【令和3年度税制改正/中編】企業の税負担軽減に関わる税制改正

【令和3年度税制改正/中編】企業の税負担軽減に関わる税制改正

令和3年度の税制改正の大綱では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を考慮されていることが大きな特徴です。さまざまな環境の変化がありながらも、企業の利益と雇用が維持できるように、税負担の軽減に関わる内容が盛り込まれています。今回は、主に税額控除の見直しポイントや新設されたM&A促進のための措置などについて解説していきます。

令和3年度の税制改正大綱は3編に分けて解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
経理プラス:【令和3年度税制改正/前編】企業のDX推進や投資に関わる改正ポイント
経理プラス:【令和3年度税制改正/後編】電子帳簿保存法に関わる税制改正ポイント

【改正】繰越欠損金の控除上限の特例の創設

まず、改正とされるものが「繰越欠損金の控除上限の特例の創設」です。これまでは欠損金の控除上限は、繰延控除前の所得金額の50%相当額とされてきましたが、事業再構築・再編に関わる投資の場合において最大100%までの控除が可能となる見込みです。

なお、この控除額上限は新型コロナウイルス感染症拡大によって、企業の業績に大きく影響している現状を踏まえたものとして時限的に行われるものです。

<特例のまとめ>

  • 特例対象となる欠損金の発生事業年度・・・・・・2年間
  • 繰越控除対象事業年度・・・・・・最大5年間
  • 欠損金の控除限度額・・・・・・最大100%

【改正】中小企業者等に対する軽減税率の延長

中小企業などに適用される、年間所得800万円以下の法人軽減税率15%(本則19%)は、2021年3月31日までに開始する事業年度が対象でしたが、さらに2年間の延長となります。このため、軽減税率は2023年3月31日までの開始する事業年度までに改正される見込みです。なお、年間所得800万円を超える部分に関しては、23.20%で変更はありません。

法人区分所得金額改正前改正後
2020年4月1日~2021年3月31日2021年4月1日~2020年4月1日~2021年3月31日2021年4月1日~
中小企業、一般社団法人等年800万円以下15%(軽減)19%(本則)15%(軽減)19%(本則)
年800万円超え23.20%
中小法人以外の普通法人所得の区分なし23.20%
公益法人等、協同組合等、特定医療法人等年800万円以下15%(軽減)19%(本則)15%(軽減)19%(本則)
年800万円超え19%

【新設】株式対価M&Aを促進するための措置の創設

新たに新設されるものとして「株式対価M&Aを促進するための措置」があります。この処置では、M&Aの際に株式交付を活用しても現物出資規制等が適用されることはないため、自社株対価の買収がしやすくなります。もちろん、改正前でも自社株対価の買収はできましたが、会社法の現物出資規制等などがあり、実際に進めることは難しいとされていましたので大きなメリットと言えるでしょう。創設された内容には、大きく分けて次の3つのポイントがあります。

1.譲渡損益の繰延

譲渡損益の繰延は、「法人株主」と「個人株主」の2つに分類されます。「法人株主の譲渡損益の繰延」では、株式交付子会社が株式を譲渡し、株式交付の親会社の交付を受けたとき、譲渡した株式交付の子会社株式の譲渡損益を繰延計上できることとされます。

2.混合対価の取り扱い

株式交付の親会社株式とは別に金銭等の交付があるとき、譲渡損益の繰り延べは株式交付親会社の株式価格の80%以上に限定して適用されます。

3.書類等

株式交付が行われたとき、株式交付親会社の申告書の貸借対照表、損益計算書に添付して株式交付に関する明細書が必要になります。

制度の新設によって、企業の買収の際に現金としての対価だけではなく買い手側の自社株式を利用できることが現実的に可能となります。従来は、買い手側の株式を対価として受け取った場合、売り手側は現金の授受がなくとも株式譲渡益として課税されていました。
このような自社株と現金等の混合対価も可能な新たな制度により、自社株式を活用した形態のM&Aが促進されることが考えられます。

まとめ

今回は、令和3年度の税制改正の中から、繰越欠損金の控除上限の特例の創設や中小企業者等に対する軽減税率の延長、新たな株式対価M&Aを促進するための措置の創設などについて解説してきました。たとえ今回の税制改正に含まれていない項目でも、軽減税率や税額控除などの特例が継続になることも考えられます。そのため、税制に関わる最新の情報は引き続きキャッチアップしていくことをおすすめします。

2021年度の税制改正大綱は3つの記事で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
経理プラス:【令和3年度税制改正/前編】企業のDX推進や投資に関わる改正ポイント
経理プラス:【令和3年度税制改正/後編】電子帳簿保存法に関わる税制改正ポイント

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 渡部 彩子

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大学卒業後、自動車関連の社団法人にて10年以上に渡り管理部門に在籍。経理・総務・人事の実務を経験し、同法人在籍中に日商簿記2級を取得。その後、保険・金融業界での経理業務の経験を経て、ライターとして独立。これまでの実務経験を元に経理業務をテーマとしたコンテンツ制作を中心に執筆。