請求書をデータ化するメリット・デメリット|注意点と導入のポイント
経理業務において、請求書は送ることも受け取ることも多いものです。紙の請求書は物理的に扱うだけで手間がかかり、大量の請求書を見るとうんざりしてしまう方もいるのではないでしょうか。「ペーパーレス化」や「請求書のデータ化」という言葉を耳にすることが増え、気になっている方も多いでしょう。
この記事では、請求書を電子化するメリットとデメリットを紹介します。請求書をデータ化するには電子帳簿保存法に沿った対応が必要であるため、注意点も押さえておきましょう。また、データ形式の請求書を取引に導入する際のポイントも解説します。
請求書の電子化の詳細については以下の記事をご参照ください。
経理プラス:【経理ニュース速報】請求書の完全デジタル化へ、政府・民間で近く協議開始
請求書をデータで送る主なメリット・デメリット
請求書をデータ形式で送ることには多くのメリットがありますが、同時にデメリットもあります。それぞれを押さえたうえで、導入を検討しましょう。
請求書をデータで送るメリット
印刷コストを削減できる
請求書をデータで送る場合は、印刷する場合にかかっていたさまざまなコストを削減できます。
請求書を印刷するにはインク代や紙代がかかり、印刷や発送に係る 人件費や、郵送するための切手代も必要です。控えを印刷する場合は、保管スペースも確保しなければなりません。保存期間を終えて破棄するためのコストも必要です。
紙ではなくデータで請求書を送ることで、これらのコストはすべて不要になります。大幅な経費削減が期待できるでしょう。
請求業務を効率化できる
データで請求書を送付すれば、三つ折りにして封筒に入れる、切手を貼る、投函や郵便局への持ち込みをするという発送作業が不要です。さらに、誤りの訂正や再発行への対応も速やかに行えます。
請求書がデータ形式であればシステム内で一元管理できます。「見たい請求書が見つからない」「どこに置いたかわからない」ということもなくなるでしょう。紙をまとめたりめくったりする物理的な作業が減り、より迅速な処理ができるようになります。
請求書をデータで扱うことで請求業務のすべてをパソコンやシステム上で完了させられるため、業務効率の向上につながるでしょう。
検索性が高まる
データ形式の請求書は項目で検索ができます。そのため、見たい請求書をすぐに見つけられ、紙をめくって探す時間が不要になります。検索性の確保は電子帳簿保存法においても必要な要件です。
請求書を用いて支払の準備をするときだけでなく、時間が経ってから過去の取引を見直したいときにも、倉庫などの保管場所を探すことなくパソコン上ですぐ見つけられるため便利です。
改ざんの防止につながる
法律に従って適切なデータ保管を行うことで、改ざんの防止にもつながります。請求書をデータで保存するには改ざんの防止のための要件を満たさなければなりません。セキュリティ対策の要件を満たす必要もあるため、紙の請求書よりも厳重に管理できます。
経理担当者の負担を軽減できる
請求書の 電子化によって、経理担当者の作業負担の軽減にもつながります。手間や時間を取らない迅速な発行・送付、必要に応じたスムーズな閲覧、正確性の維持などが期待できるでしょう。
さらに、システムを使えば手入力の手間が省け、請求書の作成を自動化できるため、人的ミスの削減にもつながります。システムの中には会計ソフトと連携できるものも多く、連携によってさらなる負担軽減につながります。
経理担当者がより負担の少ない働き方を選ぶこともできるでしょう。紙ではなくデータで請求書を取り扱えるようになれば、出社することなく自宅などで業務を行えます。請求書だけでなく、他の書類も電子化して仕組みを整えることで、テレワークなど働き方の多様化への対応が可能になるでしょう。
経理プラス:【インタビュー】DX推進&テレワーク導入に成功!NOCアウトソーシング&コンサルティングが進める業務効率化成功事例とは
請求書をデータで送るデメリット
システム導入するためのコストがかかる
請求書をデータで発行するシステムは便利ですが、初期費用や運用コストがかかります。導入に必要なコストを確認し、費用面から使い続けられるかを考えておかなければなりません。
ただし、システムの導入によって人件費や印刷にかかる費用などのコストカットが可能です。費用全体を比較して、システムの導入を検討するといいでしょう。
従業員に対する電子化に関する教育が必要
請求書の電子化のルールや新たなシステムの使い方について、従業員に教育する必要があります。社内フローの見直しや研修などを取り入れ、従業員の理解をサポートしましょう。セキュリティ対策について認識をそろえることも重要です。
請求書をデータで送る際の主な注意点
請求書をデータでやり取りするにはさまざまな注意点があります。ここでは、発行する際に満たすべき要件と、送付する際の保存方法について解説します。
請求書をデータで発行する際の注意点
請求書をデータで発行した場合の保存方法には、以下の2つに大きく分けられます。
- 紙の請求書をスキャンして保存する
- 最初から電子データとして作成し、データのまま保存する
請求書をデータで保存するには電子帳簿保存法に沿った対応が不可欠ですが、方法によって保存の要件が異なります。それぞれについて見ていきましょう。
紙の請求書をスキャンする場合
紙の請求書をスキャンして保存する方法を、電子帳簿保存法では「スキャナ保存」と呼びます。スキャナ保存ができる書類は、取引先から受領した書類や、自社が取引先に向けて発行した書類の写しです。請求書のほか、契約書や見積書・納品書・領収書など多くの書類が対象となっています。
スキャナ保存を行うための機器の性能に関する要件は以下の通りです。
- 解像度200dpi以上による読み取りができること
- フルカラーで24ビット以上の読み取りができること
上記の要件を満たす場合には、スキャナを使う場合だけでなく、スマートフォンやデジタルカメラで撮影した画像データも認められます。
このほかの保存要件には以下のものがあります。
- 定められた期間内の入力
- タイムスタンプの付与
- 読み取り情報の保存
- バージョン管理できるシステムであること
- 入力者の情報を確認できるようにしておくこと
- 帳簿との相互関連性の確保
- 見読可能装置やシステムの概要書などの備え付け
- 検索機能の確保
このようなさまざまな細かい要件を満たすかどうかは、国税局の相談窓口で確認できます。スキャナ保存の要件を満たす製品の認証制度も存在しますので、自社のみでの判断が難しい場合は活用しましょう。
最初から請求書をデータで作成する場合
パソコンなどで電子データとして作成した請求書を、紙に出力せずデータのまま保存する方法を、電子帳簿保存法では「電子帳簿等保存」と呼びます。電子帳簿等保存の対象となるのは、国税関係の帳簿や取引関係書類です。請求書は取引関係書類に当たるため、保存要件は国税関係帳簿よりも緩和されています。
電子帳簿等保存の主な要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つに大きく分けられます。
真実性の確保とは、改ざんがなく正確であることを証明できている状態を確保することです。そのためには、タイムスタンプの付与や、システムについてデータの訂正や削除のできないものや訂正・削除の記録が残るものを使うことが必要です。不当な訂正や削除を防止するための事務規程を作り、運用することも有効です。
可視性の確保とは、該当の書類を必要に応じてスムーズに閲覧できる状態にしておくことです。データ形式の書類を閲覧するには、ディスプレイや専用のアプリなどの備え付けが必要です。さらに、書類をデータで扱うためのシステムがある場合は、システムの概要書や仕様書、操作説明書、事務処理マニュアルなどの備え付けも求められます。
加えて検索機能の確保によって、必要な書類をすぐに閲覧できるようにしておかなければなりません。取引年月日、取引金額、取引先の3つで検索できることが求められます。
これらの要件を満たすことで、請求書を紙に出力することなくデータで保存できます。ただし、後述する「電子取引」に該当しなければ、印刷して保存することも認められています。
請求書を郵送ではなく電子的に送る際の注意点
「電子取引」によって送受した請求書は、データ形式のままで保存する義務があります。電子取引とは、書類を電子データのままでやり取りすることです。電子取引の方法には、電子メールやEDI取引(電子データ交換)、クラウドサービス、ペーパーレスFAXなどがあります。
電子取引は2022年1月の改正電子帳簿保存法の施行時に、事業規模を問わずすべての事業者に義務付けられました。電子取引でやり取りをした書類を紙にプリントアウトして保存することは認められていません。ただし経過措置があり、2023年12月31日までを猶予期間として、従来通り紙に印刷して保存することも認められています。
データ化した請求書(電子請求書)を取引に導入する際のポイント
取引でデータ形式の請求書を使うには、取引先との事前の打ち合わせや準備が必要です。ここではデータ化した請求書を導入する際のポイントを3つ紹介します。
取引先に押印の必要性を確認する
請求書への押印はしなくても基本的に問題はありません。ただし、会社が発行した正式な請求書であるという意味で、社印を押すことが一般的です。
請求書を紙から電子データに切り替える際には、押印が必要かどうかを取引先に確認しておくとスムーズに移行できるでしょう。もし必要である場合は、電子印鑑を用いるなどの対応が必要です。
取引先に紙の請求書の必要性を確認する
データ形式の請求書を送るとともに、紙の請求書も必要かどうかを確認しておくといいでしょう。「業務の中で紙の請求書も使う」という取引先に紙の請求書を発行することに問題はありません。
ただし、データと書面のどちらを原本にするかは明確に決めておく必要があります。どちらかを原本と決めて、自社・取引先ともに同じ形式の請求書を保存しなければなりません。
適切なセキュリティ対策を講じる
請求書を電子データで扱う場合には、セキュリティ対策が必要です。多くのシステムにはセキュリティ対策が講じられていますが、情報漏洩のリスクはゼロではありません。
社内においても、パソコンのウイルス対策ソフトを導入する、特定の社員しか見られないフォルダで管理する、専用システムのIDやパスワードの管理を徹底するなどの対策が必要です。メールに添付して送る場合は誤送信に気を付けましょう。
まとめ
請求書を電子化することで、コスト削減や業務の効率化、検索性や正確性の担保などさまざまなメリットを得られます。経理担当者の負担軽減になるため、一人ひとりに合ったよりよい働き方にもつながるでしょう。
請求書の電子化を行うには、電子帳簿保存法の理解が不可欠です。また、取引先に相談して事前承認を受けておくことや社内での準備も大切です。ポイントを押さえて、請求書の電子化を進めていきましょう。
請求書のデータ化についてのQ&A
最後に、請求書のデータ化に関するよくある質問をQ&A形式で紹介します。
Q1.PDF化した請求書は法的に有効?
PDF形式でも紙形式でも、請求書の有効性は変わりません。税務調査における証拠資料としても認められます。電子帳簿保存法に対応した請求書発行システムを利用するといいでしょう。
Q2.電子帳簿保存法の対象とならない、データ化できない請求書はある?
請求書はすべて電子帳簿保存法の対象となるため、データ化しての保存が可能です。発行側と受領側の間での取り決めがあれば、上述したPDF形式だけでなくWordやExcelなどの形式での保存も可能です。
Q3.スマホでPDFの請求書を作成する方法は?
スマートフォンの請求書作成アプリで作成が可能です。テンプレートが用意されており、必要事項を入力することで自動で簡単に請求書を作成できるため、個人事業主や小規模の企業におすすめです。無料で利用できるものもあるため、まずは使ってみるといいでしょう。
Q4.PDFの請求書にパスワードをかける方法は?
PDF編集ソフトを利用してPDFファイルを「保護」することで、パスワードを設定できます。オンラインでPDFを暗号化できるツールも存在します。パスワードをかけることで、送信先を誤った場合やファイルが流出したりといった場合に、重要な取引情報を守ることができるでしょう。
Q5.請求書のデータ化は義務化されている?
請求書をデータ化することは義務ではありません。従来通りの紙での保存も有効です。
ただし、電子取引で受領した請求書の電子データは原本として扱われるため、データ形式の保存が義務付けられています。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。
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