法人税が免除されるケース|法人が赤字の場合に免除される税金は?

法人税が免除されるケース|法人が赤字の場合に免除される税金は?

2023年に国税庁が発表した「国税庁統計法人税表」によると、2021年の普通法人の赤字率は64.7%に上ります。半数以上の法人が赤字経営を行っている現代において、赤字は一般的な状況であり、節税対策はますます重要性を増しています。

この記事では、法人税が免除される具体的なケースや、赤字の場合に免除される税金について解説します。法人税の免除条件や適用範囲を理解し、会社にとって最適な納税を実行しましょう。
より詳細に法人税を知りたい方は、以下の記事もご参照ください。

経理プラス:法人税の計算方法とは?計算から申告までの流れを分かりやすく解説
経理プラス:法人税の計算はどう行う?算出する流れと計算式、納税の注意点

法人税とは?

法人税とは、法人が事業を行って得た「所得」に応じて支払う税金のことです。

「所得」とは、損益計算書に記載されている税引き前当期純利益ではありません。会社の利益は「収益」から「費用」を引いて計算されますが、税法上では「益金」から「損金」を差し引いて「課税所得」が計算されます。法人税は、この課税所得に対して一定の税率をかけて計算されます。

法人税の免除とは?

法人税の税制上の措置には、猶予や優遇、減免があります。その中でも、免除は会社にとってインパクトの大きな税制措置といえます。ここでは、法人税とはどのような税か、免除と他の用語との違いを解説します。

法人税の免除と他の用語との違い

「法人税の免除」は、法人が法人税の納税義務を免除されることを指します。法人税には「免除」の他にも、「猶予」や「優遇」「減免」といった税制上の措置を表す用語が存在します。

「法人税の猶予」との違い

法人税の猶予は、納税期限内に税金の納付が難しい場合に納税期限を延長できる制度です。猶予は期限の延長であり、納税義務そのものが免除されるわけではありません。

「法人税の優遇」との違い

法人税の優遇は、特定の条件を満たす法人に対して税率の引き下げや税制上の特典を受けられる制度です。これは特定の産業や活動を支援するために行われることがあります。

「法人税の減免」との違い

法人税の減免は、法人に課税義務が発生して法人税を支払う際に一定の条件を満たせば、税金の全部または一部を免除できる制度です。この減免制度は、新興企業や中小企業への支援、地域振興、環境保護などを目的として行われることがあります。

法人税には複数の税制措置がありますが、納税義務の免除は、組織体にとって最も影響の大きな措置といえるでしょう。

法人税が免除されるケース

ここでは、法人税が免除されるケースを3つ紹介します。

所得が赤字の場合が赤字の場合

所得が赤字の時は法人税が全額免除されます。法人税は課税対象となる所得に対して法人税率をかけて計算します。したがって、赤字の場合は課税所得が0とみなされるため法人税はかからないことになります。

繰越欠損金が当期の所得を上回る場合

欠損金とは、マイナスの所得のことをいいます。欠損金が生じると、翌年以降の10年間に生じる黒字の所得金額と相殺することが可能です。
たとえば、前期に100の欠損金があり、当期の所得金額が50の場合、欠損金を当期所得金額の50と通算すると課税所得が0となり、当期は法人税がかかりません。なお、欠損金の残り50は繰越欠損金として翌期に持ち越されます。

課税対象にならない法人の場合

企業や団体など社会的な「人格」を持つ組織である法人には、人と同じ権利や義務が生じます。そして義務には納税も含まれます。しかし、すべての法人に法人税が課せられるわけではありません。
たとえば公共法人は、法人税法の規定により法人税の納税義務が免除されます。

公共法人の例:地方公共団体、金融公庫、国立大学法人、地方独立行政法人、日本年金機構、日本中央競馬会、日本放送協会

また、公益法人等の非営利事業を営む法人は、営利を目的としていないことから課税対象ではなりません。ただし、不動産や物品の販売など、ある特定の収益事業から生じる所得に対しては課税されます。

公益法人等の例:公益社団法人、公益財団法人、非営利型法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人

法人ではありませんが、マンション管理組合、PTA、同窓会など、一定の組織活動を行っている団体は「人格のない社団等」と呼ばれ、公益法人等と同じく特定の収益事業から生じる所得は課税対象となります。

法人が赤字の場合に免除される税金・免除されない税金一覧

法人が赤字を出した場合、法人税以外にも、全額または一部免除される税金があります。

法人が赤字になったときの税金

全額免除一部免除赤字でも絶対発生
・法人税
・地方法人税
・法人事業税
・特別法人事業税
・法人住民税・消費税
・源泉所得税
・住民税(特別徴収)
・印紙税
・登録免許税
・固定資産税
・自動車税

全額免除となる税金

法人税と法人事業税は所得に対して課税されるため、所得が0であれば税金は発生しません。また、地方法人税は法人税額に税率をかけ、特別法人事業税は法人事業税額に税率をかけて計算されます。計算の基となる税額が0であれば、連動して全額免除となります。

一部免除となる税金

法人住民税は「法人税割」と「均等割」で構成されています。「法人税割」は、法人税額が計算の基となるため法人税額が0であれば発生しません。これに対し、「均等割」は所得の有無にかかわらず、最低でも7万円の納税義務があります。税額は資本金額と期末の従業員数により決められています。

赤字でも発生する税金

消費税や源泉所得税など、所得金額が税金の計算に影響しない場合は、赤字に限らず発生します。
また、資本金が1億円を超える会社の法人事業税は、別途、外形標準課税制度が適用され、所得に対する計算方法(所得割)とは別に「資本割」と「付加価値割」により税金の計算がなされます。 そのため、赤字の場合でも全額免除にはなりません。

経理プラス:法人で赤字がでたときの法人税などはどうなる?

まとめ

法人税の免除は、法人が特定の条件を満たす場合に適用される税制措置です。
本記事では、免除される主な3つのケースとして、以下3つを紹介しました。

  • 課税所得が赤字の場合
  • 課税所得を上回る繰越欠損金がある場合
  • 課税対象にならない法人の場合

法人が赤字の場合には、全額免除、一部免除となる税金があります。一方で赤字でも発生する税金が存在します。どのような税金が免除されるのか、どの税金が免除されないのかを明確に理解しましょう。

法人税の免除は、法人の経営支援策の一環として、法人が赤字の場合にも一定の負担を軽減する助けとなります。法人税の免除についての知識をしっかり身につけることは、経営において重要な役割を果たします。
法人が赤字の場合に免除される税金・免除されない税金についての理解を深めることで、会社の財務戦略や資金計画をより効果的に立案し、経営の継続性に貢献していきましょう。

法人税の免除についてのQ&A

法人税の免除について、よくある疑問にお答えします。

Q1. 非営利団体はどのようにして法人税を免除してもらえば良い?

公益法人等の非営利団体は、特定の収益事業を行い、そこから生じる所得のみが法人税の対象となります。つまり特定の収益事業を行っていなければ、法人税は免除されます。免除のための届出等は不要ですが、不安な場合は税務署に申告義務がないことを確認するとよいでしょう。
収益事業を開始した際には、所在地の税務署に「収益事業開始届出書」を提出する必要があります。

Q2. 欠損金の繰越控除制度とは?

所得金額がマイナスとなった場合、マイナスの赤字部分を欠損金といい、翌期以降最長10年間にわたって繰越控除することができる制度です。翌期以降に発生した所得と相殺することができます。

Q3 新設法人は消費税が免除になる?

新設法人は設立1期目及び2期目において、原則として消費税の納税義務が免除されます。ただし新設法人であっても例外はあり、資本金が1,000万円以上の法人は税金の免除はありません。
消費税の免除と法人税の免除を混同しないよう注意しましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 公認会計士 梶本 卓哉

Kajimototakuya

税務署法人課税部門(税務大学校首席卒業)、大手監査法人や大手投資銀行勤務等を経て公認会計士・税理士事務所開設。税務のみならず会計監査やIPO(新規株式公開)実務に強みを有する。