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公認会計士・税理士 前職の有限責任監査法人トーマツでは銀行、証券会社、保険会社など金融機関向けの監査、デューデリジェンス、コンサルティング業務などに従事。 現在は、会計や税金を身近に感じてもらえる様々なイベントを運営している。 無類の読書好きで、蔵書が3,000冊を超えないようコントロールすることに頭を悩ませる日々。