原価管理のために押さえておきたい原価計算の基礎知識
複数の業務を行っている企業では、たとえば「工事」「コールセンター」「人材派遣」「物品販売」と様々な業務を行っています。それぞれでまったく異なる業態のため、それぞれで異なる原価管理を行っています。
それぞれに合った原価管理を行っておかないと、日々の業績管理だけでなく、予算作成時において原価実績をベースに作成しますので、きちんとやっておかないと予算がおかしくなってしまいます。予算数値は各部門にとって一年間縛るものになりますので、日々の原価管理がとても重要になります。
原価管理の方法は厳密に決められたルールはありません。ただ昭和37年11月8日に大蔵省の企業会計審議会により発表された「原価計算基準」を参考に、自社に適応した原価管理方法を規定するのがいいです。
この記事ではまず、原価管理の手法ではなく、「原価とは何か」「原価計算の目的」とは何か説明したいと思います。
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原価とは
原価とは、経営における一定の給付にかかわらせて、把握された財貨又は用役(以下これを「財貨」という。)の消費を、貨幣的価値に表したものである。
「原価計算基準」『三原価の本質』
言い換えると、これは「提供する商品やサービスのために要した費用」と理解してください。
小売業は100円で買ってきたものを100円で売ったりはしません。(客寄せのための商品は別として)
商品を仕入れるのに、お店に持ってくるための配送費であったり、商品によっては保管料や関税など様々な費用が発生します。仕入れ値にそれらの費用を積み上げたものが「(仕入)原価」になります。
製造業の場合、材料を仕入れて加工して販売します。材料費、加工にかかる労務費、加工するための水道光熱費などの経費が「(製造)原価」となります。
これらの原価に利益を乗せた金額が販売価格になります。
原価計算の目的
原価計算には様々な処理方法がありますが、会社や業態によって方法は様々です。自社にあっていない方法を採用しても、手間だけ意味のないものになってしまいますので、目的を把握しておきましょう。
(1)「財務諸表作成目的」
企業の出資者、経営者等のために、過去の一定期間における損益ならびに期末に財政状態を財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計すること。
「原価計算基準」の『原価計算の目的』
損益計算書のどこに原価を表示するか決められています。簡単な損益計算書で見てみましょう。
項目
- 売上高
- 売上原価(または製造原価) ← ここ集計
- 売上総利益
- 販売費及び一般管理費
- 営業利益
- 営業外収益
- 営業外費用
- 経常利益
(※経常利益以下は割愛しました)
会社が営業活動するなかで発生する費用には様々なものがあります。人を雇ったら発生する人件費、事務所を借りるのにかかる地代家賃、お金を借りれば支払利息などがあたります。しかし、営業活動のなかで発生した費用でも、その発生事象により区別して表示をします。
人件費は、製造部門に所属する人にかかる費用は製造原価に集計され、総務や経理など管理部門に所属する人にかかる費用は一般管理費に集計されます。
支払利息は損益計算書上、営業外損益の部の営業外費用に集計され、経常利益に反映されます。
会社によって集計方法が異なると、会社の良し悪しを判断することが難しくなるため、損益計算書のどこに原価を集計するかが決められているわけです。
(2)「販売価格計算目的」
価格計算に必要な原価資料を提供すること
「原価計算基準」の『原価計算の目的』
売価は原価に利益を上乗せして決まります。
式にすると以下のようになります。
「売価=原価+利益」
この式の中でまず把握しなければならないのは「原価」です。「原価」の把握がまずあって、それに利益をいくらに設定するかで売価が決まるわけです。
簡単に原価を把握しましょうと言っても、原価の把握は非常に大変です。
おにぎり屋を例に考えてみます。梅干しおにぎりのみを売るお店があるとします。
1種類ですので、値段も1つしかありません。おにぎりを1日1,000食で販売しています。材料費が2.8万円、労務費が3.8万円、経費が1万円で合計は7.6万円。1個当たりの原価は76円です。
最低でも1個当たり20円の利益を得たいと考えている場合、最低でも96円以上を売価に設定する必要があります。しかし、近くにライバル店が出店して95円で販売している場合、負けないように90円で販売したとしても、14円の利益を得ることができます。
この例えで見ても、おにぎりを作るのに色々な費用が発生しているのがわかります。様々な商品を扱えばそれぞれに原価は異なりますし、原価把握が大変になります。
しかし、原価把握がきちんとされていないと、売価を決定することができないわけです。
(3)「原価管理目的」
経営管理者の各階層に対して、原価管理に必要な原価資料を提供すること。ここに原価管理とは、原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し、これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずることをいう。
「原価計算基準」の『原価計算の目的』
先ほどおにぎりの場合、1個当たりの原価は76円で作れると見込んでいました。この見込んでいた原価を標準原価と言います。
しかし、実際に作ってみたら1個当たりの原価が78円だった。これを実際原価と言います。
1,000個作る原価合計を7.6万円と見込んでいたのが、どれかがもしくは複数の要因で2千円費用が増えてしまったわけです。
標準原価を設定しているからこそ、なぜ2千円増えたのか、どの部分の費用が増えたせいなのかを分析し、改善策を講じることができるわけです。
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(4)「予算管理目的」
予算の編成ならびに予算統制のために必要な原価資料を提供すること。ここに予算とは、予算期間における企業の各業務分野の具体的な計算を貨幣的に表示し、これを総合編成したものをいい、予算期間における企業の利益目標を指示し、各業務分野の諸活動を調整し、企業全般にわたる総合的管理の要具となるものである。
予算は、業務執行に関する総合的な期間計画であるが、予算編成の過程は、たとえば製品の組合せの決定、部品を自製するか外注するかの決定等個々の選択的事項に関する意思決定を含むことは、いうまでもない。
「原価計算基準」の『原価計算の目的』
これまでのおにぎり屋の説明では1つの商品で説明してきました。商品が梅干しおにぎりしかない場合、かかる費用すべてが原価と見ることができます。しかし、商売を営む以上商品のラインナップはもっと多いです。
もう1商品増えて鮭おにぎりも提供することにした場合、具材が違いますし、調理の手間も発生するので、原価が変わります。それぞれ500個ずつ作り、材料費が3万円、労務費が4万円、経費が1.2万円で総額8.2万円になったとします。梅干しおにぎりの原価は1,000個作った場合の半分として3.8万円。総額から3.8万円引いた4.4万円が鮭おにぎりの原価となります。
500個×100円:5万円-3.8万円=1.2万円
500個×110円:5.5万円-4.4万円=1.1万円
当たり前ですが、同じ数量を売った場合でも、売価と原価が違いますので利益が違います。
予算作成では、まず利益目標を決めて、売上目標を設定します。
利益も売価も異なる商品またはサービスがあるので、何をどれだけ売るかといった計画を立てることで予算を作成します。
予算の作成方法は会社によって異なりますが、現場からこれだけできますといったボトムアップでの予算と、経営側がこれだけやってほしいというトップダウンでの予算とを擦り合わせて作成されていきます。現場は保守的な数値なのに対して、経営側は高い数値を要求する傾向にあります。
このギャップを埋めるために、売上の構成を見直して伸び率がいい商品に注力する方針を立てたり、商品を作成する工程を見直してコストを削減するといった改善計画を立てたり、または売上増加が見込める部門に売上予算を上乗せするなど、原価構成から改善できる点や投資すべき案件を見出すためにも原価計算資料が有効です。
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(5)「経営基本計画作成目的」
経営の基本計画を設定するにあたり、これに必要な原価情報を提供すること。ここに基本計画とは、経済の動態的変化に適応して、経営の給付目的たる製品、経営立地、生産設備等経営構造に関する基本的事項について、経営決定を決定し、経営構造を合理的に組成することをいい、随時的に行われる決定である。
「原価計算基準」の『原価計算の目的』
(4)は期間予算管理を目的としていますが、(5)はもっと長期的な視点を目的としています。
会社を将来より発展させていくために、新商品開発や設備投資、要員計画などにどれくらい投資すべきかを試算するために、原価計算が有効な資料になります。
まとめ
価格を決定するというのは商売の基本中の基本です。高すぎても売れませんし、安すぎたら商売になりません。損をしない限度額と購入してくれるであろう上限額を設定し、その範囲内で柔軟に価格決定を行うベースが原価になります。
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