長期前払費用を計上する時のポイント
長期前払費用とは?
前払費用とは、一定の契約に基づいて、継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了時点で未だ役務の提供を受けていない部分に対応するもののことをいいます。長期前払費用も基本的には同じ考え方のものです。
たとえば、3年分の損害保険料をまとめて支払った場合、支払時に全額経費計上(損金算入)することはできません。その損害保険料は3年という期間にわたって、経費計上していく必要があります。その他にも、住居や事務所を賃借したときに支払う保証金や敷金で、将来返還されないものなども同じように、一定の期間で経費計上する必要があります。このような場合に、一時に経費計上できない部分を長期前払費用という資産勘定に一旦計上します。その後、一定の期間にわたって資産を取り崩し、経費計上(長期前払費用償却)していくこととなります。
このように一定期間にわたる費用を支払ったときは、その期間に応じて、経費計上することが原則ですが、その期間が一年以内であって、一部の限られた費用を支払ったときは、支払時に全額経費計上(損金算入)することができる、という税務上の特例が設けられています。これを短期前払費用の特例といいます。短期前払費用の特例には、金額の基準はありませんので、多額となるようなものでも要件を満たせば支出時に損金算入することができます。
短期前払費用の特例の適用が認められるためには次の要件を満たしている必要があります。
- その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払ったこと
- その支払った額に相当する金額を継続して支払った日の属する事業年度の損金の額に算入していること
ただし、収益の計上と対応させる必要があるもの(たとえば、借入金を預金、有価証券などに運用する場合における借入金利息など)については、短期前払費用の特例の適用の対象とはなりません。
また、毎年継続して適用していないといけないことも要件となっています。そのため、当期は利益がたくさん出そうだから適用し、翌期に利益があまり出なかったから適用しない、といったことはできません。
参考:国税庁HP 基本通達・法人税法
長期前払費用と前払費用の違い
長期前払費用と前払費用の違いは、「長期」か「短期」かということで、長期前払費用は貸借対照表の固定資産の区分に、前払費用は貸借対照表の流動資産の区分に計上されます。
「長期」か「短期」かというのは、基本的には一年以内かどうかで判断します。その基準は、決算日の翌日です。決算日の翌日から一年以内に費用化されるものは「前払費用」に、決算日の翌日から一年を超えて費用化されるものは「長期前払費用」に計上します。
長期前払費用と繰延資産の違い
繰延資産には会計上の繰延資産と税務上の繰延資産があります。
会計上の繰延資産とは、将来の期間に影響する特定の費用で、次期以後の期間に配分して処理するため、経過的に貸借対照表の資産の部に計上するもののことを言います。たとえば、開業にあたってかかった費用(開業費)は、支出自体はその開業のときにされていますが、開業後に収益を獲得するための費用ですので、その効果は将来の期間に影響するものと考えられます。そのため、貸借対照表の資産の部に計上し、一定の期間で費用化を図ることとなります。開業費の他には、創立費や開発費などが挙げられます。会計上の繰延資産は、原則としてその効果の及ぶと考えられる期間で償却します。
税務上の繰延資産は法令で定められている次のようなもののことをいいます。
- 公共的施設等の負担金
- 資産を賃借するための権利金等(賃貸契約の礼金など)
- 役務の提供を受けるための権利金等
- 広告宣伝用資産を贈与した費用
- その他自己が便益を受けるための費用
税務上の繰延資産は、その種類・細目毎に償却期間が定められていますので、それに応じて、月割均等償却していく必要があります。ただし、税務上の繰延資産は、支出額が20万円未満であるときは支出時に損金算入することが認められています。
なお、中小企業の会計に関する指針では、税務上の繰延資産は「長期前払費用」等として計上することとされています。
長期前払費用計上の際に注意すべき点
長期前払費用を計上する際には、まず、その費用が長期か短期かということと、償却期間を間違えないように注意する必要があります。また、計上したものの、償却を忘れてしまうようなこともないようにしなければなりません。
支出した費用が消費税の課税取引であるときは、支出した時点で仕入税額控除はせず、税込金額で長期前払費用を計上します。そして、費用化する際に仕入税額控除を行っていきます。「長期前払費用償却」という勘定科目を用いて費用化する場合など、消費税の課税取引とすることを忘れないように注意してください。
まとめ
長期前払費用となるものは、その種類が多くあります。また、税務上のルールが細かく定められていますので、しっかりとそのルールを把握した上で、間違わないように処理していく必要があります。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。