繰延税金資産の取り崩しで赤字が増える?効果と影響を理解しよう
繰延税金資産を計上することで、将来的に税金の支払いを少なくすることが期待できるとされています。しかし、予定した利益が確保できないときに繰延税金資産の取り崩しを行うと、赤字計上に転じる可能性があることをご存知でしょうか。
今回は、繰延税金資産とはどのようなものか、なぜ取り崩しをするのか、また取り崩しをすることで起こる影響などについてお伝えします。
繰延税金資産とは
繰延税金資産は、「税金の前払い分」と捉えることができます。税務会計では、経費を全て計上できるわけではありません。経費として計上するには一定の要件に該当することが必要ですが、企業側の会計としては要件にかかわらず経費扱いと解釈できる費用があり、一時的に税務会計との間で経費計上の差益が生まれます。
税務会計上、経費扱いとして損金にならなかった分については、企業側は税金を先に支払っているという解釈となり、後に損金として扱われる分の前払い分を繰延税金資産の勘定で計上しているのです。
繰延税金資産を計上することは、自己資本が増加することになります。資産が増えることにより、財務諸表の数字は利益が確保され、評価が向上することが期待できます。また、税金の前払いとなりますので、将来的な税金を減らす効果があることが最大の税効果メリットとして考えられています。
なぜ繰延税金資産の取り崩しをするのか
繰延税金資産には将来の税金を減らす効果がありますが、もしも将来的に利益が出ずに税金を減らす効果が消失してしまった場合には、繰延税金資産の取り崩しをすることになります。
繰延税金資産のメリットは、将来的に税金を支払うときのための前払い扱いになることです。しかし、利益が出ない場合は税金を支払う必要がなくなります。そのため、前払いとして先に税金を計上していても、その効果がなくなってしまうのです。
利益がでると見込んでいたものの、結果的に業績不振で利益を確保することができない場合に、繰延税金資産が計上されていたら、繰延税金資産を取り崩す必要がでてきます。
企業の決算で「○○会社が利益の下方修正をしました」というニュースを耳にしたことがあると思います。これは、当初は利益を見込んで計上していたのにもかかわらず、赤字になる可能性がある場合、または利益がでない可能性がある場合に、繰延税金資産の取り崩しを行い、結果として下方修正をした企業が報道されているのです。
繰延税金資産の取り崩しによる影響
繰延税金資産の取り崩しをすることによって、どのような影響がでるのか確認しておきましょう。
繰延税金資産は、将来的に利益があることが前提です。赤字となることが予想される企業は、そもそも税金を支払う必要がないため、繰延税金資産の税効果が発揮されません。
利益を見込んで繰延税金資産を計上していた企業が、思うような利益を出すことができずに繰延税金資産の取り崩しを行うと、法人税等調整額という費用が増えることになり、場合によっては、大きな赤字につながるケースがあります。
繰延税金資産の取り崩しの事例 ~ベネッセ~
日本の大企業でも、繰延税金資産の取り崩しによって最終赤字を計上した事例があります。ベネッセホールディングスは2016年3月期に、82億円もの最終損益を計上しました。しかも、前期は107億円の赤字計上と、2期連続の赤字でした。
当初は38億円の黒字を見込んでいましたが、主力事業である通信教育の会員大幅減などが響き、最終的に繰延税金資産95億円を取り崩すこととなり費用が増加、赤字計上を余儀なくされました。
ベネッセに限らず、同じく大企業であるパナソニック、かっぱ寿司などでも繰延税金資産の取り崩しが行われ、業績を大幅に下方修正した例があります。
かっぱ寿司の場合は、ベネッセホールディングスのような急激な業績の悪化が引き金になったわけではなく、業績が下がり続けたことにより赤字が続き、2017年3月期では、繰延税金資産はすべて取り崩すこととなりました。業績悪化と、取り崩しによる費用の増加が、さらに業績を悪くしてしまった事例です。
繰延税金資産を計上する場合、業績が悪化したときに利益の確保が難しくなること、そして繰延税金資産を取り崩すと、さらに赤字が拡大してしまう恐れがあることをしっかりと理解しておく必要があるでしょう。
まとめ
今回は、繰延税金資産についてご紹介するとともに、繰延税金資産の取り崩しをすることで起こる影響や、実際に取り崩しを行い赤字計上とした企業の事例などをお伝えしました。
将来的に支払う税金を減らす効果があることは確かですが、見込み通りに利益が出ないときには、利益減のみならず、取り崩しによって費用が増えます。さらに利益が出にくい状況になるおそれがあることは注意しておくべきでしょう。
特に急激な業績悪化では、取り崩しで赤字がさらに拡大するケースが珍しくないことを覚えておきたいですね。
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