IT経営が中小企業の生死を分ける 経営者に求められるIT活用とは

IT 経営が中小企業の生死を分ける 経営者に求められるIT活用とは

IT経営という言葉を聞いたことはありますでしょうか。現代社会は、IoTやビッグデータ、AI(人工知能)などITの急速な発展により、産業構造やビジネスモデルがかつてないほど大きく変容しています。第4次産業革命と呼ばれる劇的な変化が想像を超えたスピードで起こっています。こうした変化の中で競争を勝ち抜いていくためには、ITへの対応はもちろんのこと、勝ち抜くための経営戦略やビジョンを描きながら、業務や組織、企業文化・風土も含めた変革(DX:デジタルトランスフォーメーション)を推進することが重要です。つまり、ITを戦略的に使いこなし、競争力や生産性の向上を実現し、経営力をアップする「IT経営」が今経営者に強く求められているのです。この記事では「IT経営」の概要や経営にITを活用することの重要性について解説をします。

IT経営とは

IT経営という言葉はもともと経済産業省が使い始めた言葉です。定義も時代に即して変化してきており、最近はIT活用度の3段階(①IT導入レベル、②IT活用レベル、③IT革新レベル)のうちの第3段階であるIT革新レベルのDX(デジタルトランスフォーメーション)にフォーカスしています。
ITコーディネータ協会が定めたIT経営の定義を見てみると以下のように記載されています。

「IT経営とは、経営環境の変化を洞察し、戦略に基づいたITの利活用による経営変革により、企業の健全で持続的な成長を導く経営手法である」

引用:ITコーディネーター協会 IT経営とは?

これは特別なことを示しているわけではなく、消費者や顧客企業がITを活用したさまざまなサービスを利用し、多くのメリットを享受している現代社会においては当然の経営戦略と言えるでしょう。

IT経営という言葉を単に技術(Technology)を使って経営を行うことと受け取っている経営者も多いようですが、IT経営の真の意味は「企業経営に情報を“活用”すること」です。IT経営はITを一部の問題に対処するための道具として活用するという「IT導入レベル」から始まりますが、経営課題、すなわち経営が目指す方向や戦略を実現する手段としてITを活用する「IT活用レベル」にまで推し進めることが真のIT経営と言えます。

さらにIT経営には、企業・事業戦略と合わせたIT活用で競争性の優位を得るIT経営や単なる道具を超えて事業戦略・ビジネスモデル・業務プロセスまでもITによって最適化し経営を革新していくというIT経営もあるでしょう。これは、前述したIT活用度の第3段階である「IT革新レベル」であり「攻めのIT経営」とでもいうべき経営のパラダイムシフトです。つまり、進化したITによって企業経営が従来のそれとは大きく変わる可能性があるわけです。IT経営とは、ITによって企業経営の革新を目指すものなのです。

IT経営の重要性とその効果

少子高齢化により、人手不足や事業承継難は日本の企業社会において極めて深刻な問題となっています。特に中小企業にとってはより深刻であり、景気が好転したとしても生産年齢人口の減少によって人手不足を解消することは難しいでしょう。

事業承継では「大廃業時代」と呼ばれる状態が進んでいて、経済産業省の発表によると2025年には中小企業経営者の6割以上が70歳を超え、そのうちの127万社は後継者が未定で廃業する可能性が極めて高いという状況にあります。650万人の雇用とGDP約22兆円が消失するという試算もされており、もはや待ったなしの状況です。
参考:経済産業省 中小企業・小規模事業者の 生産性向上について

日本の企業数の99.7%、雇用の約70%を占めている中小企業が、存続し、かつ成長発展していかなければ日本の経済は成り立ちません。
少子高齢化だけでなく、労働生産性が低いことも日本経済の大きな課題です。日本の時間当たり労働生産性は46.8ドルでOECD加盟36カ国中21位、米国の約6割の水準です。主要先進7カ国で見ると1970年以降最下位の状況が続いています。
参考:公益財団法人日本生産性本部 労働生産性の国際比較2019

こうした日本企業を取り巻く状況を見て政府は2004年以降IT経営を強力に推進しようとしています。まずはIT導入という「守りのIT経営」からスタートし、最終的には経営そのものもITによる進化、すなわち「攻めのIT経営」を目指すということなのです。
企業にとって重要なのは「業務コストの削減」「業務プロセスの効率化」「顧客満足度の向上」「競争優位の獲得」「売上の増加」「新規顧客獲得」「新規ビジネス・製品の開発・高付加価値化」「技術力の強化」「人材の確保・育成」といったものです。

この中で「業務コストの削減」「業務プロセスの効率化」は、多くの企業でIT導入の目的となるものです。これらは「守りのIT経営」によって短期的に実現できるものです。まずはこれらを実現し、人的リソースなどの使えるリソースを増やすことが第一歩となります。リソースを増やすことができれば「既存顧客の維持」「新規顧客の拡大」「新たなビジネスモデルや付加価値のある製品・サービスの構築」「新事業への進出」といった売上や利益を増大させていく施策を実施することが可能となります。
そして、さらにITを経営にうまく活用していく方策、つまり「攻めのIT経営」を行うことで、長期的な企業の成長・発展、厳しい経営環境の克服が実現可能となります。

現代社会はITの進展によって大きく変化しています。変化に対応する経営を展開していくのは必然であり、また経営者の責任です。ITの積極的活用は、企業経営を飛躍的に成長させる大きなチャンスなのです。

IT経営の事例

実際にIT経営で成功している企業の例と身近な事例をご紹介します。

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)

JR東日本は経済産業省が東京証券取引所と共同で選ぶ「攻めのIT銘柄」に5年連続選出されています。SuicaなどICTを用いたサービス開発を積極的に行っています。近年はスマートフォンアプリ「Ringo Pass」の実証実験を開始し、経路検索・乗車・決済などの機能を盛り込んだサービスの提供を検討。社内の業務にもITをより積極的に活用して効率化を図っており、AIを活用した問い合わせセンター業務のオートメーション化を実現しています。
回答の品質や応答効率のばらつきを解消するだけでなく、頻繁に発生する定型的な問い合わせはAI、非定型的な問い合わせは従業員が対応するというすみ分けを可能にしました。
参考:東日本旅客鉄道株式会社 JR東日本ニュース

株式会社パルコ

パルコ公式スマートフォンアプリ「POCKET PARCO」やロボットによる案内サービスなど、デジタル時代の新たな小売業のあり方を模索する先進的な取り組みを多数展開しており、これらが成功すれば世界的な展開も可能となるということが評価され、経済産業省が選出する「IT 経営注目企業」に選定されました。
参考:株式会社パルコ 経済産業省が選定する「IT経営注目企業」にパルコが2年連続で選定

株式会社武蔵野

中小企業で大きな成果を生み出しているのが株式会社武蔵野です。従業員全員が使えるiPadを600台導入し、顧客管理システムや伝票レス化を実現して76時間あった残業を1年で36時間まで減少させることに成功しています。年齢に関係なく使えるシステムという点も評価され、2018年には『第35回IT賞』にて「IT奨励賞」を受賞しています。
参考:株式会社武蔵野

田中精工株式会社

田中精工株式会社は自社を含む11社で生産管理を行うIT化戦略を策定し、協同で利用できるクラウド型生産管理システムを構築。その結果、協力工場のQCD管理レベルが向上し、継続・安定的な受注につながりました。その成果が認められ、IT経営力大賞2009にて経済産業大臣賞を受賞しています。
参考:田中精工株式会社

身近なIT 経営の例

新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響でWeb会議ツールの活用が広がりましたが、Web会議ツールもIT経営の成功事例の中に数多く出てきます。それまでは高価なテレビ会議システムや電話などを使用していた企業が、Microsoft TeamsやZoomを使用するようになって「コミュニケーションのスタイルが変わった」「トラブルが激減した」「効率的になった」「自由度が増えた」という変化が起きています。これには従来のテレビ電話会議システムに替えてZoomを利用するようになったことで大きな効果をあげている日商エレクトロニクスなどの例があります。

また、パッケージソフトの販売管理システムや経費精算システムを導入しただけで、コストの「見える化」が実現でき、損益管理がより簡単にできるようになった企業もあります。
エクセルなどの表計算ソフトにRPA(Robotic Process Automation)を導入することで、数値データをコピー&ペーストする作業を自動化し、従業員が本来やるべき業務により集中できるようになった例や新たな仕事に時間を振り分けられるようになった例などもあります。

もっと身近な例を挙げれば、メール作成作業や報告書作成業務などにおいても、定型文を用意したり、あらかじめフォームを登録したりしておくだけでも作業時間を軽減することができます。それだけでも業務改善や残業代の軽減、生産性向上による売上向上に寄与するのです。

まとめ

IT経営とは、企業経営に情報を活用することです。ITで得た情報を経営戦略やビジョン、事業計画につなげていく必要があります。しかし、ITのことは自分の専門外だから担当者に任せるということをしていないでしょうか。多くの経営者が自社の投資について述べるのは「設備投資」と「研究開発」が中心で、「IT 投資」を語る経営者はまだまだ少ないと言わざるを得ません。

IT技術の発展は、中小企業のIT導入における資金面での負担軽減に寄与することも事実であり、また政府の支援政策も益々増える傾向にあることに目を向けるべきです。IT経営に取り組むか否かは中小企業経営者の意識に大きく左右され、最終的には経営者の判断によります。つまり、もっとも重要な点は経営者の意識です。逆に言えば、経営者の意識次第で解決の道は開かれており、多くの中小企業経営者がIT経営に気付きを持ち、取り組みを展開することがそれぞれの企業の課題解消につながり、将来的にビジネスを拡大伸長させることができるようになるのです。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

経費精算システム「楽楽精算」

著者 佐藤 義規

Fortuneトップ100に入る米欧4社でのマネジメント経験と、IT ベンチャーでの起業経験を活かし、ビジネスコンサルタントとして活躍。国内外の事業家支援や企業向けコンサル、起業家や経営者向けセミナーなどを数多く実施。専門は、業績改善や業績アップ。また、心理カウンセラーの認定を持ち、経営幹部のメンタルサポートや社員のマインド改善セミナーなども行っている。