【令和3年度税制改正/前編】企業のDX推進や投資に関わる改正ポイント
2020年12月に令和3年度(2021年度)の税制改正大綱が明らかになりました。法人に関係するものでは新たに新設されたもの、見直しされるものなどが複数あります。今回は、新設される「DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制」や、見直し・改正が見込まれる押印義務などについて解説していきます。
2021年度の税制改正大綱は3編に分けて解説しています。以下も併せてご覧ください。
経理プラス:【2021年度税制改正/中編】企業の税負担軽減に関わる税制改正
経理プラス:【2021年度税制改正/後編】電子帳簿保存法に関わる税制改正ポイント
新たに創設される税制
はじめに、新たに創設される「DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制」(以下、DX投資促進税制)について、概要から見ていきましょう。
創設された背景
デジタルトランスフォーメーションとは、日々進化するデジタル技術を活用し、人々の暮らしをより良いものに進化(変革)することを意味しています。このような変革は、緩やかなものであることが予測されてきましたが、コロナ禍によって急速に進化することとなりました。
新型コロナウイルス感染症の感染リスクを低くするために、従来の対面での経済活動から、デジタル技術の活用し、非対面型の経済活動が当たり前になりつつあります。そのような企業の変革を国が後押しするのが、DX投資促進税制です。
税制の内容について
DX投資促進税制は、改正産業競争力強化法の事業適応計画で認定を受けた青色申告法人が対象となり、デジタル技術などの新設・増設費用の一定額について、次のような税額控除が受けられます。
- 特別控除・・・・・・取得価額×30%
- 税額控除・・・・・・取得価額×3%(グループ外の事業者とデータ連携する場合は5%)注)カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除と合計なら当期の法人税額の20%が上限
- 取得価額・・・・・・対象資産の取得、繰延資産の合計額のうち300億円が上限
対象の設備等について
また、税額控除の特例が受けられるのは、次に挙げる設備などとなります。
- ソフトウェア
- 繰延資産
- 器具備品
- 機械装置
なお、繰延資産は、クラウドシステムへの移行に必要な初期費用を含み、器具備品はソフトウェアや繰延資産と連携して活用するものが対象となります。さらに機械装置はグループ外の法人とも連携・共通する場合に限られます。
見直し・改正されるもの
次に、従来の制度から見直しや改正されるものについて、法人に関わる部分を見ていきましょう。
押印義務の見直し
長く慣例とされてきた「押印」が見直されます。デジタル技術を活用した業務形態が進んだことから、押印が効率的な業務形態の支障となり得ることや、新型コロナウイルス感染症拡大防止の対策も考慮されています。
すでに押印が省略されている企業は多いわけですが、公的な手続きにおいても、コスト削減や行政の負担軽減を図るために税務署などに提出する書類を中心に押印の省略が予定されています。今回の税制改正大綱によって発表された一例は次のとおりです。
押印廃止予定 | 押印継続予定 | |
書類 | ・確定申告書、修正申告書、更正の請求書 ・給与所得者の保険料控除申告書 ・給与所得者の扶養控除等申告書 ・国税、地方税の各届出書・申請書 ・延納申請書、物納申請書 | ・遺産分割協議書 ・所有権移転登記承諾書 ・抵当権設定登記承諾書 ・納税保証書 ・質権設定の承諾書 |
・廃止と継続の仕訳は、主に実印や印鑑証明書が必要な書類かどうかで行われる |
これら以外の実印や印鑑証明書が必要になる重要な書類については従来通りですが、経理業務では確定申告書類、給与所得者の保険料控除などの押印が不要になりますので、確認しておきましょう。
こうした押印の廃止を契機に、経理業務でもペーパーレス化、IT技術の活用を通してDXを推進していくのも良いでしょう。
研究開発税制の見直し
研究開発税制の対象である試験研究費の中では、クラウド環境で利用するソフトウェアなども新たに対象追加になる見込みです。従来は、自社が利用するソフトウェアの試験研究費は、パッケージ型のソフトウェアのみが対象となっていました。
クラウドサービスの利用が拡大されている現在では、より利用しやすい制度になるとことが期待されます。
給与等の引上げおよび設備投資を行った場合の税額控除制度
新型コロナウイルス感染症の影響により、労働者が置かれる環境は非常に厳しくなっています。このような情勢の中でも企業が人材確保や人材育成の強化が図れるように、給与などの引き上げや設備投資を行った企業には、税額控除の特例ができるように見直されます。
改正前 | 改正後 | ||
適用要件 | 賃上げ | A:適用年度の雇用者給与等支給額>前期の雇用 者給与等支給額 | A:適用年度の雇用者給与等支給額>前期の雇用者 給与等支給額 |
B:適用年度の継続雇用者給与等支給額≧前期の継続雇用者給与等支給額×103% | B:適用年度の新規雇用者給与等支給額≧前期の新規雇用者給与等支給額×102% | ||
設備投資 | 適用年度の国内設備投資額≧適用年度の減価償却費総額×95% | なし | |
税額控除の内容 | (雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)×15% | 控除対象新規雇用者給与等支給額 ×15% |
地域未来投資促進税制の見直しおよび延長
地域の経済活動を活発にするため、牽引事業の促進地域内で特定事業用機械などを取得した場合に、特別償却または税額控除制度が見直され、適用期限が2年延長される見込みです。なお、適用要件は次のとおりです(適用要件について改正はされません)。
- 地域経済牽引事業計画について都道府県の承認を受ける
- 承認された事業計画に基づき、特定地域経済牽引事業施設などを新設または増設し、事業の用に供する(本制度の対象となる金額の上限は80億円)
- 地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律による一定の基準に適合する(国の確認を受けること)
さらに一定の基準については、次のように改正されています。改正前の一定水準では、事業の確認は評価委員が判断することされていましたが、改正後は具体的な指標が示されることとなります。
- 事業の先進性の確認に当たって、投資収益率または同労生産性の伸び率が一定水準以上であることが見込まれることを確認することが必要
- 海外に生産拠点が集中している一定の製品の製造をすることおよび、その地域経済けん引事業計画が実施される都道府県の行政区域内でその製品の承認地域経済けん引業者の取り引き額の一定水準以上の増加が見込まれることを確認することが必要
まとめ
今回は、令和3年度(2021年度)の税制改正について、新たに創設されたDX投資促進税制や、押印義務の見直し、研究開発や給与引き上げなどの優遇税制の見直し、地域未来投資促進税制の見直しなどを中心にご紹介しました。
これからの新たな時代における企業の経済活動を後押しする税制改正になっていますので、該当しそうな企業の経理担当者はぜひ積極的に理解を深めてみてはいかがでしょうか。
こちらの2021年度の税制改正解説記事も併せてご覧ください。
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