銀行員は忙しい。金融機関への正しい「決算説明」を教えます

銀行員は忙しい。金融機関への正しい「決算説明」を教えます

中小企業において、金融機関とのお付き合いは、重要な経営課題の1つです。日本政策金融公庫の調査では、10人以上の規模の借入がある中小企業で、2018年に追加借入をした比率は54.1%。半数以上の企業が、何らかの借入を続けている状況です。昨今は金利が下がってきており、借りやすくなったとはいえ、金融機関に自社の情報を的確に伝え、さらに有利な条件を引き出す能力が、経理・財務担当者には求められます。
 

銀行員は想像以上に忙しい

皆さんが普段お会いしている銀行員は、実は想像以上に忙しい人たちです。銀行の営業係(渉外係)は、1人で何社くらいを担当しているかご存知でしょうか。一般的には、常時50社以上、多い人だと100社以上の企業を担当しています。担当者は、常に融資先の融資量増大を求められているのはもちろん、新規取引の開拓、定期積立金、投資信託の販売、クレジットカードの推進など、多くのノルマが課せられており、毎日走り回っています。

1年、6か月、毎月、毎週、毎日とノルマの達成率が表示され、ノルマ達成率が評価のすべてになるという職種の人たちです。最近の働き方改革で、早帰りも強制され、さらに忙しさに拍車をかけています。お付き合いのある金融機関に、こちら側が絶大な信頼を寄せていたとしても、金融機関側からすれば、数十社の中の1社にしかすぎません。

超多忙の日々の中では、とても担当する企業を1社1社丁寧に見ることはできないのです。相手の事情は変わらないので、こちらがそれに合わせた対応をしていく必要があるのです。
 

銀行員はあなたの会社のことを本当はわかっていない

自社が数十社のうちの1社であったとしても、銀行員も1人の人間です。できる限り、うちのことを知って、好きになってもらう努力はしなければいけません。銀行員は、いろいろな業種の企業と付き合っているため、どんな業界にも精通していると思われがちですが、実はそうでもないようです。
考えてみれば、金融機関でしか働いたことがないわけですから、それも当然です。融資先のヒト・モノ・カネの流れが、本当はよくわからない。わからなくても、いまさら会社には聞きにくい。

銀行員は頻繁に転勤、異動がありますが、前任者からの引継ぎが1週間もないことが大半です。「うちは〇〇銀行さんとは数十年の付き合いだから」とこちらが思っていても、新任の銀行員は数十社の担当先を、たった数日で引き継いで来ているわけですから、会社の詳細な情報など把握できているはずがありません。

銀行員は「この会社の商品はどんな特徴があるのだろう」と思っていても、「いまさらそんなこと聞くな!」と怒られるのが怖いので、わかったふりをして、実はなかなか聞いてこないものなのです。

そんな状態で融資のための稟議書を作るわけですから、当然、書類は表面的になってしまいます。その担当者は、行内で、支店長や審査部に、皆さんの会社のアピールしたい部分をきちんと伝えてくれていない可能性があるのです。
 

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銀行員の負担を減らすことで喜ばれる

金融機関は、「報告・連絡・相談」に非常に厳しい組織です。銀行員は、ほとんど毎日、何らかの報告書類を作っています。というより、書類を作成することに追われ続けています。こうした状況を踏まえて、こちらからあらかじめ必要な情報を記載した書面を提出してあげると、担当者の事務負担は相当減り、とても喜ばれます。

銀行員は、通常、自分が聞いてきたことを、行内に戻って文書にまとめているわけです。その手間が省けて、他の時間に使えるとなると、ノルマに追われて多忙な銀行員にとっては、とてもありがたいものなのです。

逆に、銀行員に対して、だらだらと自社の自慢話や今後の展望を、熱く、熱く、語ったとしても、そもそも会社の情報や業界の基礎知識が乏しいまま聞いているわけなので、短時間で適切に報告書類にまとめ上げるのは、やはり、相当苦労するわけです。
 

どんな情報を書面で渡せば良いのか

金融機関に自社の情報を伝えるうえで一番良いタイミングは、やはり決算後の、決算書が出来上がった時でしょう。現在お付き合いのある各行に、最新の決算書と一緒に、「決算説明書」として、書類を提出します。書類といっても、大量の文書を渡してはかえって迷惑です。A4の紙、2枚くらいに下記のポイントをまとめて提出することをおすすめします。

    1. 会社の概要

繰り返しになりますが、長年お付き合いがある金融機関であっても、皆さんが思っている以上に、金融機関は自社のことをわかっていません。担当者や支店長が変わることもあります。書面上、毎年同じ内容になっても、会社の取扱商品、主要な取引先、取引の流れ、商品単価など、あらためて会社の概要は、毎回記載するようにしましょう。

    1. 事業戦略

自社は、どういう業種で、どういう市場を狙っているのか、同業他社と比べて、どういうところで差別化できているのか、端的にまとめましょう。

    1. 近時の動き

外部に対しての情報だけではなく、自社内の情報も提供しましょう。現在の社長は何年前に現社長に交代したのか、次の後継者はどうなるのか、株式の今後の譲渡予定、自社の組織内の動きなど、決算書ではわからない情報を提供することが大事です。

    1. 財務内容

貸借対照表、損益計算書の中で、特に重要な情報について補足します。銀行員が決算書で気になる点は、前期と金額が大きく異なる部分です。なぜ、この科目の数字がなぜ前期と大きく違うのか、その理由を説明します。

    1. 弊社の課題

金融機関から有利な条件を引き出すために、どうしても良い情報だけを伝えたくなってしまいます。しかし、どんな優良な企業であっても、課題のない会社はありません。経営者がしっかりと自社の課題を把握していて、それをどう改善していくつもりがあるのか、銀行員はこの課題(自社の弱み)の記載も重視しています。

    1. 来期の計画

中期経営計画を作成しているのであれば、それも添付します。作成していないのであれば、来期の見通しくらいは書いておく必要があります。

これらの情報をA4の紙2枚程度にまとめて、「決算説明書」として提出します。銀行員がほしいのは、「長く、熱い口頭での説明」ではなく、「端的に、ポイントを押さえた書面」です。
 

この会社はいつ借りてくれるのか

決算後の「決算説明書」の他に、銀行員がほしい資料が他にもあります。忙しい銀行員は、いかに効率よく貸し出しができるかを、いつも追求しています。そのため、「金融機関取引一覧表」を提出してあげると、とても喜ばれるでしょう。どの銀行から、いつ、いくら借りて、各行の現在の借入残高、月々の返済額はいくらなのかを一表にまとめるのです。定期的に、この「金融機関取引一覧表」を出してあげることで、銀行員は効率的に顧客管理ができます。

そして、次回の折り返し融資はどこから調達する予定なのか、今後の資金需要や他行の動向も聞きやすくなるので、対話のネタにもなり、本当にありがたく思ってくれるはずです。
 

まとめ

金融機関の立場もわかってくれる企業は、銀行担当者にとっては、優先順位が上がります。銀行交渉をスムーズに展開していくためには、こちらの主張だけではなく、金融機関側の都合にも、十分に配慮することが大切です。

 

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 税理士 川名 徹

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京セラ株式会社で営業・マーケティングを7年間経験後、毎月、中小企業2,200社の財務指導をしている古田土会計グループにて、会計・税務に携わる。 現在は、経営者向けの財務コンサルの他、同業者向けコンサル「会計事務所 経営支援塾」や、一般企業の経理向け「財務責任者 養成講座」などの企画・運営を行っている。

税理士法人古田土会計