融資担当者はここを見ている -償却・引当金編-
融資を判断する金融機関の担当者は、決算報告書だけではなく、法人税の申告書もチェックしています。
今回は、減価償却や引当金について、どのような視点で融資担当者が申告書を見ているのかについてみていきましょう。
古典的だけど使われる減価償却での調整
利益が少ないとき、利益を多く見せたいときに使われる手段は、「収益を増やす」か「費用を減らす」かのいずれかです。
費用を減らす時に、利用されるひとつの方法が、本来すべき減価償却を計上しにないというやり方です。
減価償却に関しては、償却費として損金経理した金額と当期の償却限度額のいずれか少ない金額までしか損金として算入することは出来ません。
そのため、償却限度額の金額を下回った金額しか償却費として損金経理をしていない場合は、下回った金額だけ損金にならないのでタックスメリットを失うことになりますが、それでも利益を出したい会社の場合は少ない金額で償却を行って利益を出そうとしていることもあります。
損益計算書だけを見ると、計上している減価償却費が限度額まで計上されているかどうかについては分かりませんが、法人税の申告書を見れば限度額に対してどれだけ不足しているかが一目瞭然です。
そのため、融資担当者は、法人税の別表のうち固定資産に関する別表16を必ず見ます。
別表16で「償却不足」が発生している場合は、内容について問い合わせを受けることになるでしょう。
また、個別の資産ごとに内容を確認するには、固定資産台帳の方がより詳細な内容が分かりますので、固定資産台帳の提出を依頼されることも多いと思います。
固定資産を使った別の粉飾例としては、本来は固定資産に計上すべきでないような資産をあえて固定資産に計上して、「費用を減らす」という事例も見られます。
具体的には、少額の資産で本来は単年度で経費計上できるものを固定資産に計上して、数年間にわたって経費計上することで、初年度の経費の計上を減らすようにするのです。
資産が一件ごとに計上されている固定資産台帳を見ることによってこうした不正が明らかになってしまうものです。
貸倒引当金を計上していないことも申告書で分かる
「費用を減らす」手法のひとつとして、必要な引当金を計上しないという手法もあります。
会社が計上する代表的な引当金には、退職給付引当金、賞与引当金、貸倒引当金があります。
以前は、3つの引当金とも税務上も一定金額の損金算入が認められていましたが、現在は貸倒引当金しか損金算入が認められていません。
そして、貸倒引当金も損金算入が認められるのは、銀行や保険会社と、中小法人等に限定されるようになってしまいました。
そのため、多くの会社では税務上引当金の設定が出来なくなりました。
それでも、中小法人であれば、今まで通り貸倒引当金に関して、個別評価、一括評価のいずれの引当金も計上することで出来ます。
そこで、融資担当者としては充分に貸倒引当金を計上しているかどうかを確認することになります。
その際に、確認するのが法人税の別表と言うことになります
具体的には、法人税別表11(1)で個別評価の引当金を、別表11(1の2)で一括評価の引当金を確認します。
いずれの別表でも、繰入限度額が記載され、繰入限度額に対して超過額、不足額がいくらあるのかと言うことが分かるようになっています。
利益を出したくないから貸倒引当金を過少に計上している場合は法人税の別表を確認されることで分かってしまうのです。
決算時は漏れのないように計上する
今回見た減価償却費、引当金ともに決算時に金額を計上するものです。
ただ、利益をにらみながら調整してしまうと、後々法人税の申告書のチェックを通じて利益調整をしているようにうつってしまう可能性もあります。
そのため、本来計上すべき金額を満額計上する前提で決算を締めるようにしましょう。
融資担当者は決算報告書だけではなく、申告書も見ていることを忘れないようにしましょう。
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