支払調書とは?マイナンバー制度導入の影響

支払調書とは?マイナンバー制度導入の影響

支払調書という言葉を聞いたことがありますか。マイナンバー制度の導入に伴い、支払調書の重要性は今後増していくと言われています。なぜ増していくのか、マイナンバー制度とどのような関連性があるのか。
今回はこの支払調書について、基本的な理解をみていきましょう。

支払調書とは何か

支払調書とは、法人が1年間に行った一定の支払いについて、その相手先や支払額等を記載した報告書です。

税理士、司法書士、社会保険労務士などに年間の合計額が5万円を超える報酬の支払いをした会社や、年間15万円を超える不動産の使用料を個人に支払った会社などは、その支払いをした年の翌年の1月31日までに支払調書を作成し、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」に源泉徴収票とともに添付して税務署に提出しなければなりません。
支払調書の成り立ちを理解するためには、前段階として、源泉徴収の仕組みを理解する必要があります。

日本の所得税は、納税者がその年の所得金額と税額を計算し、これらを自主的に申告して納付する申告納税制度が原則とされています。これと併せて給与、利子、配当、報酬、料金等については、その支払者がそれらを支払う際に所得税をあらかじめ徴収して納付する源泉徴収制度が採用されています。

取引先(個人事業者)にデザイン料、原稿料などの報酬や料金を支払う場合は、その支払い額に応じた割合の所得税を源泉徴収することが求められます。源泉徴収した所得税はその翌月の10日までに納付しなければなりません。

源泉徴収制度は選択制(任意)ではなく義務であるため、報酬等を個人に支払う会社(源泉徴収義務者という)は、所得税の源泉徴収を行わなければならないことに注意が必要です。「自分で確定申告するから、所得税を源泉徴収しないで報酬の支払いを受けたい」といわれても、会社から個人に支払う報酬については、所得税の源泉徴収をしなければなりません。尚、会社間(法人間)の支払いの場合、源泉徴収は不要です。

次に、源泉徴収の対象範囲についてみていきましょう。
会社が源泉徴収をしなければならない支払いは、「給与・アルバイト料関係」と「報酬・料金関係」に分かれます。報酬・料金関係とは、デザイナーへのデザイン料、ライターへの原稿料、講演料等の個人事業者に支払われる報酬や料金のことをいいます。車代、謝礼、取材費等の名目であっても、その実態が報酬・料金に該当するものであれば源泉徴収をしなければなりません。
尚、源泉徴収の対象となる支払い金額に下限はありませんので、少額の支払いであっても所得税の源泉徴収をすることが必要となります。

では、源泉徴収の金額とその納付方法は、どのように定められているのでしょうか。

源泉徴収する額は、1回の支払額により異なります。

1回の支払額が100万円以下のときは支払額の10%を源泉徴収します。
1回の支払額が100万円を超えるときは、100万円までの部分について10%、100万円を超える部分につて支払額の20%をそれぞれ源泉徴収します。

徴収した源泉所得税は、徴収した翌月の10日までに、金融機関等で納付します。納付は、所定の納付書「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」を使って行います。納付期限までに納付しなかった場合には、不納付加算税と延滞税が課されますので注意が必要です。

報酬等を支払った会社が源泉徴収をしただけでは、その支払いを受けた人(納税義務者)の納税は完了しません。その人が年間に支払いを受けた報酬等を集計して確定申告することで、最終的にその人が納付する所得税が確定することになります。
源泉徴収を行った会社は、報酬等の支払いを受けた人にその人が確定申告をするための資料として、その人が1年間に支払いを受けた報酬の総額等を記載した支払調書を翌年1月に作成、交付します。また、会社はその支払った金額に応じ、支払調書を税務署に提出しなければなりません。

支払調書と源泉徴収票はいずれも適正に課税するために税務署が提出を義務づけている書類で、「法定調書」と呼ばれます。法定調書は60種類以上あり、その中に支払調書や源泉徴収票が含まれています。

支払調書と源泉徴収票の違いとしては、その仕事を生業としている人に報酬を支払った場合は支払調書、アルバイトなどに給与を支払った場合は源泉徴収票を使用することとされています。

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マイナンバー制度導入により重要性を増す支払調書

マイナンバー導入の最大の目的は、国民一人ひとりの個人情報を一元的に把握・管理することです。国民一人ひとりに固有の番号(=マイナンバー)を割り当てることで、個人が識別しやすくなりました。

マイナンバー制度の運用開始されたのはほんの数年前のことですが、制度導入の検討・議論は何十年も前からなされてきました。個人情報を一元的に管理することによるプライバシー侵害のリスクへの配慮から導入が見送られてきていたのです。ところが、2007年に発覚した年金記録が消失した事件などがマイナンバー制度の本格導入を後押しする形となり、導入が開始されました。

政府は、個人を識別することで正確、かつ効率的に、社会保障サービスが提供されるという主旨の説明を行っていますが、最大の目的は、脱税対策だと言われています。国家財政は厳しさを増す中、マイナンバー制度の運用により個人の収入や財産の変動を一元的に管理し、税金の回収漏れを防止する意図があります。

支払調書などの各種法定調書も、支払いを受けた者がきちんと納税申告を行うかどうかを照合するための書類です。個人を識別するマイナンバー制度の下で情報が一元的に管理されることにより、一層きめ細やかな照合が可能になると期待されています。

マイナンバー制度の導入が政府にとって利点である一方、個人情報が一元的に管理されるため、自分自身や取引先が、痛くもない腹を探られて不快な思いをする恐れもあります。そのようなことのないよう、支払調書などの法定調書の提出義務がある場合には、適切に報告する重要性が増しています。

支払調書取扱いの留意点

支払調書は、年間を通じて、取引先に対していくら支払い、いくら源泉徴収をしたかを、税務署に対して報告する書類であることをみてきましたが、1点注意しなければならないポイントがあります。

それは、提出義務がある提出先は税務署であって、取引先(=支払先)ではないということです。
個人事業主の方の中には、「顧客から送付されてくる支払調書をベースに確定申告を行う」という方もいらっしゃいますが、支払調書の本来の提出先は税務署ですので、すべての支払調書が共有されるわけではないのです。もし支払調書を送付してくれる顧客がいらっしゃったとしても、それは顧客側の親切心に由来するものであって義務ではありません。

正確な確定申告を行うためには、支払調書をベースにするのではなく、自身で売上管理を行うようにしましょう。

まとめ

ここまで、支払調書についてみてきましたが、いかがだったでしょうか。
マイナンバー制度が整備されるにつれて、支払調書を始めとする法定調書の取扱いも丁寧に行う必要があることを感じて頂けたかと思います。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。