IFRSを適用すべき企業、適用すべきではない企業

IFRSを適用すべき企業、適用すべきではない企業

2011年頃、金融庁が「2015年に国際財務報告基準(IFRS)を強制適用する」と公表しました。日本の証券市場の国際競争力を高めるための重要施策として公表したものの、実務負担の大きさから国内上場企業等より強い反対があり、現時点では強制適用の目途がたっていません。

現在、日本の上場企業は、日本の会計基準(JA-GAAP)により決算情報を開示する義務を負っていますが、一部企業では「任意適用」という形でIFRSを適用しています。そこで、自分が勤める企業がIFRSを適用すべきか否かを判断する基準を考えてみたいと思います。

IFRS適用のメリット・デメリットのおさらい

前回掲載した「いまさら聞けないIFRS(国際会計基準) 概要とメリット・デメリットを理解しよう」にて詳細を説明しましたが、本件について簡単におさらいをしてみましょう。

IFRS適用のメリット

  1. 経営管理への寄与
  2. 比較可能性の向上
  3. 業績の適切な反映
  4. 海外投資家への説明の容易さ
  5. 海外での資金調達の円滑化

以上より、「海外展開している企業」と「外国人投資家向けIRに力を入れている企業」にとってメリットがあるということです。

IFRS適用のデメリット

  1. 事務負担の増加
  2. コストの増加
  3. 適用の困難さ

以上より、いかなる企業もIFRS適用により一定のコストが発生することが分かります。

企業の意思決定は、自社の企業価値の向上に寄与するか否かを基準になされるべきであります。一般的にデメリットよりメリットの方が大きい場合にIFRS適用が企業価値向上に寄与しますが、メリットとデメリットのいずれの方が大きいかは各企業によって異なります。

その判断基準を考えるために、IFRS適用事例と傾向を見ていきましょう。

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IFRS適用企業一覧と傾向

2016年8月時点では、IFRS適用企業数は86社、今後適用することを決定している企業数は34社ありましたが、2020年1月時点では、IFRS適用済企業数は205社にのぼります。適用企業一覧は東京証券取引所のホームページにて確認することができます。

上場市場から傾向を考える

上場市場とIFRS適用企業数(2016年8月時点)

  • 東証一部 78社(全1,856社。適用率4.2%)
  • 東証二部 0社(全543社。適用率0.0%)
  • マザーズ 4社(全205社。適用率1.9%)
  • ジャスダック 4社(全845社。適用率0.4%)

IFRS適用企業を上場市場別に集計すると、東証一部が適用率4.2%とトップであり、その他市場は適用率が低いことが分かります。ただ、傾向として顕著といえるほどではありませんでした。市場別に外国人投資家による株式売買比率をみると、東証一部が約7割であるのに対して、マザーズは約3割、東証二部・ジャスダックは約2割であることから、外国人投資家売買比率が高い企業ほど、IFRS適用に積極的であることが推測できます。

時価総額から傾向を考える

時価総額とIFRS適用企業数(2016年8月時点)

  • 100億円未満 1社(全1,403社。適用率0.1%)
  • 100億円~500億円未満 11社(全1,100社。適用率1.0%)
  • 500億円~1,000億円未満 15社(全308社。適用率4.8%)
  • 1,000億円~1兆円未満 34社(全533社。適用率6.4%)
  • 1兆円以上 25社(全105社。適用率23.8%)

IFRS適用企業を時価総額別に集計すると、時価総額1兆円以上が適用率23.8%とトップであり、1兆円を切ると適用率が一気に下がることが分かります。上場市場別より顕著な傾向が見受けられました。時価総額が大きい企業は、一般的に利益水準が高いこと、外国人株主比率が高いことが特徴としてあげられることから、利益水準が高く企業体力がある企業、外国人株主向けIRが積極的な高い企業が推測できます。

営業利益から傾向を考える

営業利益とIFRS適用企業数(2016年8月時点)

  • 10億円未満 3社(全1,603社。適用率0.2%)
  • 10億円~100億円未満 11社(全1,305社。適用率0.8%)
  • 100億円~1,000億円未満 39社(全458社。適用率8.5%)
  • 1,000億円以上 18社(全83社。適用率21.7%)

IFRS適用企業を営業利益別に集計すると、営業利益1,000億円以上が適用率21.7%とトップであり、営業利益が高ければ高いほどIFRS適用率が高いことが分かります。IFRS適用には一定のコストがかかるため、企業体力があることが不可欠です。そのため、企業体力指標の1つである営業利益が高い企業ほど、IFRSの適用率が高いと推測できます。

海外売上比率から傾向を考える

海外売上比率とIFRS適用企業数(2016年8月時点)

  • 10%未満 30社(全2,360社。適用率1.3%)
  • 10%~50%未満 22社(全714社。適用率3.1%)
  • 50%~70%未満 15社(全234社。適用率6.4%)
  • 70%以上 19社(全141社。適用率13.5%)

IFRS適用企業を時価総額別に集計すると、海外売上比率70%以上が適用率13.5%とトップであり、海外売上比率が高ければ高いほど適用率が高いことが分かります。海外売上比率が高い企業は、海外子会社を有していることがほとんどであるため、経営管理面でのメリットを享受することを目的の1つとしてIFRSを適用していると推測できます。

IFRS適用の検討をすべき企業とは?

上記のように、IFRS適用のメリット・デメリット、IFRS適用企業の傾向から、IFRS適用の検討をすべき企業は次のとおりであるといえます。

  1. 時価総額500億円以上であること
    時価総額が大きければ大きいほど外国人株主比率が高く、IFRS適用のメリットである「外国人投資家へのIR効果」が享受しやすい傾向があります。
  2. 営業利益100億円以上であること
    IFRS適用には一定のコストがかかるため、当該コストを吸収できるだけの企業体力(利益水準)が必要です。
  3. 海外売上比率50%以上であること
    海外売上比率が高ければ高いほど海外子会社の数値管理の重要性が高まります。その際、日本と海外で数値の集計基準が異なると分析に弊害が出る可能性があるため、IFRSという同一の物差しで数値を集計することによるメリットが大きくなる傾向があります。

上記のうち、いずれか2つ以上に当てはまる企業はIFRS適用に向けた検討を進めることをオススメいたします。

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● 著者

堀 直之(株式会社もしも 取締役 兼 CFO)

堀 直之(株式会社もしも 取締役 兼 CFO)

2007年4月、大和証券SMBC株式会社(現 大和証券株式会社)に入社し、IPO・M&A等のアドバイザリーを担当する投資銀行部門にて、主に製造業セクターの事業法人への財務アドバイザリー業務に携わる。 2012年3月、株式会社アイスタイルに入社し、経理業務のほか、海外子会社の設立・管理、M&Aその他投資業務、マザーズから東証一部への市場変更等の幅広い業務に携わる。2013年7月、株式会社もしもに入社し、取締役として主に経営企画・管理部門を統括。