【会計士監修】仕入税額控除の要件と計算方法とは?押さえたいポイントを解説
仕入税額控除とは
仕入税額控除とは、消費税の課税売上にかかる消費税から課税仕入にかかる消費税を控除することです。消費税の課税事業者は、課税売上と課税仕入から計算した消費税の差額を納税しなければなりません。たとえば課税売上から計算した消費税が100円で、課税仕入から計算した消費税が20円であれば、差額の80円を納税します。この20円が、仕入税額控除の額です。今回は、仕入税額控除の要件や対象となる取引、計算方法などを解説します。
仕入税額控除の要件
仕入税額控除の要件は、消費税の「課税仕入」であること。つまり、消費税の課税取引としての要件を満たす仕入取引である必要があります。
消費税の課税取引の要件は、「国内における、事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供にかかる取引」です。これに該当しない課税対象外取引(不課税取引)や非課税取引は、いくら事業に必要な仕入であっても、仕入税額控除に計上できる金額は0円です。
仕入税額控除の対象
通常「仕入」と聞くと、会計の場合は販売商品など棚卸資産の仕入れをイメージするのではないでしょうか。しかし消費税でいう「仕入」は会計の「仕入」よりも範囲が広く、たとえば固定資産の購入費や広告宣伝費、消耗品費、光熱費など、売上に直接的・間接的に貢献する支出を広く指します。
仕入税額控除の計算方法【原則】
仕入税額控除の計算方法には原則と特例があり、原則では「課税売上割合」や課税売上高を考慮して計算します。この「課税売上割合」とは、売上高のうち消費税の課税取引に該当する売上高が占める割合です。
小売業や卸売業などはほとんどが課税売上となるため、割合は高めでしょう。しかし、不動産販売業や医療機関など非課税取引が多い事業は、割合が低くなります。
課税売上割合の計算式
課税売上高(税抜) / 【課税売上高(税抜)+ 非課税売上高】(※)
(※)商品の輸出など外国で消費される「輸出免税売上」がある場合は、分母と分子にその売上高を加算します。
たとえば不動産販売業者で、
・建物の売上高1,500万円
・土地の売上高1,000万円
とした場合、課税売上割合は、1,500万円 /(1,500万円+1,000万円)= 60%です。
そして原則では、この課税売上割合や課税売上高によって、仕入税額控除の計算方法が3通り存在します。それが、全額控除と個別対応方式、一括比例配分方式です。なお、それぞれの条件は次のとおりとなります。
原則
要件 | 仕入税額控除の計算方法 |
---|---|
・課税売上割合95%以上 かつ ・課税売上高5億円以下 | 全額控除(100%控除) |
・課税売上割合95%未満 または ・課税売上高5億円超え | ・個別対応方式 または ・一括比例配分方式 |
全額控除
全額控除とは課税売上割合が95%以上で、かつ課税売上高5億円以下の課税事業者に適用できる計算方法です。課税仕入にかかる消費税を全額控除できるため、消費税において最も有利な計算方法になります。
全額控除の計算例
課税仕入の額
・商品仕入550円(税込)
・広告宣伝費220円(税込)
→(550円+220円)×10/110=70円
仕入税額控除は70円になります。
個別対応方式
個別対応方式とは、課税仕入をその内容から次の3つに区分し、仕入税額控除の金額を個別に計算するものです。全額控除に該当しない課税事業者は、一括比例配分方式との選択適用となります。3通りの計算のうち、最も複雑な計算方法です。
要件 | 計算方法 |
---|---|
課税売上のみに要するもの | 全額控除(100%控除) |
非課税売上のみに要するもの | 控除しない(0円) |
両方に共通して要するもの | 課税売上割合相当額 |
この計算方法では、その課税仕入が何の売上に貢献する取引かを区分しています。それを「課税売上のみ」「非課税売上のみ」「その両方に共通」の3つに区分するのです。課税売上への貢献度が高い課税仕入ほど、仕入税額控除に計上できる金額も大きくなる仕組みです。
たとえば住宅としてのみ貸し付ける建物を1,100万円(税込)で購入したとしても、住宅の貸付けは非課税売上です。そのため、この100万円は仕入税額控除に含めることができません。しかし、これが住宅兼店舗として貸し付けるための建物であれば、これは両方に共通する仕入れとなります(住宅の貸付け:非課税売上、店舗の貸付け:課税売上)。したがって、100万円×課税売上割合が仕入税額控除となるのです。
一括比例配分方式
こちらは個別対応方式のような区分を行わず、課税仕入の全額に課税売上割合をかけて計算します。課税仕入を3つに区分せずに計算した場合は、必然的にこちらを選択するしかありません。しかし、もし区分していたとしても、個別対応方式と比較して有利な方を選択できます。
「非課税売上のみ」が多いほど、一括比例配分方式が有利です。ただし、一度選択すると、選択した時から少なくとも2年間は個別対応方式を選択できないという制限があります。
仕入税額控除の計算方法【特例】
仕入税額控除の計算方法の特例とは、簡易課税制度と呼ばれる方法です。この方法は、課税売上高の税額に「みなし仕入率」をかけて仕入税額控除を計算します。
みなし仕入率は、業種によって全6種類に分かれます。たとえば不動産業のみなし仕入率は40%ですから、課税売上高が2,200万円(税込)の場合、仕入税額控除は税額の200万円にみなし仕入率40%をかけた80万円となります。したがって、納付税額は200万円-80万円=160万円です。
みなし仕入率についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
経理プラス:消費税で簡易課税を採用できるのはどんなとき?メリット・デメリットを解説
簡易課税制度で必要になるのは、課税売上高の税額です。そのため、課税仕入の区分はもちろん、課税仕入の税額さえ計算する必要はありません。ただし適用できるのは、基準期間(前々事業年度)における課税売上高が5,000万円を超えない課税期間のみ。さらに税務署への事前の届出も必要です。
なお、もし適用を開始してから課税売上高が5,000万円を超える課税期間があれば、その期間を基準期間とする課税期間(翌々事業年度)は原則での計算になります。
仕入税額控除の計算方法を変えるには
原則課税から簡易課税に変更するには、簡易課税を始めたい課税期間が開始する日の前日までに、税務署へ「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなくてはなりません。
逆に簡易課税を原則課税に戻したいのであれば、簡易課税をやめる届出が必要です。その場合、課税期間が開始する日の前日までに、税務署へ「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出します。ただし、簡易課税制度の適用を受けた課税期間から、少なくとも2年間は「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出できません。
まとめ
仕入税額控除とは、消費税の納税額を決める重要な金額です。原則にするか特例にするか、原則であれば個別対応方式にするか一括比例配分方式にするかで納税額が変わります。経理担当者は、どの方法が自分の会社にとってメリットがあるか理解し、時には計算方法の変更などを進言できるようにしておきましょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。