有償減資のみなし配当 計算方法とその手続きまとめ

有償減資のみなし配当 計算方法とその手続きまとめ

減資は有償であれ無償であれ会社法上の手続きです。企業会計も会社法も元手とその成果を明確に区分するという立場を取り、法人税法も基本的に同じ立場です。しかし、企業会計や会社法にない「みなし配当」という概念が法人税法にはあります。この「みなし配当」は、有償減資で金銭などを受け取る側である株主が納めるべき税金に係るものです。他方で、有償減資を行う会社は株主が納める税金を源泉徴収する義務があります。これが有償減資を行う場合、会社法にない計算やいくつかの手続きを求めることになり、きちんと理解しておく必要があります。

極めて簡単な「みなし配当」の金額計算例

簿価純資産金額250,000千円、資本金(資本金等の額)100,000千円の株式会社が、資本金の額の減少と剰余金の配当を株主総会の特別決議で決した後債権者保護手続きの完了を経て、株主に90,000千円の金銭払戻しを行う、という例で「みなし配当」金額がいくらになるか計算してみましょう。

「みなし配当」金額は、

   90,000千円―100,000千円×(90,000千円/250,000千円)

という計算で、54,000千円とされます。

この計算式は、法人税法24条1項により政令で定められています。この54,000千円に源泉所得税率を乗じた金額を、この減資を行う会社は源泉徴収する必要があります。

この計算式の右側をよく見ると、簿価純資産金額に占める減資前の資本金の額の割合を減資払戻金額に掛けるとも読めます。この会社の資本金100,000千円は純資産250,000千円の40%になります。払戻金額90,000千円にこの40%を掛けると36,000千円となり、これは払戻金額のうち資本金(資本金等の額)からなる金額ということになります。払戻金額90,000千円から36,000千円を差引いた金額は、その源泉が資本金以外、いわば利益留保累積金額ということになり、これを受け取る株主に納税義務が生じるということになります。

「みなし配当」に係る手続き

みなし配当金額に相当する法人税上の利益積立金が減少するという処理を、法人税申告書で行うことになります。
他方、支払調書と支払調書合計表を所轄税務署に提出し、払戻しを受ける株主には、支払調書と共に、法人税法第24条第1項第3号の資本の払戻しである旨、配当効力発生日及び1株当たりのみなし配当金額並びに法人税法施行令第23条第1項第3号に規定する割合を通知することとされています。

なぜ「みなし配当」

法人税法上「資本金等の額」は法人が株主等から出資を受けた金額とされ、法人税法上の利益積立金額については、法人の所得の金額で留保している金額と規定されています。更に法人税法上、資本等取引に係る収益及び損失が益金及び損金の範囲から除外されています。ここでいう資本等取引は、①法人の資本金等の額の増減を生ずる取引と、②法人が行う利益又は剰余金の分配の2つからなるものと言われています。減資により配当を行う行為は、この②にあたるものとなります。

ではなぜ「みなし配当」という取扱いが必要になるのでしょうか。法人税法第24条1項では、資本剰余金の額の減少を伴う剰余金の配当のうち分割型分割によらない資本の払戻しによって、内国法人が金銭等の交付を受けた場合、その金銭等の合計額(先の例で90,000千円)が、その出資先法人の資本金等の額のうちその交付の対象となった株式または出資に対応する部分の金額(36,000千円)を超えるとき、その超える部分の金額(54,000千円)を「みなし配当」としています。これは、実質的に利益剰余金の配当と変わらないので、法人税法上配当に準ずるものとして、配当受取側にて受取配当等の益金不算入の規定を適用するものです。

無償減資では

ここまでは、会社法の有償減資に関連する法人税法の取扱いを見てきました。会社法の資本金の額を減じて株主に配当する際、税法上の簿価純資産が税法上の資本金等の額を上回っている、換言すれば税法上の利益剰余金がある場合、「みなし配当」の処理が必要になります。
では、無償減資、すなわち繰越欠損金を資本金の額を取り崩して補填する場合、法人税ではどのような取り扱いが行われるのでしょうか。会社法上や会計上は欠損金は減少しますが、法税法上は欠損金の減少がないものとされています。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 富永 和也

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センチュリー監査法人(現、新日本監査法人)に勤務し、一般事業会社(電気関係・投資関係)・地方銀行・学校法人・労働組合(百貨店・商業関係)等の監査業務を担当。その後、個人事務所を開業。 一般事業会社・学校法人・公益財団法人等の監査業務、会社財産評価業務、内部統制の構築・点検、 記帳指導・税務代理申告等の税務業務、経営コンサルティング業務等を行い、現在に至る。