リコール(回収・無償修理)が発生した!この場合の会計処理を考えよう

リコール(回収・無償修理)が発生した!この場合の会計処理を考えよう

昨今、特に自動車業界でリコールが相次いでいます。リコールや無償修理が行われると企業に金銭的負担が生じますが、その場合どのように会計処理をすればよいのでしょう?リコール起こってからの会計処理を考えてみましょう。

そもそも、リコールとは?

リコールとは、設計・製造上の過誤などにより製品に欠陥があることが判明した場合に、法令の規定または製造者・販売者の判断で、無償修理・交換・返金などの措置を行うことです。

上記定義にあるように、

  • 法令に基づくリコール
  • 製造者・販売者による自主的なリコール

に大別されます。

法令に基づくリコールには、まず消費生活用製品安全法によるリコールがあります。消費生活用製品安全法とは、重大な欠陥商品に対して、経済産業大臣が命じるリコールの事です。2013年にTDK製加湿器による発火のリコールはこのリコールにあたります。CMなども多数放映されたので、記憶に新しいのではないでしょうか。

次に、道路運送車両法に基づく自動車やオートバイのリコールがあります。自動車の構造、装置又は性能が自動車の安全上、公害防止上の規定(道路運送車両の保険基準)に適応しなくなるおそれがある状態、又は適応していない状態で、原因が設計又は製作の過程にある場合に、その旨を国土交通省に届け出て自動車を回収し無料で修理する制度です。タカタのエアバッグの不具合等がこれによるリコールになります。

健康食品から医薬品の混入があった場合には、薬事法からのリコールがありますし、食品衛生法の規定以外の食品添加物や残留農薬が検出された場合にもリコール対象となります。脱法ハーブなどが薬事法によるリコールに当たります。

製造者・販売者の自主的なリコールとは、法令により強制されてはないが、欠陥がある製品等を製造販売し、結果的に購入者が損害を被った場合に、製造物責任法による規定により賠償責任を負うことがあったり、欠陥商品を販売したことによって、企業イメージが低下するリスクが発生することがあるので、このようなリスクを軽減するために、自ら行うリコールの事です。実際行われているリコールについては、独立行政法人国民生活センターによって、情報が公開されています。

リコールがあったときの会計処理

実際にリコールがあった場合はどのように会計処理を行うのでしょう?
リコールがあった場合に係る費用は、多岐にわたりますし、リコールした製品、種類によって、異なってくるでしょう。また、従前にリコールに対してどのような会計処理を行ってきたかによっても、処理が変わってきます。
通常はリコールが起きた際に、当該リコールに係る費用(交換、修理、回収、告知、輸送など)を個別に見積もって、

借方)特別損失 ×× 貸方)製品保証引当金 ××

との仕訳をする場合が多いと考えられます。

また、トヨタの場合は、有価証券報告書の追加情報に「将来のリコール等の市場処置に関する費用について、従来の個別に見積もる方法に加え、過去の発生状況を基礎にして包括的に見積もる方法を併用しています。これは、当事業年度において一連の品質問題をふまえ、「グローバル品質特別委員会」の設置などお客様視点での取り組みの強化に向けて業務の抜本的見直しを行ったこと、および市場処置台数が増加したこと等によるものです。」との記載があります。

トヨタの場合はリコール費用を個別に見積もるだけでなく、包括的に計上しているので、よっぽど、予測不能な大規模リコールが起きない限り、実際リコールが起きて、債務が確定した際に、引当金を取り崩す処理をしているものと予測されます。

ただし、引当金計上は企業会計原則注解18によると

  1. 将来の特定の費用または損失であること
  2. 発生が当期以前の事象に起因すること
  3. 発生可能性が高いこと
  4. 金額が合理的に見積り可能であること

との4つの要件があり、リコールが実際に起きる前に「4.合理的に見積もり可能であることを満たすこと」が難しいと考えられ、実際の実務においては、リコールが発生した期に、個別に見積もり、当該費用を特別損失、引当金計上しているケースが多いと考えられ、トヨタのように、包括的に計上している企業ばかりではないと予測されます。

リコールに関する金額を費用計上した際の税務上の問題点

リコールが起きた場合は、リコールに関する費用を計上しますが、全額が損金算入できません。実際に損金算入できるのは、費用として確定した債務のみです。確定していないものについては、別表調整が必要となります。

また、上場会社等と非上場会社での会計監査人を設置している会社の場合は、損金算入できない一時差異については、税効果会計を適用する必要があります。会社の規模とリコールの規模によっては、繰延税金資産の回収可能性に影響を及ぼす可能性もあります。リコールに関する費用を計上した際は、様々な科目に影響を与える可能性がありますので、かなり注意をもって処理する必要があります。

最後に

リコールに関する会計処理の実務は、各企業によって対応が異なり、画一的な処理が形成されていないという現状があり、とても難しいと思います。実際に、引当金の実務に関しては、様々な見解があり、専門家の間でも研究段階であるというのが現状ですし、IFRSとのコンバージェンスでも問題となっている論点の一つでもあります。実際にリコールに関する費用を計上する場合は、上記認識を踏まえて、専門家とよく相談することが肝要となってくると思います。

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