税理士が解説!月次決算のメリットと導入ステップ
事業をしていれば最低でも年に1回は決算をしていると思います。年次で決算をすることで事業の状況を把握したり、それを株主などの外部利害関係者に伝えたりすることができます。もちろん、税務申告も年次決算を基にしているでしょう。
しかし、それとは別に月次で決算を組んでいる会社もあります。
これらの会社はなぜ月次で決算をしているのでしょうか?本稿では月次決算のメリットとその具体的なステップについてお話したいと思います。
月次決算とは?そのメリットは?
月次決算とは毎月実施する決算のことです。
では、なぜ月次決算が必要とされるのでしょうか?ここでは年次決算と比較することで、月次決算の4つのメリットを浮き彫りにしたいと思います。
タイムリーに現状を把握し、経営判断に活かす
年次決算は年度末が過ぎてから決算を組みはじめます。そのため年度末が過ぎ、しばらくしてからでないと会社の状況が分かりません。
一方、月次決算では月末後すぐに決算に取り掛かり、経営判断の材料となるレポートを10日以内に経営陣に提出することを目指します。
そのため、経営陣は年次決算では得ることのできないタイムリーな情報に基づき経営判断を行うことができるのです。
予算と比較し、原因分析や改善対策を行うことができる
月次決算は月次予算と比較することでさらに効果を発揮します。
年度予算の根拠となる月次予算と、月次の実績である月次決算とを比較することで、目標を達成することができたのか、目標に満たない場合には何が原因で、どのような改善策が必要なのかを分析することができます。
余裕をもって節税対策ができる
年度決算しかしていない場合、申告期限目前にならなければ納税額がわかりません。時間が限られた中では、できる節税対策も限られますし、場合によってはまったく打つ手がないこともあります。
月次決算をしていれば、年度末が近づくにつれ年次決算の着地が高い精度で予測できるようになります。年次決算の数か月前に着地を予想できれば、余裕をもって節税対策をすることができ、無駄なキャッシュアウトを抑えることができます。
金融機関の心証を高めることができる
金融機関へ融資を申し込む場合にも月次決算は役立ちます。
金融機関は会社の状態を把握した上で融資条件を決定しますが、そもそも会社の直近の状況が分からなければ融資条件は厳しいものとなります。
適切に月次決算をしている会社に対し、金融機関の心証が良くなるのは当然と言えるでしょう。
以上、月次決算には多くのメリットがあることがお分かりいただけたと思います。
月次決算は、主に外部報告に用いられる年次決算とは異なり、経営判断、業績管理のために利用されるものですので、細かい正確性よりもスピードが重視されます
そのため、年次決算とは手続き面でも少し異なる部分があります。次では月次決算をどのようなステップで進めていけば良いかについて解説いたします。
月次決算の具体的なステップ
これから月次決算をしようとしても、月次決算は年次決算と目的が違いますので、年次決算と同じ手続きを毎月やれば良いというものではありません。
年次決算は、決算日後2ヶ月以内に正確な決算書を作成することを目標としていると思います。これは、年次決算が会社法などの法律に基づいて行われるためです。
一方、月次決算にはそのような法律はありませんので、会社の状況に応じて自由に作成期日や成果物を定めることができます。
月次決算はタイムリーな経営判断、業績管理に用いられるものですので、なるべく翌月10日以内に成果物を完成できることが望ましいといえます。
具体的には以下のようなステップで進めると良いでしょう。
①月次決算書の作成
月次決算書を作成するためには、月次決算整理仕訳を入力し、月次試算表を作成しなければなりません。この後のステップでの必要日数を考えると、翌月6日~7日目までには月次決算書を作成しておく必要があります。
そのため、翌月5日目までに各部署から必要なデータを提出してもらうことが重要となります。
これまで年次決算しかしてこなかった会社の場合には、5日目までにデータを提供することについて各部署から抵抗があるかもしれません。
そのため、月次決算を実施するには、各部署への説得やデータの入手時期・入手経路の設定など経営陣の強力なサポートが必要になります。
また、正確性よりもスピードを重視する月次決算の特徴から、どうしても提出期限に間に合わないデータは見積もりで計上することも可能です。月次決算では見積もり計上しておき、実績が判明した段階で洗い替えて、実績データを入力します。
また、月次決算にどのような成果物を作成するかについても、経営判断、業績管理に利用するという視点から選定します。
たとえば、会社単位の損益計算書、貸借対照表は必要だとしても、部門別には損益計算書だけという様に、必ずしも全ての財務諸表が必要というわけではありません。
逆に、売上高の推移表などは品目別だけでなく、得意先別、担当者別、地域別などの切り口も必要になってくるかもしれません。
経営陣の経営判断、業績管理に役立つかどうかという視点から、どのような成果物を作成するかを決定しますので一概には言えませんが、たとえば、以下のような成果物が必要でしょう。
- 全社の損益計算書(予算、実績)
- 全社の貸借対照表(予算、実績)
- 全社の損益推移表
- 全社の資金繰り表
- 借入金一覧表
- 部門別損益計算書(予算、実績)
- 部門別損益推移表
- 売上高推移表(品目別、得意先別など)
- 受注残高表(品目別、得意先別など)
- 経費推移表
- 売掛金残高表、買掛金残高表
- 在庫一覧表
②予算実績比較
月次決算のメリットを最大限享受するためには、月次予算の策定が不可欠です。
月次予算は年度の利益計画と整合性あるものにしましょう。また単に年度の利益計画を12等分したものではなく、季節変動などを考慮して作成する必要があります。
こうして作成した月次予算と月次決算とを比較し、目標に達していない場合にはその原因を分析し、必要であれば対応策を立案した上で、月次決算会議を招集します。
翌月9日までに予算実績比較を終えていることが望ましいでしょう。
③月次決算会議の開催
タイムリーな経営判断、業績管理のために月次決算をやっているのですから、月次決算会議には経営陣、部門責任者が出席する必要があります。
月次決算会議では、貸借対照表、損益計算書だけでなく、販売、仕入、生産、在庫、資金繰りなどの状況を示す資料が必要でしょう。また、売上総利益率、経常利益率、流動比率、固定比率、自己資本比率などの財務指標やグラフなどがあれば説明もしやすいですし、対応策も立てやすいと思います。
月次決算会議は翌月10日までに開催し、タイムリーな経営判断、業績管理ができるようにします。
④対応策の立案・実施
月次決算会議にはせっかく責任者が出席しているのですから、なるべくその場で対応策を決定するのが望ましいといえます。
しかし、現実問題として、会議中に全ての対応策を決定することは難しいと思います。
そのため、月次決算会議が終わった後のフォローが重要となってきます。具体的には以下の点をフォローします。
- 月次決算会議で決定された対応策の進捗状況をモニターする
- 月次決算会議では対応策が決定されなかったものについては、原因分析、対応策の決定、進捗状況をモニターする
以上が月次決算の1サイクルとなります。月次決算を導入する場合には、この4ステップを毎月繰り返すことになります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
月次決算には年次決算とは異なる様々な面があることがお分かりいただけたと思います。
月次決算を実施するには経理部だけでなく、各部署の協力体制が必要となります。そのため、経営陣の強力なサポートが不可欠です。
月次決算を導入した当初は、担当者も作業に不慣れですし、どのような成果物を作成すれば良いか迷うこともあるでしょう。
しかし回数をこなすにつれ、それらの問題は解決されます。
是非、月次決算を取り入れ、素早い経営判断、業績管理ができる体制を整えてほしいと思います。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。