これだけ読めばOK! 不動産取引にかかる消費税

これだけ読めばOK! 不動産取引にかかる消費税

経理に携わる人の中には、不動産取引の消費税に苦手意識のある方が多いようです。
理由として、出現頻度が少ないことに加えて、関係する法令が複雑で取引金額が大きいために「処理を誤った際のインパクトが大きいこと」が挙げられます。

不動産取引の消費税業務は、ポイントを掴んで進めることが大切です。

まず、消費税とは何にかかるのか、という基本の部分を理解しましょう。その上で、不動産取引における消費税で経理担当者が押さえておきたいポイントをお伝えします。

目次

消費税はどんな取引にかかるのか ―課税取引と非課税取引―

たとえば、不動産売買だと建物は消費税がかかりますが土地は消費税がかからないということは理解していますか?
経理業務の経験がある人であれば、消費税がかかる取引(課税取引)とかからない取引(非課税取引)は感覚的に判断できると思いますが、まずは課税取引と非課税取引の基本理解を深めましょう。

消費税がかかる取引(課税取引)

消費税がかかる取引の理屈はシンプルで、下記4つの条件が揃う取引が対象となります。

課税要件1:日本国内の取引であること

 <不動産の例> 海外にある建物を売っても消費税はかかりません。

課税要件2:事業活動であること

 <不動産の例> 自宅を売却しても、預かった消費税は納税しません。

課税要件3:対価を得ていること

 <不動産の例> 家を相続した場合には、消費税はかかりません。

課税要件4:モノの売り貸し、サービスの提供であること

 <不動産の例> 寄付金をもらった場合など「モノやサービスは何も渡してないけど、お金だけもらった」という場合は、消費税はかかりません。

この4つの要件は、不動産だけではなくすべての取引において「消費税がかかるかどうか」の判断に使われています。
経理担当者の皆様は消費税の判断に迷った場合には、この4つの条件を参考にしてみてください。
国税庁HP:課税の対象となる取引

特例で消費税が免除されている取引(非課税取引)

課税取引の4要件を満たす取引であっても、特例でその消費に税金の負担を求めることが社会的に望ましくない取引17種類については消費税が課税されないことになっています。

たとえば、健康保険を使った医療費や、学校の授業料は、上記の4要件を満たしていますが消費税がかかりません。

 <不動産の例>
 ・土地の譲渡ないし貸付は消費税が課税されません
 ・住宅の貸付も消費税が課税されません

 国税庁HP:非課税となる取引

具体的な不動産取引で注意が必要な取引一覧

課税取引と非課税取引の基本から「そもそも消費税はどんな取引にかかるのか」はご理解頂けたでしょうか。
続いて、実務に携わる経理担当者ならば事前に知っておきたい必要な取引をひとつずつお伝えします。

土地建物の売り買い

土地の譲渡(借地権を含む)

非課税です。

土地の定着物:庭木や石垣などを土地と一体で譲渡する場合

非課税です。

土地と建物の一括譲渡

土地部分は非課税です。
建物部分は課税取引です。
※参考:土地建物の譲渡代金が一括で計算されている場合には、時価の比率などによって合理的に算定しなければなりません。

土地に埋まっている地下型の車庫

課税取引です。土地ではなく「設備の譲渡」と見なされるためです。

土地の仲介手数料

課税取引です。土地にかかる取引ですが、「サービスの提供」に対する「対価」だからです。

不動産取得税、印紙税などの税金の支払い

消費税の対象外です。「モノやサービス」に対して支払ったわけではないためです。

土地建物の貸し借り

土地の貸付

非課税です。

土地の「短期の」貸付(貸付期間が1月未満の場合)

課税取引です。
貸付期間が1ヶ月未満かどうかは契約内容で判断します。
そのため、「実際の貸付期間は1ヶ月以上ではあるが契約期間が1ヶ月未満」の場合は課税取引ですし、「実際の貸付期間は1ヶ月以内ではあるが契約期間が1ヶ月以上」の場合は非課税取引となります。

土地付き建物の貸付:土地分、建物分の金額が別々に表示されている場合

全額が課税取引です。

駐車場、テニスコートなどの貸付

課税取引です。
「施設として」の貸付とみなされます。

更地を駐車場として使用する場合

非課税です。
利用用途は消費税の判断材料ではありません。土地としての貸付に該当するためです。

住宅の貸し借り

居住用家屋の貸付

非課税です。「契約において」居住に使うことが明らかにされているものに限られます。

居住用マンションの一室を事務所として貸す場合

課税取引です。ただし、「契約において」どうなっているかで判断します。居住用として契約した部屋を、無断で事務所として使用した場合は非課税となります。

敷金の支払い

消費税がかからない取引です。「モノやサービス」に対して支払ったものではなく、敷金分の資金を預けただけなので、消費税の4要件を満たしません。

参考:社宅にかかる取引

社宅用マンションの賃借料

非課税です。従業員に貸し出すことが前提であっても居住用だからです。

社宅を従業員に貸し付けた場合の賃料

非課税です。従業員に対するものであっても、居住用だからです。

地代家賃

資材置き場や駐車場として使用する「更地」の地代

非課税です。

更地の地代のうち、契約が1ヶ月未満のもの

課税取引です。
貸付期間が1ヶ月未満かどうかは約書により判断します。

駐車場としてアスファルトが敷かれた土地の地代

課税取引です。
「施設として」の貸し借りと見なされます。

土地付き建物を事務所として使用している場合:それぞれの金額が区分されている場合

全額が課税取引です。

店舗の賃借料

課税取引です。

経理担当者が知っておきたい不動産の税金のこと

不動産価格は税込表示

2013年10月に「消費税転嫁対策特別措置法」という法律で税込表示ではなくても良いと決められましたが、不動産価格については「不動産の表示に関する公正競争規約施工規則」において消費税も含めて表示することとなっています。

仲介手数料は税抜価格に対してかかる

不動産価格は税込表示ですが、仲介手数料として「売却額の数%」として計算される金額は税抜価格をもとに計算することとなっています。

消費税を「いつの時点」で判断するのか

住宅の売買で消費税が課税されるのは、住宅の引き渡し時点です。そのため、消費税率が改正される場合にはその改正日の前日までに引き渡しが行われたか否かで適用される消費税率を判断することになります。

最後に

今回は消費税の本質から説明し、その後不動産取引の具体例について消費税の考え方を説明しました。不動産取引にかかわらず消費税の判断についての感覚をつかむことはできたでしょうか?

その他の消費税について、経理担当者の皆様が押させておきたい論点についてまとめてありますので、参考にしてみてください。

経理プラス:書類1枚で数千万円? ―絶対に間違えてはいけない消費税の届出―

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 服部 峻介

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北海道大学経済学部卒。有限責任監査法人トーマツ入社後、上場企業の監査、内部統制、IPO支援、株価算定、M&A、不正調査等を実施。経営コンサルティング会社役員を経て、Seven Rich会計事務所を開業。スタートアップ企業を中心に、3年で160社以上の新規クライアントに対して会社の設立から会計税務、総務、ファイナンス、IPOコンサルなど幅広い支援を行っている。

セブンリッチ会計事務所