貸倒引当金と個別債権の評価方法

貸倒引当金と個別債権の評価方法

事業活動にはリスクがつきものです。地震や風水害などの自然現象のみならず、新技術登場による棚卸資産の販売価格大幅低下、競合他社の価格引下げによる売上や利益の減少、重要な社員の転職、顧客の倒産などによる販売代金回収困難、貸付先経営不振による貸付金の回収困難などなど。このようなリスクの中で販売代金や貸付金などの回収について問題がある場合、会計上の手当てをするものが貸倒引当金です。

貸倒引当金とは

貸倒引当金は、貸借対照表の資産に計上された債権を対象とするものです。その債権が貸借対照表計上額(債権そのものの金額)よりも低い金額でしか回収できないと合理的に考えられるときに、その回収できないと推定される金額を、貸倒引当金という名称で計上します。貸倒引当金は、貸方残高(マイナス金額)になるもので、貸借対照表では負債の部ではなく対象とする受取手形、売掛金、未収入金、貸付金などの債権勘定から差し引く形式で表示されます。このため評価性引当金と呼ばれます。

一方、貸倒引当金の相手勘定は貸倒引当金繰入額で、この科目は損益計算書の販売費及び一般管理費の中で表示されます。売上高から差引かないのは、債権回収という販売活動後の活動に伴う費用として位置付けられているからです。貸倒引当金は、年度決算はもちろん月次においても計上される必要があります。
販売時の単価が回収までの間に顧客との交渉で引下げられた結果、売上計上した金額を下回る金額でしか回収できないという場合、貸倒引当金を計上することは出来ません。この場合には、売上金額そのものを回収できる金額まで減額することが必要です。

合理的見積額

貸倒引当金として計上される金額は、利益を減少されるものです。これを安易に計上すれば、利益を翌期に繰り延べることになります。適正な損益計算のためには、貸倒引当金に計上する金額は、合理的なものでなければなりません。ここでいう合理的とは、信用調査機関などの第三者の報告書、直接相手先と接するたとえば営業部門の報告、報道機関や業界紙の記事などを総合的に判断し、且つ株主や監査役、会計監査人更には債権者などの第三者を納得されられるものであるということです。

対象となる債権

基本的に対象となる債権は、個別債権になります。この個別というのは、その債権の計上に至った経緯ではなく、債権の相手方別にということです。たとえば、売上債権である売掛金は、日々の営業活動で増加し、その回収活動で減少します。未回収の売掛金のいつ何をいくらで販売したのかという発生状況は、それが回収できるかどうかには関連しません。回収できるかどうかは、相手方の状況に掛かっています。
他方で、多くの顧客を有し、顧客毎の債権金額は少額であるという場合には、過去の回収できなかった歴史に基づき、比率によることも簡便法として容認できるものです。

債権管理

債権計上している相手方毎に、どのような債権をいくら持っているのかを常時把握する必要があります。得意先元帳の整備はもちろん、売上債権であれば売上並びに回収に係る一連の手続きが適切に設計され、且つ定期的にその運用状況が確認され、必要に応じ適切な改善策が行われることが必要です。特に、新規顧客に対する信用調査ならびに取引開始に関する承認、回収遅れの常時監視と報告は、売上債権回収のなかで特に重要です。

更に債権計上している相手先と同一視できる債務計上先があるか否か、ある場合債権金額から債務金額を差引いた金額はいくらなのかを、常時把握することが必要です。たとえば、会社名は異なるもののその取締役が同一人物である場合、債権計上先と債務計上先は同一と考えることが適当でしょう。決算期末などで有する債権の回収可能性を検討し貸倒引当金を計上することは大切なことですが、貸倒れによる事業運営資金の流入減少は直接的に経営を圧迫することになりますから、日々の管理を徹底強化することはより重要と考えられます。多額の貸倒れの発生は、経営として十分な注意が払われていないとされるからです。

貸倒れになってしまったら

翌期になって危惧していた債権、換言すれば貸倒引当金を計上した債権の全部もしくは一部が回収できなくなったときは、貸倒引当金を取り崩します。他方、翌期中の取引で生じた債権が回収できなくなったときは、貸倒損失として取り扱います。これは、適正な期間損益計算を行うために大切なことです。

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