EU各国で進むデジタル課税の導入検討 その影響は?

EU各国で進むデジタル課税の導入検討 その影響は?

EUを中心にデジタル課税と呼ばれる税制の導入が検討されています。デジタル課税はどのような税制で、どういった背景からその導入が検討されるようになったのでしょうか。その仕組みについて簡単に確認するとともに、背景にあるタックスヘイブン問題、それに対応するBEPS、そして現状の行き詰まりについて解説します。

税制の本丸は「利益に対する課税」である

まず世界各国の税金に関する基礎知識を確認しましょう。税金は、どのような国でもおおむね次の3つに分類することができます。

利益(所得)に対する税金

企業が獲得した利益(収益-費用)に課税します。日本でいえば、国税は法人税や所得税、地方税では法人住民税や事業税が該当します。

所有に対する税金

企業や個人が所有している財産に課税します。日本では相続税や固定資産税、自動車税などが該当します。

消費に対する税金

商品の消費や提供されるサービスに対して課税します。日本では消費税(付加価値税)や酒税、たばこ税、ガソリン税などが該当します。

このうち、最も重要なのは利益に対する税金です。世界各国は「ある企業が獲得している利益がどこの国に帰属するのか?」という点について、非常に注目をしています。

タックスヘイブン問題とBEPS

以前からあるような産業(自動車や工業製品の販売など)では、企業はそれぞれの国に支店や支社を設けて事業を行っていました。販売拠点がなければ商品を売ることはできません。その結果、企業の獲得した利益の国家帰属も容易だったのです。

しかし、近年隆盛を極めるIT企業は違います。世界各国に存在する拠点はあくまでも倉庫などで、実際の経営をしている企業は税率の低い租税回避地(タックスヘイブン)に存在していることが多いのです。国家間の課税ルールとして、単なる倉庫等が存在するだけでは利益がその国に帰属するとは認められていないのです。

結果として、実際の事業は世界各国で行われているにも関わらず、利益は低税率の国にすべて帰属し、巨大IT企業があまりに低い税負担で済む状態が放置されるに至っています。

このような問題を解決するためにBEPS(税源侵食と利益移転)プロジェクトが始まりました。BEPSとは、多国籍企業が行う国家間での利益移転の適正化を図り、各国の協調を図りながら適切な税負担を実現するための国際的プロジェクトです。これまでに様々な提言がなされ、対策も実施されてきましたが、実際には大きな成果をあげているとは言いづらい状況です。

そのような中でEUが独自に取り組みを発表したのがデジタル課税です。

交通費・経費精算システム「楽楽精算」 経理プラス メールマガジン登録

売上に直接課税をするデジタル課税

今回導入が検討されているデジタル課税は、俗に「売上高課税」と呼ばれる方式です。簡単にいえば「その国の中で売上があがった時点で課税をする」という方式です。最初に確認をした税の種類に応じて考えれば、消費に対する課税が一番近いです。

利益の国家帰属に関しては議論がありますが、売上があがった場所は比較的明確です。サービスの提供を受けた企業の所在地を、売上のあがった場所と考えれば良いからです。従って、多国籍企業に課税をしたい国家からすると、売上高に対する課税は手っ取り早く税金を徴収する手段になりえます。

ただし、消費税に比べるとかなり乱暴な税制です。その結果、売上高税は導入をすると「想定していなかった人が税金を負担する羽目になる」という性質があります。

例)
デジタル事業者Aが国家B内で100の売上を獲得。それに対してBは5%の税金を課した。Aは負担した売上高税5%について、消費者側に転嫁すべく値上げを行った。

この場合、次のような影響が考えられます。

  • 値上げした売上に対して、さらに売上高課税が行われる
  •  これが無限に行われると、税の負担がどこまでも消費者に転嫁され続けることになります。

  • 国家B以外の顧客に税負担が転嫁される
  •  Aは多国籍企業です。従って、B以外の国で行う事業で売上高税分の値上げを行う可能性があります。

つまり、Bが売上高税を導入したことで、Bの国民負担が増加したり、関係のない他国の企業が負担を強いられたりする可能性があるのです。売上高課税は、確かに簡単な課税方法ではあるのですが、想定外の負担者を生み出したり、世界各国の協調体制に悪影響を及ぼしたりしかねない粗雑な税制と言われています。それゆえ、実際にEUなどでデジタル課税が導入された場合、特に米国を中心に強い反発を産む可能性があります。

また、当然ながら影響は日本企業にも及びます。GAFAと呼ばれる巨大企業のデジタルサービスは多くの日本企業が活用しています。そのサービス利用料にEUのデジタル課税分が上乗せされるとなれば、結果的に日本企業の費用負担が増えることを意味します。

売上高課税については、このような悪影響が容易に想定されることから、その導入に関しては慎重な議論が求められます。個別の国家が売上高課税を始めると、関税に代わる新しい形での貿易問題に発展する恐れがあるのです。従って、まずはBEPSをはじめとした国際協調路線での解決を進めることが理想的です。

日本でも国際課税対策は進められている

ちなみに、日本でも国際課税の対策を進めています。平成27年10月以降、多国籍企業が行うデジタルサービスについて、消費税は「サービスの提供を受ける者の所在地」で課税されるようになりました。多国籍企業が提供するリスティング広告や電子書籍配信のサービスは、以前は消費税が課されていなかったのです。ITサービスを中心に課税を強化する、という意味では「日本版デジタル課税」の走りであると考えることもできるでしょう。
また、法人税課税に関しても「恒久的施設の定義」の見直しをすることで対応しようとする動きも出ています。

ただ、こと機動性では多国籍企業の方が一枚も二枚も上手です。今までには考えられなかったような「多国籍巨大企業」の存在は、国家の運営手法そのものに影響を及ぼす存在になったといえます。

まとめ

税金は利益、所有、消費に課されますが、主軸は利益に対するものです。多国籍企業の利益帰属を巡って世界各国で議論がされていますが、課題は山積しています。結果として、EUを中心に独自のデジタル課税(売上高税)を創設する動きが出てきています。売上高税は課税が容易ですが、想定外の負担者を生み出し、国際協調も崩しかねません。日本企業にも影響が及ぶ可能性もあります。
日本でも多国籍企業への課税については対応を進めていますが、巨大企業の機動性に翻弄されている状態です。

「経理プラス」無料メルマガ会員登録はこちら

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 税理士 高橋 昌也

税理士 高橋 昌也

高橋昌也税理士・FP事務所 税理士 1978年神奈川県生まれ。2006年税理士試験に合格し、翌年3月高橋昌也税理士事務所を開業。その後、ファイナンシャルプランナー資格取得、商工会議所認定ビジネス法務エキスパートの称号取得などを経て、現在に至る。

高橋昌也税理士・FP事務所