原価低減とは?原価を落とす方法と低減できない理由、実施時の注意点

原価低減とは?原価を落とす方法と低減できない理由、実施時の注意点

原価低減とは、売上高に占める原価(コスト・費用)を下げる活動のことをいいます。原価低減における主な要素は、材料費・製造費・労務費・経費などです。これらの要素を効果的に管理し、不必要なコストを削減することで、企業はより多くの利益を生み出すことが可能です。

たとえば、材料費の削減には、部品などの仕入先の再検討、材料の効率的利用、発注プロセスや発注量の最適化などが含まれます。労務費では、業務の効率化や自動化を通じて必要な人員を最適化し、間接費では、運用コストの見直しやエネルギー効率の改善などが挙げられます。

本記事では、原価を低減するための方法やコツ、原価低減が難しい背景や原価低減における注意点について解説していきます。また、原価低減のための効率的な方法として、原価管理システムの導入をご提案します。

なお、原価低減をするためには、あらかじめ原価がどれくらいかかっているのかを正確に把握することが必要です。まずは以下の記事を参考に、売上原価の計算方法についても理解しておきましょう。    

経理プラス     : 売上原価と製造原価の違いとは?計算方法や分析方法を解説!

原価低減とは? 

原価低減とは、売上に対する原価を減らすことを指し、より多くの利益を確保するために行います。このアプローチにより、同じ販売価格であっても、原価削減を通じて利益率を向上させることができます。この過程で、材料費・製造費・労務・経費などのさまざまな費用項目が削減の対象になります。

原価低減の主な方法

原価低減を行うための主な方法を費目別に見ていきましょう。

材料費・製造費を抑える

材料費や製造費の削減は、原価低減の主要な方法の一つです。これには、材料の仕入価格を削減するために仕入先を変更する、定期購入や大量購入を通じて減価や割引を受けるといった外部を交えた調整のほか、材料ロスを削減するための在庫管理の徹底や、効率的な材料管理など、社内でできる方法もあります。社内でできる材料ロスの削減は、比較的実行しやすく成功事例が多い方法です。

労務費を抑える

労務費の削減も原価低減の方法の一つです。労務費とは、製品製造やサービス制作に関わる人件費(給与)のことを指します。労務費の削減は、業務プロセスの見直しと効率化によって行われます。作業工程を細分化し、無駄のない効率的な業務フローを構築することで、不必要な労務費を削減できます。業務のムダを洗い出し、社員の適正な人員配置を行うための人事制度の強化も労務費の削減につながります。

経費を抑える

原価のうち、材料費や労務費以外の費用のことを経費と言います。経費の削減も原価低減の一つの方法です。原価に含まれる経費とは、事務所の賃料や電気代などのエネルギーコストのほか、商品販売にかかわる運送料や広告宣伝費といった販売費と呼ばれる費用のことを指します。たとえば、電力会社や契約プランを見直したり、事務所の古い設備を消費効率の良いLED照明やエアコンに切り替えたりすることにより、水道光熱費の削減が見込まれます。他にも広告媒体や販売手法の見直し、効率的な運送業者の選定なども効果的でしょう。このように全社的に経費のムダを見つけて見直すことで経費削減が期待できます。

原価低減ができない主な理由 

原価低減ができない理由は企業によってさまざまですが、主な3つの理由を解説します。

原価管理を適切に行えていないから

原価低減ができない主な理由の一つに、原価管理を適切に行えていないことが挙げられます。原価管理とは、製品製造やサービスにかかるコストを管理するために行います。原価管理は原価計算によって算出した数値を基に行うため、誤った金額で原価計算を行ってしまうと低減対象や施策を誤って設定するなど、適切な原価管理が行えません。このように、そもそも誤った金額を基に原価計算を行っているために、原価低減ができていない可能性があるということです。原価を正しく把握することで初めて、原価低減の余地がある項目を可視化することができ、低減策の立案を効果的に行うことができます。

価格交渉に関して特定の担当者に依存しているから

価格交渉に関して特定の担当者に依存していることが、原価低減ができない要因になっていることもあります。原料・資材の仕入値の交渉や購買といった業務は、社内外とのやり取りが多く、担当者が多忙な傾向にあります。主要な業務担当者が多忙なため、新たな人員を補充しても引き継ぎや教育に充てる時間を確保できず、価格交渉のノウハウがきちんと引き継ぎされていないことが多いのです。価格交渉の業務が属人化している場合、担当変更時に価格交渉がスムーズに進まず、原価低減どころか仕入コストの増加につながってしまう場合もあります。

仕入先をしっかり選定できていないから

原価低減ができない理由の一つに、仕入先をしっかり選定できていないことが挙げられます。仕入先を適切に選定できていないと、相場よりも高い仕入値で取引を行うリスクがあります。購買業務の担当者が経験や勘に頼って仕入先を選定している場合、相見積もりを取っていないなど、適切な比較検討を行っていない事例もあります。複数社を比較検討できない状況では原価の改善の余地がありません。担当者の経験に頼らず、必ず複数の仕入先を比較検討できるような仕組み作りと調達部門の統制が必要です。

原価低減を行う際のコツ

原価低減は企業の経営にとって重要な要素ですが、その取り組み方にはいくつかのコツがあります。効果的な原価低減の実現に向けて、以下のポイントを押さえましょう。

重要なコストはカットしない

原価低減を行う際、最も考慮すべきは利害関係者に過度な負担を掛けないことです。たとえば、労務費の削減を目指す際にリストラをすぐに実施するのは避けるべきです。その理由は、従業員の士気が下がり、生産性が低下する可能性があるからです。さらに、従業員の反発を招いて離職が続くと、新たな採用コストが発生するリスクもあります。したがって、重要なコスト削減は慎重に検討し、バランスを取ることが肝要です。まずは無駄な経費や固定費の見直しなど、労務費以外のコストカットを検討しましょう。

従業員の意見に耳を傾ける

原価低減の施策を独断で進めると、生産計画に無理が生じやすく、従業員のモチベーション低下を招くおそれがあります。従業員のモチベーションが低下すると、離職者が増加し、結果として高い採用コストを要することになりかねません。また、現場で働く従業員の生の声を聞くことは、より現実的で効果的な原価低減策を講じる上でも重要です。したがって、全従業員が健やかに勤務できる環境を維持しながら原価低減に取り組むのが良いでしょう。

システム導入による業務効率化を図る

システム導入による業務効率化は、原価低減の重要な手段の一つです。原価管理に必要な情報を一元管理できるシステムを取り入れると、蓄積された過去の購入情報や見積もり情報を活用し、誰でも必要な情報を入手することができます。過去の発注量や発注頻度を参考にして適正な発注ができるため、過剰在庫を抱えるといったリスクも排除できるうえ、属人化しやすい価格交渉業務の標準化につながります。

購買管理システムの他にも、バックオフィス業務の効率化や自動化に寄与するシステムの利用は、幅広い業務の負担軽減や工数削減につながるといったメリットもあります。適切にシステムを運用することで、従業員の残業時間の削減など、間接的なコスト削減にも効果を発揮します。

全従業員に周知して継続的に取り組む

原価低減活動は、一部の限られた従業員だけでなく、全従業員が少しずつでも意識を向けることでより効果を発揮します。この取り組みは、一時的なものではなく、継続的な取り組みとして定着させることが理想的です。従業員数が増えれば増えるほど、コストダウンに対する一人ひとりの意識が低下しやすい傾向にあります。中小企業だけでなく大規模企業においても、従業員の意識の統一化がコストダウンの鍵を握っています。

原価管理システムを取り入れる

原価低減を実施するにあたっては、現状の原価を把握・分析するためのツールとして、原価管理システムの導入が有効です。原価管理システムでは製品やサービスごとの原価を自動集計してくれるため、複雑な原価計算のヒューマンエラーを軽減できるとともに、正確な原価をタイムリーに把握できるといったメリットがあります。正確な数値を元に材料費の把握やその他の費用の分析を行うことで、より効果的な原価低減策を策定できます。

原価管理システムでは、工場で投入した原材料に対する完成品の割合(歩留まり率)を指標として、生産効率や不良品の割合を知ることが可能です。生産工程における無駄や不良品の発生理由が明らかになり、原価低減策の検討材料として非常に有効です。しかし、原価管理システムの種類によって性能が異なるため、自社に必要な機能が備わっているかどうか、導入前の確認が不可欠です。

仕入先の見直しを定期的に実施する

仕入先の定期的な見直しも原価低減につながる一つの方法です。材料費の価格は日々変動しているため、気付かないうちに仕入れの適正価格が変動している可能性があります。仕入先を定期的に見直し、仕入額を再評価することで原価低減につながる場合があります。また、複数のサプライヤーから相見積もりをとることも非常に重要です。複数社の見積もりを比較検討することで、妥当な見積価格か否かを判断しやすくなり、特定の仕入先への依存や癒着を防ぐことにもつながります。

原価低減実施時の注意点

原価低減は企業経営の効率化において重要な手段ですが、すべての場合で容易に実施できるわけではありません。特に、原価の性質上、低減自体が難しいケースや、商品・サービスの品質低下、従業員のモチベーション低下に直接つながるような状況では注意が必要です。

違法な行為にならないようにする

原価低減を行う上では、大前提として、違法な行為にならないようにすることが重要です。原価の種類によっては低減が困難な場合があるでしょう。たとえば、材料費の場合、原材料の市場価格が為替レートの変動などによって高騰している状況では、原価の削減は非常に難しいです。さらに、労務費の低減も、法律によって一定の水準が保たれているため、容易ではありません。法律や規制によって保護されている労働コストを下げることは、単に難しいだけでなく、場合によっては違法な行為にもなり得ます。企業活動を行う上での法令遵守の重要性を認識し、コストダウンなど重要な決定事項は有識者を交えて行うことが違法行為の防止につながります。

品質が低下しないようにする

原価低減が商品やサービスの品質低下に直結する場合は特に注意が必要です。品質の低下は、顧客満足度の減少や購入率の低下につながり、最終的には企業の損失につながる可能性があります。このような場合、原価低減によって得られる短期的な利益よりも、長期的な損失の方が大きくなることがあります。目先の利益だけでなく、長期的な利益拡大を見据えて、品質とコストのバランスを慎重に考慮することが重要です。

従業員のモチベーションが下がらないようにする

原価低減における長期的な損失の一つが、従業員のモチベーション低下です。安易なリストラや無理のある減給、現場にミスマッチなコスト削減などを押し付けると従業員の意欲低下につながり、生産性の低下や離職率の上昇を招く恐れがあります。原価低減のために優秀な人物が流出してしまっては、元も子もありません。現場にミスマッチなコスト削減の例として、現場でのエアコンの使用禁止などが挙げられます。このような過度なコスト削減施策による労働環境の悪化は、従業員の反発を招き、モチベーションの低下につながります。従業員の満足度向上は、モチベーションの向上や定着率にもつながり、結果として業務効率化や生産性の向上にも影響します。従業員が働きやすい環境を維持しながらコストカットや原価低減の方法を模索していく必要があるでしょう。

効果的な原価低減には原価管理システムの導入がおすすめ

原価低減のコツや注意点を押さえて効果的な原価低減を行うためには、原価管理システムの導入がおすすめです。原価管理システムは、正確な原価をリアルタイムで把握し、原価率の悪化といったリスクもいち早く察知することができます。また標準原価と実際原価の差異分析など、正確性が求められる難しい作業も自動で行われるため、生産上の課題を見直したり商品単価を見直したりするなど、原価低減策をスピーディーかつ的確な方法で講じることが可能になります。

原価管理における課題の多くは、受注と発注のデータが紐づいておらず収支予測が立てづらい、案件ごとに複数の原価を紐づけるのに手間がかかる、会計システムとの連携ができていない、といったことが挙げられます。「楽楽販売」では、受注・発注データの紐づけはもちろん、企業のルールや収益認識基準に合わせた計上処理が可能で、収支や売上予測がリアルタイムで把握できます。同社の「楽楽明細」との紐づけにより、帳票データとの紐づけもできるため、経理業務の負担軽減や決算作業の効率化にもつながります。

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まとめ

原価低減は、企業の収益性を高めるために重要な役割を果たします。事業を展開する上で、売上の増加だけでなく、コスト管理も同様に重要です。原価低減は、製造業における製品製造や、サービス業におけるサービス提供コストなどを効果的に削減し、企業利益を最大化する手法です。原価を低減するには、前述の通りさまざまな方法とポイントがありますが、それぞれが企業の財務健全性と市場での競争力を高めるのに役立ちます。

原価低減が単にコストを減らすことだけを意味するのではなく、価値の維持または向上を図りながらコスト効率を改善すべきということが最も重要です。過度なコスト削減は製品やサービスの品質低下につながり、結果として顧客離れや離職率の悪化の要因にもなり得るため、長期的には企業の市場競争力を損なう可能性があります。したがって、原価低減は戦略的に、かつ総合的な視点からアプローチする必要があります。

原価低減を適切に行うためには、正確な原価計算及び原価管理が不可欠です。複雑で属人化しやすい原価管理業務をシステムで一元管理することにより、経営陣や現場責任者への情報共有をリアルタイムで行うことができます。市況の変化に応じたスピーディーな経営判断は市場での競争力を高め、企業活動の循環につながります。このように、企業が戦略的で効果的な原価低減策を講じて利益を最大化するためには、原価管理システムの導入は非常に有効な方法です。

原価低減についてのQ&A

Q1. 原価低減におけるVAとVEの違いは?

原価低減における「VA(バリューアナリシス)」と「VE(バリューエンジニアリング)」は、似ているようで異なる重要な概念です。

VA(バリューアナリシス)は、価値分析とも呼ばれ、既存の製品やサービスの価値とコストを分析し、価値を維持または向上させながらコストを低減する手法です。既に市場に出ている製品やサービスの原価低減に重点が置かれていることがポイントです。    

一方、VE(バリューエンジニアリング)は、価値工学として知られ、市場に出る前の段階である開発段階で製品やサービスの価値とコストを分析し、価値を最大化しながらコストを最小化する手法です。VEは新しく開発する製品やサービスに焦点を当てていることがポイントです。原価企画においてはVEによって品質の維持とコスト面のバランスを模索し、最適な手法を導き出します。

Q2. 原価低減とコスト削減の違いは?

原価低減とコスト削減はよく似た概念ですが、その焦点には微妙な違いがあります。原価低減は、製品やサービスの製造過程におけるコスト、つまり材料費、製造費、労務費、間接費などの削減に重点を置いています。一方で、コスト削減はより広範な視点から、企業全体の運営コストを削減することを目的としています。これには販売費や一般管理費、研究開発費なども含まれます。つまり、原価低減は製品製造に直接関連するコストの削減に焦点を当てていますが、コスト削減は企業運営全体のコストに焦点を当てて取り組むという点が異なります。

Q3. 原価低減はどのようなステップを踏んで実施したら良い?

原価低減を効果的に行うためには、一連のステップを踏むことが重要です。まず、現在の原価構造を詳細に分析し、どの部分にコスト削減の可能性があるかを特定することから始めます。次に、具体的な原価低減の目標を設定し、それを達成するための戦略を策定します。これには、原材料の選定の見直し、製造プロセスの効率化、バリューエンジニアリングの実施などが含まれる場合があります。重要なのは、原価低減が品質やサービスレベルに悪影響を与えないようにすることです。最後に、実施した施策の効果を定期的に評価し、必要に応じて調整を行うことで、持続可能な原価低減を目指します。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 税理士 宮川 真一

税理士 宮川 真一さま

税理士法人みらいサクセスパートナーズ 代表 岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上。 現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティング、税務対応を行っている。 また、事業会社の財務経理を担当し、会計・税務を軸にいくつかの会社の取締役・監査役にも従事。 【保有資格】 税理士、CFP®

税理士法人みらいサクセスパートナーズ