固定長期適合率とは?計算方法や業界別の目安・改善方法を紹介
固定長期適合率とは、企業の財務の安全性を分析する指標です。業界別平均値や固定比率との違い、そして3つの改善方法など概略をわかりやすく説明します。
固定長期適合率とは
建物や機械装置といった固定資産は、製品の製造、販売活動のため長期的に利用されます。また、費用も減価償却という手法をもって、数年にわたり費用化されます。
このように固定資産に投資したキャッシュは、売上代金や減価償却費として回収されますが、資金繰りの観点からは、返済義務のない自己資本で資金を調達することが理想です。もし自己資本のみでカバーできない場合は、次の安定資金である固定負債でまかなう必要があります。
固定長期適合率は、「固定資産」と「自己資本+固定負債」を比較し、企業の財務体質を評価する指標です。「身の丈にあった投資を行っているか?」を評価する指標とも言えます。
固定長期適合率の計算式 分子と分母の説明
固定長期適合率(%) = 固定資産 /(自己資本 + 固定負債)× 100
固定長期適合率は、貸借対照表に記載されている固定資産を自己資本(純資産)と固定負債の合計で割った数字です。値はパーセントで表記され、低いほど安全性が高いと評価します。
固定資産とは?
1年以上にわたり、使用・保有する資産のことです。主には、土地や建物、機械装置などの有形固定資産、ソフトウェアなどの無形固定資産、投資有価証券が該当します。
自己資本とは?
株主の出資による「資本金」、利益の累計である「利益剰余金」から構成され、返済義務のない最も安定した資金です。貸借対照表上の純資産に該当します。
固定負債とは?
債務の返済期限が1年以上ある負債のことです。社債や長期借入金などが該当します。返済義務はあるものの1年以上の猶予があり、自己資本の次に安定している資金です。
適正水準と業界別の平均値
固定長期適合率は、100%以下であることがポイントになります。%を超える場合、短期借入金などで固定資産を購入していることになりますので、資金繰りを圧迫する懸念があります。
業界別平均値
中小企業実態基本調査によると、平成30年度(2018年)の業界別平均値は下記の通りです。
産業 | 固定長期適合率 | |
---|---|---|
建設業 | 54% | |
製造業 | 64% | |
情報通信業 | 48% | |
運輸業、郵便業 | 79% | |
卸売業 | 54% | |
小売業 | 75% | |
不動産業 | 82% | |
宿泊業、飲食サービス業 | 97% | |
生活関連サービス業、娯楽業 | 89% | |
全産業 | 68% |
引用元:中小企業庁 中小企業実態基本調査/令和元年確報(平成30年度決算実績)
どの産業でも固定長期適合率は100%以下であり、固定資産は安定資金でまかなわれていると言えます。なお、一部業種ですが企業規模別の固定長期適合率については下記グラフをご参照ください。
固定比率と固定長期適合率の違いは何?
固定長期適合率と似た指標として、固定比率があります。固定比率は、「固定資産を自己資本のみで調達できているか?」を評価した指標であり、固定負債を加味しない分、固定長期適合率よりも財務の安全性を厳しく見る指標です。
固定比率(%) = 固定資産 / 自己資本 × 100
固定長期適合率(%) = 固定資産 /(自己資本 + 固定負債)× 100
固定比率が100%以下であれば、固定資産は最も安定している自己資本のみでまかなえているので、固定長期適合率の分析は不要です。しかし前述の中小企業実態基本調査によると、固定比率の全体平均は112%であり、運輸業や小売業、不動産業、宿泊業、生活関連サービス業など多くの産業で基準値の100%を超えています。
固定資産の投資で銀行から借り入れをする際は、まず固定比率を確認し、100%超であれば固定長期適合率を計算して財務の安全性を検証します。なお、同じく財務の安全性を表す指標に流動比率がありますが、こちらは短期の返済能力を評価する指標です。
流動比率(%) = 流動資産 / 流動負債 × 100
買掛金や短期借入金などの流動負債に対し、現金や棚卸資産がどれくらいあるかを表します。こちらは100%を超えるほど良く、150%を超えることが一つの目安です。
流動比率についてはこちらの記事で解説をしていますので、あわせてご覧ください。
経理プラス:流動比率と当座比率の違い 自社分析に役立つ目安や改善方法を紹介
固定長期適合率の3つの改善方法
固定長期適合率を改善するには「分子を減らす方法」と「分母を増やす方法」に大きく分かれ、分母には「自己資本を増やす方法」と「固定負債を増やす方法」があります。3つの改善方法についてそれぞれ具体的にご説明しましょう。
固定資産を減らす方法(分子)
設備投資を抑え、固定資産を減らせば固定長期適合率は改善します。しかし、固定資産への投資は、企業の成長に不可欠なものです。特に成長分野への投資は、適切なタイミングで行わないとライバル企業に遅れを取ってしまいます。
「固定資産を減らす」方法としては、使用見込みのない遊休資産の処分や持ち合い株の見直しといった保有の適正化の視点から行いましょう。
自己資本を増やす方法(分母)
自己資本を増やす方法としては、利益を上げて内部留保を増やす、増資をする、株式を公開するなどが挙げられます。
しかし利益は景気など外部環境の影響が大きく、また増資や株式公開は新たな資金の出し手や上場手続きといったハードルがあり、狙い通りに進められるかは分かりません。
自己資本の増額は短期間で成果を上げることは難しいため、中期経営計画などに織り込み、経理部門を中心に中長期的にフォローしていくことが有効です。
固定負債を増やす方法(分母)
固定負債を増やす方法には、一般の投資家から広く募集する社債と銀行から長期で借り入れる長期借入金があります。社債も長期借入金も、返済義務がある点では同じです。社債は月々の返済はなく期日に一括で返済する、償還期間を決定できる、利率を決定できるといった点が長期借入金と異なります。
固定資産投資に必要な資金を固定負債で調達する場合、たとえば耐用年数5年の固定資産であれば返済期間を5年以上で設定すると、固定資産が生み出す利益で返済原資を確保できるので無理のない返済計画が立てられるでしょう。
まとめ
固定長期適合率は、「長期間の使用・費用化を行う固定資産を、安定資金である自己資本と固定負債でカバーできているかどうか」を分析する指標です。目安である100%以下かを確認して業界平均とも見比べることで、財務の安全性や設備投資の適正性について判断することができます。
固定長期適合率は固定資産の持ち方、資本の構成、資金の調達方法を見直すことによって改善します。ただし、どれも経営判断を伴うようなレベルの意思決定が必要なため、改善には中長期の視点で見ていくことが重要です。
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