監査等委員会設置会社へ移行すべき? メリット・デメリット・対象企業を徹底解説
前回「多くの企業が移行を検討する『監査等委員会設置会社制度』とは?」という記事にて監査等委員会設置会社制度の概要をご紹介いたしました。今回は、監査等委員会設置会社への移行を検討している方向けにメリットとデメリットをご紹介いたします。
監査等委員会設置会社のメリット
「従来のコーポレート・ガバナンス体制から監査等委員会設置会社へ移行する主なメリットは次のとおりです。
役員の数を減らすことができる
監査役会設置会社においては、取締役3名以上、かつ、監査役3名以上、計6名以上の役員により取締役会を構成することが求められていました。さらに、2015年6月1日から運用開始されたコーポレートガバナンス・コードでは「独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべき」という努力義務が規定されています。そのため、たとえば業務執行取締役を複数名置きたい会社は最低でも役員は7名以上必要になり、取締役会の構成人数は増えていきます。
一方で、監査等委員会設置会社では業務執行取締役1名+監査等委員たる取締役3名以上と最低4名の取締役のみ(監査役は不要)で足りるというメリットがあります。
常勤監査役の設置義務がない
監査役会設置会社においては、企業規模に関わらず常勤監査役の設置義務がありました。一方で、監査等委員会設置会社では監査等委員として常勤の者を置く義務はなく、また従来の常勤監査役に該当する者の設置義務はありません。
機動的な意思決定が可能になる
取締役の過半数が社外取締役である場合に限られますが、監査等委員会設置会社では会社法第399条の13第5項に定める「重要な業務執行の決定」を特定の業務執行取締役に大幅に委任することができます。そのため、業務執行取締役主導での機動的な意思決定が可能になります。
主に海外投資家からの評価が高い
監査を担当する監査等委員(3名以上)全員が取締役であり、取締役会において代表取締役の選解任する権限を有していることから、主に海外投資家からの評価が高いといわれています。
監査等委員会設置会社のデメリット
従来のコーポレート・ガバナンス体制から監査等委員会設置会社へ移行する主なデメリットは次のとおりです。
他社事例やテンプレートが少ない
従来から多くの企業が導入している監査役会設置会社においては、他社事例が多く、また証券印刷会社2社が多くのテンプレートを用意してくれています。
一方で、監査等委員会設置会社は他社事例やテンプレートが未成熟であり、株主総会議事録、招集通知、取締役会議事録、有価証券報告書などの社内書類、開示書類を作成するに当たり、従来以上の事務負担が強いられる可能性があります。
組織体制等の変更コストの発生
監査手法や意思決定について変更される部分が多く、これに伴い社内規程等のルールや書類テンプレートを変更する手間が発生します。
ガバナンス機能低下の恐れ
監査等委員会設置会社においては、取締役会から業務執行取締役に対して、重要な業務執行の決定権限を大幅に委任することができることから、意思決定段階での監査ができません。そのため、業務執行取締役への監査のタイミングが事後の報告やモニタリングの段階となってしまう点において、ガバナンス機能低下すると考える専門家も存在します。
どんな会社が移行に向いているか?
監査等委員会設置会社への移行に向いている、つまり、より多くのメリットを享受する可能性の高い会社にはどのような傾向があるのでしょうか。
規模の小さい企業
規模の小さい企業では、常勤監査役や独立社外取締役を設置するためのコストにより利益が大きく圧迫されることがあります。また、事業規模が小さいため、常勤者による監査を行うメリットは比較的小さいといえます。
外国人投資家比率の高い会社
従来の監査役会設置会社というガバナンス体制は日本独自の制度であるため、必ずしも外国人投資家からの理解が得られていません。そのため、外国人投資家にとっての馴染みのある監査等委員会設置会社へ移行することにより、株主からの評価が高まる可能性があります。
最後に
監査等委員会設置会社制度はメリットが大きく移行を公表する企業が増えている一方で、移行によるデメリットがあることも事実です。移行を検討している企業の方は、自社におけるメリットとデメリットを具体的に洗い出した上で、慎重に検討されることをおすすめいたします。
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