有利子負債って何? 知っておきたい基礎知識と計算方法
有利子負債が多いと、企業の経営状況が苦しいとイメージする方は多いでしょう。確かに有利子負債が多過ぎると、利息の支払いや返済義務の観点から財務の安定性が損なわれます。しかし、研究開発費など成長のための借り入れであれば、一概に悪いとは言えません。ここでは有利子負債の基礎知識や負債との違い、有利子負債比率など関連する項目について詳しく解説します。
有利子負債とは?
有利子負債とは、利息をつけて返済しなくてはいけない負債のこと。具体的には下記項目が該当します。
- 金融機関などからの借入金
- 社債
- コマーシャルペーパー
金融機関からの借入金には、返済期限が1年以内に設定された「短期借入金」と1年以上の「長期借入金」があります。一般的に長期借入金の方が利率は高いですが、返済期間が長いので安定した資金として使用可能です。
社債は、企業が資金調達を目的に発行する債券のこと。購入者は満期が訪れると、元本と利息を受け取れます。企業にとって社債は借入金です。そのため返済義務があり、普通社債や転換社債などさまざまな種類があります。
そしてコマーシャルペーパーとは、企業が資金調達のために発行する無担保の約束手形です。社債と似ていますが、償還期間が通常1年未満と短い点が特徴となります。
なお、上記以外で利息が発生する取引にリース取引があります。2008年の「リース取引に関する会計基準」によって、ノンキャンセラブル(解約不可)やフルペイアウトのファイナンスリース取引はリース料金支払い時に支払利息を計上することとなりました。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
リース債務 | 100 | 現金 | 120 | |
支払利息 | 20 |
リース取引は複数の種類があり、それぞれ会計処理が異なります。詳細については下記を参照ください。
経理プラス:リース取引の仕訳と会計処理 ―リース取引の基本と実務:経理担当者の苦手意識克服シリーズ―
負債とは?
負債とは、支払いや返済義務を負うマイナスの財産です。貸借対照表の右側上部に記載されます。貸借対照表の負債は返済期限が1年未満であれば「流動負債」、1年以上は「固定負債」と分けて表示。流動負債として、主なものには買掛金、前受金、未払金、短期借入金などが該当します。そして、固定負債は長期借入金、社債、退職給付引当金などです。
有利子負債と無利子負債
負債は、利息支払い有無の観点から「有利子負債」と「無利子負債」に分類できます。
流動負債 | 固定負債 | |
---|---|---|
有利子負債 | 短期借入金 コマーシャルペーパー | 長期借入金、社債 |
無利子負債 | 買掛金、前受金、未払金、 支払手形、仮受金 | 退職給付引当金 |
貸借対照表には直接区分されませんが、有利子負債の総額は企業財務の健全性を測るうえで注意すべき項目です。
有利子負債から分かること
有利子負債は利息をつけて返済する義務のあるお金であり、簡単に言うと借金です。借金は少ない方が良いといったイメージがありますが、それでは企業は成長戦略を描くことができません。新規の設備や研究開発費に積極的に投資している企業、あるいはスタートアップの企業などは、有利子負債が多くなりがちです。しかし、これは将来を見据えての先行投資であり、有利子負債が多いことが一概に悪いとは言えません。
この他に、有利子負債が多い業態としては製造業、インフラ関連事業、電気小売業などが挙げられるでしょう。自動車、電力、鉄鋼、鉄道といった企業では、毎年多くの設備投資が必要となり有利子負債が多い傾向にあるためです。企業によっては、有利子負債が1兆円を超えるケースもあります。
反対に、有利子負債が少ない業態としてはサービス業、医薬品製造業、情報通信業が挙げられます。設備投資が少なく、収益が上下に大きくブレない企業が多いでしょう。
このように有利子負債の金額は、企業の業態や戦略に左右されることがあります。しかし、過剰な有利子負債は利息や返済のキャッシュアウトが毎月発生し、財務体質を悪化させる懸念があることも事実です。有利子負債の適性性の判断には、会社の自己資本と比較する有利子負債比率が有効となります。
有利子負債比率
有利子負債比率とは、有利子負債が自己資本の何%にあたるかを表した指標です。なお、自己資本とは資本金や利益剰余金のこと。返済する必要がなく、支払利息も発生しないので、有利子負債より安定した資金と言えます。
例えば有利子負債12億円、自己資本15億円の場合、以下のように有利子負債比率は80%となります。
一般的な目安としては、100%以下が望ましいと考えられています。つまり、有利子負債は自己資本に収まる程度が良いということです。
しかし中小企業では株による増資は難しく、また一般的に内部留保に回せる利益剰余金は少額のため自己資本が低くなりがちです。そのため、有利子負債比率が100%以下にならないケースもあるでしょう。企業規模や業種によっても有利子負債比率は大きく異なるため、同一業種や同一規模の企業と比較してください。
産業別の有利子負債額や自己資本額については、中小企業庁の「中小企業実態基本調査」が詳しいので参照ください。
参照:中小企業庁 中小企業実態基本調査
なお、同様の経営指標としてDEレシオがあります。これは「Debt(有利子負債)」と「Equity(自己資本)」の割合を示す指標です。
有利子負債比率が「%」で表示するのに対してDEレシオは倍数で表し、その目安は1.0倍になります。
有利子負債(融資)と増資の違い
企業では運転資金や設備投資、新規事業への参入など、さまざまな場面で資金調達が必要となります。資金調達の主な方法は融資と増資。金融機関からの融資は有利子負債ですが、株式を新しく発行し資金を集める増資は払込金の返済や利息の支払いが不要です。
融資 | 増資 | |
---|---|---|
資本の区分 | 他人資本 | 自己資本 |
資金の提供者 | 金融機関 | 投資家 |
払込金の返済 | 必要 | 不要 |
利息の有無 | あり | なし |
実行までの時間 | 早い | 遅い |
有利子負債である融資は、当然ながら元本と利息の返済義務があります。しかし増資より調達工期が短く、株主が増えるわけではないので経営の自由度が変わりません。
増資は返済や利息の支払いが不要です。一方、毎年配当金を検討する必要があり、結果として融資より資金調達コストが高くなる傾向があります。資金の目的や用途に応じて、資金調達の方法を選択することが重要です。
まとめ
有利子負債の基礎知識と有利子負債比率について、詳しく解説しました。有利子負債は金額のみに注目するのではなく、自己資本との割合、あるいは同規模や同業種の企業と比較して判断することが重要です。ここで取り上げた内容を参考に、有利子負債に関する正しい知識を身に付けておきましょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。