不良債権の会計処理と8つの回収方法、回収不能時の対応方法を紹介
会社運営が長くなると、売掛金の回収ができないなどの不良債権を抱えることもあるでしょう。気づかぬうちに不良債権化している債権が存在している可能性もあります。
この記事では、不良債権の概要や不良債権の回収方法、回収できないときの仕訳の仕方などについてご紹介します。いつでも対処できるようにしっかりと理解していきましょう。
不良債権とは
不良債権とは、一般的に「金融機関が融資した貸付金が回収できない状態にある債権」を指します。不良債権は金融機関の融資による貸付金の不良債権がクローズアップされることが多いですが、債権という意味では、個人の家賃や法人の売掛金未回収なども不良債権となるケースがあります。不良債権は債権分の代金が回収できないだけでなく、CFの悪化を招きます。
不良債権の具体例
具体的な不良債権を法人のケースで確認しましょう。
- 売掛金
- 受取手形
- 貸付金
- 立替金
- 未収入金 など
売掛金
売掛金は、商品、製品、サービスを納品した代金の売上債権です。信用取引によって成り立つものですが、取引先が売掛金の支払いを行わなかった場合に不良債権となります。
受取手形
商品、製品、サービスを納品した代金の売上債権であることから、売掛金と同じ扱いです。期日到来に取引先の手形が決済にならなかった場合など、回収不能の際に不良債権になります。
貸付金
関連会社や特定の個人に貸付を行った場合に、未回収になると不良債権となります。貸付期間により短期貸付、長期貸付に区分されます。
立替金
取引先や特定の社員に代わり立て替えした場合に、「負担した発送費」などが未回収となることで不良債権になります。立替金でも消耗品などの経費となる費用については不良債権から除かれます。
未収入金
未収入金の種類のうち、未収請負金、未収加工料、未収地代家賃について未回収となった場合に不良債権となります。
不良債権比率とは
不良債権比率は、債権がどのくらい不良債権となっているか、その割合を数値化したものです。不良債権比率の計算式は次のとおりです。
不良債権比率が低くなるほど、優良な債権が多いことを表します。売掛金などの債権は、のちに回収されるものであり、貸借対照表では資産として扱われます。しかし、不良債権が含まれているなら、回収見込みのある純粋な資産は把握しにくくなります。そのため、不良債権の割合を算出することで正確な資産分を明確にするわけです。
不良債権のデメリット
債権の回収が見込めない不良債権があることは、会社にとってプラス要素とはいえません。不良債権があることは、「その分の資金がうまく循環していないのではないか」と判断される可能性があるためです。金融機関に融資を打診する際に、長期化した債権はチェック対象となるリスクがあります。
とはいえ、決算書の体裁を保つために、明らかに不良債権化している売掛金をそのまま売掛金として計上しておくと、粉飾決算と判断されてしまうリスクもあります。会計処理として、貸倒引当金に振り替えることも検討する必要があるでしょう。
なお、融資時のチェックポイントについては、こちらの「融資担当者はここを見ている -回転期間編-」の記事も参考にしてください。
不良債権の回収方法
不良債権だからとはいえ、何もアクションをしないでいると一定期間で自動的に時効が到来してしまいます。次のような手順で回収を進めましょう。
電話による督促
債務者に対して、支払いが完了していない債権があることを電話で伝えます。相手先も認識していながら、あえて現状維持を続けているケースもありますので、いつまでに支払いできるか確認します。
支払いが困難な場合には、「分割にする」「期間を延長する」といった提案をするための話し合いの場を持ちましょう。あいまいに終わらせないことが大切です。
催告書の郵送
電話で話し合いが進展できないときや、連絡がつきにくいときなどは、督促状など文書を郵送します。直接のやりとりができなくても、支払い金額や方法などについて新たな計画案などを提案することもよいでしょう。
内容証明郵便を介しての通知の督促
督促状などを送っても相手側から何の反応もないとき、支払いが実行されないときは、法的な手段に進むことを意思表示するために「内容証明書」を郵送します。内容証明書は裁判にも関係してくるもので、一定の効力があります。ひな形が探せる場合もありますが、弁護士に作成を依頼すると安心です。
公正証書の作成
相手先との話し合いが進展し、支払い時期の条件が決まれば公正証書を作成します。公正証書は、お互いの約束事を公にするもので、裁判などでも公正証書の内容は優先されます。
経営状態の悪い会社から債権回収する方法
経営状態が悪く回収の見込みがない場合、代金以外のもので債権回収する方法も検討します。
納入した商品の引き上げ
納品した商品を引き上げることで、代金回収の代わりにします。実質、返品のようなものですが、現物支払いという意味合いが近いでしょう。
債権譲渡
債権を第三者に譲渡する方法です。相手側は会社に債務を負っているわけですが、相手側にも債権があります。その債権を支払いの代わりとして譲渡するというものです。譲渡されると、債務者を通さずに直接回収できます。
相殺
相殺は、相手側への債権と、相手側に対する債務がある場合に、お互いで権利を相殺することです。どちらにも債権があることが要件です。
不良債権の回収ができないケース
最終的に不良債権を回収できないケースとして、次のような例が考えられます。
- 債権の時効が到来している
- 不良債権である旨の物証がない
- 相手側に支払能力が見込めない
- 経営破綻などにより行方不明
- 相手側が死亡
回収できない事由はさまざまですが、全額が完全に回収不能になるか、一部のみでも回収できるかは引き続き話し合いを進めることもあります。
不良債権の会計上の処理方法
不良債権がある場合は、どのような処理方法を選択するかで異なります。
回収不能の場合の仕訳(貸倒損失)
経営破綻で取引先が消滅してしまった場合は、貸倒損失で処理します。仕訳は次のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
貸倒損失 | ●●円 | 売掛金 | ●●円 |
回収困難の場合の仕訳(貸倒引当金)
取引先が回収不能になることをあらかじめ予測できている場合に、貸倒引当金で処理するケースもあります。仕訳は次のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
貸倒引当金繰入 | ●●円 | 貸倒引当金 | ●●円 |
回収時の仕訳
貸倒引当金として計上したあとに、回収になった場合の仕訳は次のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
貸倒引当金 | ●●円 | 貸倒引当金戻入 | ●●円 |
貸倒損失の損金算入は、利益を圧縮することになるため一定の要件に該当しなければ計上できません。安易に計上することによって利益操作とも受けとられ、税務調査の対象につながることもありますので、慎重に判断しましょう。
まとめ
今回は不良債権の中身について、債権の種類や回収不能となる事例、回収の手順、仕訳方法などをお伝えしました。回収のためのアクションはできるだけ避けたいと考えている方もいるかもしれませんが、期間が長くなるほど手続きも複雑になってしまいます。早期に回収の行動を起こし、スムーズな回収計画ができるように進めましょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。