減価償却を完全マスター 計算する際に気を付けたいポイント3つ

減価償却を完全マスター 計算する際に気を付けたいポイント3つ

建物や機械装置などの有形償却資産は、原則として代金を支払ったときに費用計上するわけではありません。

なぜなら、それら有形償却資産を使って生み出される商品やサービスを販売したときの売上は、有形償却資産を購入した期だけではなく、その翌期も翌々期もずっと発生するためです。会計上は費用収益対応の原則というものがあり、収益(売上)が翌期以降も発生するのであれば、費用についても収益が発生する時期に合わせて計上するのです。そのための方法として、有形償却資産を購入時に費用とするのではなく、一旦資産として計上し、その有形償却資産を使用する期間にわたって少しずつ費用計上していきます。これが減価償却と呼ばれる方法です。

有形償却資産を徐々に費用化していくために、つまり、減価償却費を計算するためには1.取得価額、2.耐用年数、3.残存価額の3つの要素が必要になります。これが本稿で説明する3つのポイントというわけです。
それでは、これらの要素について一つずつ説明していきましょう。

減価償却のポイント1. 取得価額

取得価額とは、有形償却資産を購入した価額です。
繰り返しになりますが、この取得価額を徐々に費用にしていくことで、売上と対応させるのが減価償却です。しかし、有形償却資産を使い売上を計上していくためには、購入価額以外にも費用がかかります。
たとえば、有形償却資産が稼動する状態にするためには、その有形償却資産を運ぶ運賃などがかかりますよね。そのような費用(付随費用といいます)についても、有形償却資産の取得価額に含まれ、将来の売上に対応させるため、有形償却資産と一緒に減価償却されることとなります。

減価償却のポイント2. 耐用年数

それでは減価償却はどれくらいの期間にわたって行えばよいのでしょう。
そもそも減価償却は有形償却資産の取得価額を、その有形償却資産を使うことによって計上される売上に期間対応させる手法ですから、減価償却期間もその有形償却資産を使用する期間にわたって行うのが適切だということになります。この「有形償却資産を使う期間」のことを耐用年数といいます。
では、その期間はどれくらいかと言えば、それは各企業によって異なってきます。なぜなら、同じ切削用の機械をA社とB社が購入したとしても、何を削るのか、どれくらいの稼働率なのかによって、その機械を使える年数は変わってくるでしょう。
そのため、会計上は各企業の実情にあった耐用年数をそれぞれ見積もるということになります。
ただし、この方法では一つ問題があります。それは税法上の問題です。

先ほどの切削用機械の取得価額が6,000万円だったとして、A社は耐用年数を5年、B社は耐用年数を10年と見積もったとしましょう。この場合、A社は1年間に1,200万円(=6,000万円÷5年)の減価償却費を計上しますが、B社は600万円(=6,000万円÷10年)しか計上できません。

公平性を重んじる税法にとって、同じ有形償却資産を使用したにもかかわらず、費用計上される金額、つまり納税金額に差が生じるのは認めにくいものです。そのため税法では、省令によって有形償却資産の種類に応じた耐用年数をあらかじめ定めており、これは法定耐用年数と呼ばれます。

そして、各企業が見積もった耐用年数が法定耐用年数より短い場合には、法定耐用年数を用いて計算した減価償却費までが税法上認められる、つまり損金経理できる減価償却費となります。
仮に先ほどの切削用機械の法定耐用年数が6年だとすると、A社の見積もった5年という耐用年数は、税法的には短すぎることになります。

法定耐用年数6年の場合の減価償却費は1,000万円(=6,000万円÷6年)ですので、200万円(=1,200万円-1,000万円)は損金とできないということになります。

なお、B社のように法定耐用年数で計算した減価償却費より少ない減価償却費を計上している場合には、問題となりません。税金を多く納める分にはかまわないということです。

減価償却のポイント3. 残存価額

かつては減価償却の3要素といえば1.取得価額、2.耐用年数、3.残存価額でした。

しかし平成19年度の税制改正により、平成19年4月1日以降に取得した有形償却資産について、残存価額という概念が廃止され、代わりに残存簿価というものができました。残存価額とは、耐用年数が過ぎても有形償却資産に残る価値とされていたもので、取得価額の10%とされていました。耐用年数が到来したときに売却すれば、取得価額の10%くらいの値段で売ることができるだろうと考えられていたんですね。

しかし上記の税制改正により、残存価額という概念はなくなり、耐用年数の到来した有形償却資産には残存簿価1円の価値しかないということになりました。先ほどの切削用機械ですと、以前は6,000万円の10%である600万円が残存価額となり、取得価額から残存価額を除いた金額を耐用年数にわたって減価償却しますので、1年間の減価償却費は900万円(=(6,000万円-600万円)÷6年)となります。

これが税制改正により、1年間の減価償却費は1,000万円(=6,000万円÷6年)となったと言うわけです。そして最後の年の減価償却費は、残存簿価が1円ありますので、9,999,999円(=1,000万円-1円)となります。

まとめ

今回は減価償却計算の際に気をつけたいポイントとして3つの要素を説明しました。
本稿では定額法と呼ばれる方法で減価償却費計算を行いましたが、減価償却費の計算方法は、他にも定率法や生産高比例法など様々な方法があり、さらに税制改正があることで、有形償却資産の取得年度により微妙に計算方法が違っています。
これらの点に留意しながら適切な減価償却費計算を心がけましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 大野 修平

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公認会計士・税理士 前職の有限責任監査法人トーマツでは銀行、証券会社、保険会社など金融機関向けの監査、デューデリジェンス、コンサルティング業務などに従事。 現在は、会計や税金を身近に感じてもらえる様々なイベントを運営している。 無類の読書好きで、蔵書が3,000冊を超えないようコントロールすることに頭を悩ませる日々。