原価計算はエクセルでできる?よく使う関数・機能と実施する際の手順

原価計算とは、製品の製造にかかる費用を総合的に計算するプロセスのことです。主に、製造業などの業種で使用されています。原価計算を行うことによって、製品のコスト構造を理解できます。そのため、利益を最大化するための価格設定や、効率的な経営管理を行うために製造原価を計算するのは必要不可欠だといえるでしょう。今回は、エクセルをダウンロードして原価計算を行いたい人向けに、使用する関数や原価計算でエクセルを使用するデメリットを解説します。
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原価計算はエクセルでできる?
原価計算と聞くと、原価管理システムなどのツールを使って計算するというイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。専用のシステムを導入するのは費用がかかりますが、エクセルでダウンロードすれば費用を抑えられる点がメリットです。まずは、原価計算はエクセルで行うことが可能かをご説明します。
原価計算はエクセルでできる
結論からいうと、原価計算はエクセルでできますが、注意しておきたいのはエクセルでの原価計算は原価計算管理システムと同じような利便性は期待できないことです。なぜなら、エクセルでの原価計算そのものは可能ではあるものの、原価計算では原材料・外注先・販売チャネルの数など、さまざまな要素を組み込む必要があるためです。しかし、原価計算が必須とされる建設業の現場を始めとして、エクセルで原価計算を行っている企業は多いのが現状となっています。
原価計算にエクセルが使われやすい理由
多くの企業で原価計算にエクセルが使われる理由として、主に導入コストの低さが挙げられます。エクセルをすでに導入している企業は非常に多く、そのような企業であれば追加費用がかかりにくいメリットがあります。また、エクセルはほとんどの企業で普及しているため、エクセルを使い慣れている人材が多く、教育コストもかかりません。
さらにエクセルはさまざまな目的に合ったテンプレートが充実しており、原価計算用の無料エクセルテンプレートもインターネット上に多く公開されています。したがって、表計算ソフトであるエクセルの原価計算用の無料テンプレートを活用することで、計算用のシートを0から作成する手間もかかりません。自社に合ったフォーマットをダウンロードするだけですぐに原価計算ができるのも、原価計算にエクセルが利用されるメリットであるといえます。
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原価計算で使うエクセルの主な機能
エクセルで原価計算を行う際は、関数やマクロなどによる計算・操作の自動化を行うと計算ミスの削減ができるという点でおすすめです。自動化されたプロセスでは手動での計算やデータ入力が不要になるため、ヒューマンエラーのリスクが減少しやすいでしょう。エクセルで原価計算をするのに押さえておきたい機能や関数をご紹介します。
関数
表計算ソフトであるエクセルで原価計算をするためには、担当者に関数の知識があることが重要です。具体的に、どの関数を使うと原価計算でどのようなことができるか、基本的な関数の使い方の例をご紹介します。
VLOOKUP関数、HLOOKUP関数
VLOOKUP関数とHLOOKUP関数は、指定した値を元にデータを検索し、必要な情報を自動で引き出す関数です。原価計算では、特定の製品コードに基づいて原材料費を自動で引きだすために使用されます。
SUM関数
SUM関数は、指定した範囲の数値の合計を、自動で計算する関数です。原価計算では、複数のセルに入力されている単価や原価などの金額の合計金額を計算するために使用されます。
AVERAGE関数
AVERAGE関数は、指定したセルの平均値を計算する関数です。原価計算では、入力した原価の金額の平均値を計算するために使用されます。
IF関数
IF関数は「もし…なら」という条件をあらかじめ提示し、条件に合っている場合とそうでない場合で別の結果を表示させる関数です。原価計算では、原価の金額が入力されていない場合、合計金額を表示させないようにできるなどの使い方をします。そのほかにも、条件によって異なる値を表示させたい場合はIF関数を使用するのが便利です。
SUMIF関数、SUMIFS関数
SUMIF関数、SUMIFS関数は、検索条件に一致する因数を合計する関数です。SUMIF関数は1つの条件、SUMIFS関数は複数の条件を指定できるという違いがあります。原価計算では、指定した条件の原価金額のみを計算したい場合に利用します。
SUMPRODUCT関数
SUMPRODUCT関数とは、配列の対応する積の合計を計算し、複数の積の結果の合計を計算する関数です。1つの数式で、複数の掛け算の合計が出せるのが特徴です。原価計算では、複数の商品の原価の合計値を出したいとき、それぞれを個別に出すのではなくすべての和の合計を計算できます。
OFFSET関数、INDEX関数
OFFSET関数、INDEX関数は、値ではなく範囲を答えとする関数です。基準となるセルから指定をして、列数・行数をずらしたセルを参照します。原価計算では、原価の集計やグループ分けをするのに役立ちます。
マクロ
マクロを使用することによって、複数の操作をまとめて実行できるように保存し、必要に応じて呼び出すことが可能です。主に、データ処理の自動化が可能になる点がマクロを使うメリットです。原価計算では、それぞれの項目を月ごとに集計したり、計算を自動化できたりします。マクロを使用すると作業時間が削減でき、従業員の入力ミスなどによるヒューマンエラーが減るなど、メリットが非常に大きいでしょう。
VBA
VBAはエクセルやパワーポイントなどのMicrosoft Officeのアプリケーションの機能を拡張できるのが特徴です。原価計算でVBAを使えば、製造原価を計算する基幹システムなどを作ることも可能です。
Power Query
Power Queryを使用すると他のシステムから出力した大量のデータを、エクセルファイルに取り込むことができます。複雑な原価計算を行うことも可能で、たとえば試算表別のデータから損益計算書を作成することも可能です。
原価計算をエクセルで行う手順
関数を適切に使うことによって、エクセルで原価計算を実現することもできます。原価計算をエクセルで行う手順を解説します。
Step1.必要なデータの準備
まずは、必要なデータを準備する必要があり、製品やサービスの提供にかかるすべての費用を収集していきます。原価計算における費用は材料費、労務費、経費の3つに分類できます。その上で、それぞれを固定費と変動費にさらに分類していきましょう。
Step2.エクセルシートの作成
次に、エクセルシートを作成します。エクセルシートは原価計算の無料テンプレートをダウンロードすれば問題ありません。できるだけ使いやすいテンプレートを選び、必要に応じて使いやすいようにカスタマイズしていきましょう。
Step3.データの入力
テンプレートを入手したら、商品・単価・数量・金額などの必要なデータを入力します。ヒューマンエラーが発生して計算が狂わないように、入力ミスのないように注意することが重要です。
Step4.基本計算式の設定
最後に、基本計算式を設定します。計算式を設定することで、原価計算がある程度自動化でき時間も大幅に短縮できるでしょう。基本計算式は、よく利用される関数を参考に、必要に応じて使い分けてください。
エクセルで原価計算を行うときの注意点
エクセルは無料でテンプレートが手に入り、専用のシステムを導入する予算がない企業でも原価計算を行う準備ができるため、非常に便利です。しかし、エクセルで原価計算を行うのには注意点があるということも把握しておきましょう。
業務が属人化しやすい
エクセルは業務が属人化しやすく、複雑なマクロや関数を扱うには一定の知識・スキルが必要となります。したがって、初心者では扱えない可能性もあるということを押さえておきましょう。知識のある担当者が不在や退職の際に、ほかの従業員が扱えなければ業務に支障が出やすくなってしまい、組織の柔軟性が低下してしまいます。
ヒューマンエラーが起こりやすい
エクセルでの原価計算は手入力や手動での操作も多いため、ヒューマンエラーが起こりやすくなってしまいます。ヒューマンエラーが起こることによって、計算結果がずれてしまうだけでなく、ミスの原因を見つけるのに時間がかかることもあります。どこか1か所でもミスをしていると、関数での計算結果にも間違った値が計算結果として表示されてしまうことにもつながるでしょう。
リアルタイムで共有しにくく、共同作業が難しい
エクセルは基本的に複数人で同時進行の作業を進めることができません。したがって、担当者が複数人いる場合はリアルタイムでの共有がしにくく、共同作業が難しいです。複数の担当者で同じエクセルを使用する場合は、リアルタイムでの保存ができないため、交代で使うしかありません。
ファイルの管理・更新に手間がかかる
エクセルはファイルの管理・更新に手間がかかります。もし、データの上書き保存を忘れてしまえば、作業をしていたにも関わらずそのデータが失われてしまう可能性があり、リスクもあります。そういった意味で、エクセルは原価計算をするのに管理しにくいツールです。
セキュリティリスクがある
エクセルにはセキュリティリスクがあるため、セキュリティ対策を行う必要があります。エクセルのファイルがサイバー攻撃の被害を受ける可能性があったり、パソコンがハッキングされてエクセルのデータが被害を受けたりするリスクに注意しなければいけません。
エクセルよりも原価計算を効率化する方法
エクセルはテンプレートも充実していて原価計算を行うのに便利であるため、実務でもエクセルで原価計算を行っている企業が多いでしょう。エクセルよりも原価計算を効率化する方法もあるため、エクセルのデメリットが気にかかっている場合は、原価計算の方法をエクセル以外に変えるのもおすすめです。エクセル以外の2つの原価計算方法をご紹介します。
会計ソフトを導入する
エクセル以外でおすすめの方法の1つは、会計ソフトを導入することです。会計ソフトとは、その名の通り会計業務全般に関連する機能を持つソフトウェアです。そのため、会計ソフトのなかには原価管理機能が搭載されていて、その機能を活用するのも良いでしょう。ただし、すべての会計ソフトに原価管理機能が搭載されているとは限りません。
さまざまな会計ソフトやプランがあるため、製造業などの原価計算が必要な業種に向いた会計ソフトを選ぶのがおすすめです。導入前には必ず機能の確認をしておきましょう。会計ソフトでは複雑な原価計算を正確に行えるだけではなく、自動化できるため経理担当者の作業時間を減らし、効率化させることが可能です。
原価計算システムを導入する
原価計算を最も効率化するためには、原価計算を目的に作られた原価計算システムを導入すると良いでしょう。会計だけでなく自社が持つ情報を一元管理できるITシステムとして、ERPシステムがあります。このシステムを使用すると経営状況の可視化もできます。販売管理と原価管理の連携を行うことも可能ですが、導入にコストがかかる点がデメリットです。しかし、費用はかかっても業務効率化には最適であるため、導入する価値があるシステムだといえるでしょう。
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まとめ
原価計算はエクセルで行うことは可能で、エクセルを使用する場合には初期にかかる費用も無料です。そして、エクセルを利用しながら原価計算を行っている企業もかなり多いのが現状です。しかし、エクセルは複雑な関数を使用するため、担当者に知識が求められます。原価計算を行う場合は、コストだけで選ぶのではなく、自社における業務分担や人員配置および適切な原価管理の重要性に着目し、適切なツールを選択する事が重要です。まずはエクセルで原価計算を行ってみて、課題があると感じたら会計ソフトや原価計算システムの導入を検討してみてください。
原価計算とエクセルに関するQ&A
エクセルを使用した原価計算でよくあるQ&Aをまとめました。エクセルで原価計算のテンプレートをダウンロードしようか迷っている人は、ぜひ参考にしてください。
Q1.エクセルを使った原価計算のメリットは?
エクセルを使った原価計算のメリットは、エクセルは自由度が高いため柔軟なカスタマイズが可能になる点です。たとえば、セルに入力できるデータ・計算式・関数などのテンプレートが豊富に用意されており、自社のニーズに合わせた表のレイアウトを作成することができるでしょう。
Q2.エクセルを使った原価計算の注意点は?
エクセルを使った原価計算の注意点は、リアルタイムでの情報反映が難しい点や属人化しやすい点などです。また、手入力をすることが多いためヒューマンエラーが発生し、その原因を突き止めるのに手間が発生する可能性もあります。
Q3.エクセルのマクロを活用すると原価計算の効率化になる?
エクセルのマクロは原価計算の自動化をするのに便利であり、効率化につながります。また、ヒューマンエラーによる入力ミスを減らせるメリットもあります。
Q4.エクセルで原価計算に必要な費用配賦を行うには?
エクセルで原価計算に必要な費用配賦を行うには、まず配賦基準を設定する必要があります。そして、間接費用の総額を割り当ての基準となる各部門の指標の合計で割り、各部門に費用を割り当てます。
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