監査等委員会設置会社への移行手続き
「多くの企業が移行を検討する『監査等委員会設置会社制度』とは?」、「監査等委員会設置会社への移行のメリットとデメリット」という記事にて監査等委員会設置会社制度についてご紹介いたしました。今回は、実際に監査等委員会設置会社への移行するための具体的な手続きをご紹介いたします。
移行手続きの全体像
まずは、移行に必要な手続きの全体像とスケジュールをつかみましょう。
- X日-1~3ヶ月 事前準備(人選、規程整備など)
- X日-15日 取締役会決議(株主総会招集決議)
- X日-15日 適時開示(定款変更、代表者の異動)
- X日 株主総会決議(定款変更、取締役変更)
- X日 取締役会決議(代表取締役の選定等)
- X日 監査等委員会決議(規程の決定等)
- X日+2週間以内 商業登記
以上です。
事前準備にかかる期間は会社事情によりますが、手続き自体は2週間強あれば終えることも可能です。
ポイント1:事前検討事項
監査等委員会設置会社への移行が決定したら、次の事項を検討する必要があります。
取締役の人選
取締役の構成は従来のガバナンス体制とは大きく変更されますので、ゼロベースで取締役の構成を考え直さねばなりません。また、同時に代表取締役候補、業務執行取締役候補、監査委員候補を事前に決めておく必要があります。
規程案の作成
ガバナンス体制の変更に伴い、通常は取締役会規程、組織規程、決裁権限規程、監査規程、監査委員会運営規程などの変更・新設が必要になります。専門書籍や他社事例(必要あれば、専門コンサルタントの意見)を参考に事前に作成しておきましょう。
開示資料の作成
監査等委員会設置会社への移行に際しては、その目的やスケジュールを株主その他一般投資家へプレスリリース等により説明する必要があります。また、毎期提出している有価証券報告書、内部統制報告書及び確認書、コーポレートガバナンス報告書の内容にも変更が生じます。
ポイント2:株主総会決議事項
株主総会においては、「定款変更」「取締役の選任」「取締役の報酬」等を決議する必要があります。
- 設置機関
- 取締役の員数
- 取締役の選定方法
- 取締役の任期
- 監査等委員会に関する事項
- 重要な業務執行についての業務執行取締役への委任
「取締役の選任」について、上記定款変更に伴い現任の取締役はいったん任期満了による退任という扱いになるため、移行後に取締役になる者全員の選任を決議する必要があります。なお、監査委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して選任しなければならない点も注意です(会社法329条2項)。
「取締役の報酬」について、取締役の構成が大幅に変更になるだけではなく、新会社法によると監査委員である取締役とそれ以外の取締役の報酬を区別して決議しなければならない(会社法361条2項)ため、取締役の報酬額を改めて決議する必要があります。
ポイント3:総会直後の取締役会決議事項
総会直後の取締役会においては、「代表取締役の選任」「役付取締役の選任」「社長不在時の議長順列」「各取締役の報酬(監査等委員以外)」「内部統制システムの基本方針」「重要な業務執行の決定の委任事項の決定」「諸規程の改定」等を決議する必要があります。
なお、取締役の報酬は、監査等委員以外の取締役は取締役会にて決定されますが、監査等委員たる取締役は監査等委員の協議により決定されます(会社法361条3項)。
ポイント4:商業登記
移行にあたり登記すべき主な事項は次のとおりです。
- 監査等委員会設置会社である旨
- 監査等委員である取締役とそれ以外の取締役の氏名
- 代表取締役である旨
- 社外取締役である旨
- 重要な業務執行の決定の全部または一部を業務執行取締役へ委任することができる旨の定款の定めがある旨
監査役設置会社から移行する場合は、監査役会の廃止と監査役の退任を登記する必要があります。
なお、監査等委員会設置会社への移行に伴い現任の取締役はいったん任期満了による退任という扱いになるため、取締役の退任・就任(重任)の登記もする必要があります。
最後に
監査等委員会設置会社への移行手続きはいったん全体像を理解してしまえばさほど複雑なものではありませんが、業務経験者が極めて少ないこと、他社事例が少ないこと、専門書籍や書類フォーマットが少ないこと等から、手続きを進めることが難しい可能性があります。
手続きに抜け漏れや誤りがあると法律上の瑕疵が生じてしまう可能性があるため、各実行フェーズにおいては必ず顧問弁護士や専門コンサルタントの確認をとりながら進めましょう。
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