電子帳簿保存法でクレジットカードの利用明細・領収書はどう扱う?

電子帳簿保存法でクレジットカードの利用明細・領収書はどう扱う?

領収書や請求書などをデータで受け取った(電子取引データ)場合は紙ではなく、データ自体を保存する必要があるなど、電子帳簿保存法の改正は個人・法人を問わず、事業者に大きな影響を与えます。

実は、電子帳簿保存法の改正は、法人クレジットカードやビジネスカードなど、クレジットカードを利用している場合にも影響があり、経営者や経理担当者は、その影響について、しっかりと理解しておく必要があります。

ここでは、電子帳簿保存法の改正でクレジットカードの利用にどのような影響があるのか、詳しく解説します。

また、電子帳簿保存法の詳細については以下の記事をご参照ください。

経理プラス:電子帳簿保存法とは?これを読めば電帳法の基本的な内容が分かります

目次

電子帳簿保存法改正によるクレジットカードの利用明細・領収書への影響

電子帳簿保存法とは、これまで紙での保存が義務づけられていた帳簿書類を、紙ではなく一定の要件を満たした電磁的記録(データ)で保存ができることを定めた法律です。

電子帳簿保存法は、より電子帳簿保存がしやすくなるように改正が繰り返されており、クレジットカードの利用明細や領収書にも影響を与えています。ここでは、電子帳簿保存法の改正が、クレジットカードの利用明細や領収書に与える影響について解説します。

クレジットカードの利用明細への影響

クレジットカードの利用明細とはクレジットカード会社が発行する書類で、その名の通り、クレジットカード利用について明細が記載されている書類です。

電子帳簿保存法は、クレジットカードの利用明細の保存方法に影響を及ぼします。2022年1月に施行された電子帳簿保存法の改正により、電子データで受け取ったクレジットカードの利用明細は、電子データのまま保存しなければならなくなりました。電子データで受け取った領収書や請求書などを、紙に印刷して保存しても、税務上は証憑書類として認められません。電子データで受け取ったクレジットカードの利用明細も同様です。ただし、2023年末までは電子取引のデータ保存義務化についての猶予期間が設けられています。

一方、紙で発行された利用明細は紙のまま保存しても、スキャナ保存による電子データ保存でもかまいません。スキャナ保存とは、紙で受け取った書類をスキャナなどで読み取り、電子データとして保存することです。

電子帳簿保存法に則った方法でスキャナ保存すれば、原則的に紙の原本は破棄してもよいこととなっているため、ペーパーレス化につながります。ただし、電子帳簿保存法に定められた電子保存の要件を満たしていない場合は、紙のまま保管しなければいけないため、注意が必要です。

参考:国税庁 はじめませんか、書類のスキャナ保存!

クレジットカードの領収書への影響

次に、クレジットカードを利用した場合に、利用した店舗などから受け取る領収書への影響を見ていきましょう。

電子帳簿保存法の改正では、クレジットカードの領収書も、利用明細同様に保存方法に影響があります。特に、インターネット通販などでクレジットカード決済をした場合は通常、領収書を書面で受け取ることはなく、領収書をWEBサイトから紙で出力するか、ダウンロードして保存します。

電子帳簿保存法では、電子データは電子データのまま保存する義務があるため、ダウンロードしてデータとして保存する必要があります。

一方、店舗で決済をして領収書を紙で受領した場合は紙のまま保存か、スキャナでスキャンして保存かを選べます。これは、クレジットカードの支払いでも現金での支払いでも同じです。また、スキャナ保存の要件を満たせば、利用明細と同様に、原則的に紙の原本は破棄してもよいです。

電子帳簿保存法改正でクレジットカードの利用が便利になる理由

実は、電子帳簿保存法の改正でクレジットカードの利用が便利になります。その理由を見てみましょう。

利用明細が領収書の代用になることがある

クレジットカードの利用明細が一定の要件を満たしている場合は、領収書の代わりになります。「一定の要件」とは、クレジットカードの利用明細に、領収書に通常記載される一定事項の情報(発行者、日付、金額、宛名、取引の内容など)が記載されていることです。

領収書をもらい忘れた、領収書を紛失した、領収書を発行してもらえなかったなどの事情がある場合には、一定の要件を満たしたクレジットカードの利用明細が、領収書の代わりとして利用できるので便利です。

参考:国税庁 クレジットカード会社からの請求明細書

利用明細をそのまま電子データ保存できるので、電子化のメリットを享受できる

クレジットカードの利用明細は電子データ保存が可能です。そのため、印刷して保管する手間が省けます。電子データとして保存することで検索や管理がしやすくなり、業務効率化を図ることができます。

また、電子帳簿保存法に対応したクラウド会計ソフトや、経費精算システムが数多く販売されています。これらの会計ソフトなどを導入することで、さらに業務の効率化が図れます。

多くの会計ソフトでは、クレジットカードの利用明細を自動で取り込んで仕訳や帳簿に反映できます。会計ソフトへの手入力や転記の手間を大幅に削減でき、ヒューマンエラーのリスク回避につながります。さらに、電子帳簿保存法の要件は複雑であるため、要件を満たすためにも、会計ソフトを導入したほうが作業負担は軽減しやすくなります。

さらに、クラウド会計ソフトを導入することで、ネット環境があればどこでも会計業務ができるようになります。従業員などのテレワークやリモートワークに対応できるという点でもおすすめです。

会計ソフトを選ぶ際には、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証を取得しているものを選択するとよいでしょう。電子帳簿保存法に対応していると第三者機関に認証されたシステムなら、より安全を確保できます。

青色申告の要件を満たしやすい

青色申告とは確定申告時の申告方法のひとつで、所得税などで一定の優遇措置を受けることができる申告納税制度のことです。クレジットカードの利用明細や領収書を電子データ保存することで、青色申告の必要書類を整備しやすい、保存期間の要件を満たしやすいなどのメリットがあります。

電子帳簿保存法改正によるクレジットカード利用時の注意点

電子帳簿保存法改正によるクレジットカード利用時の注意点には、以下のようなものがあります。

利用明細だけでなく領収書データも保存する

消費税の課税事業者の場合、インボイス制度導入に備え、利用明細だけでなく領収書のデータも保存する必要があります。

2023年10月1日からインボイス制度が開始されました。インボイス制度において、仕入税額控除を受けるには、取引先が作成する適格請求書が必要になります。

インボイス制度導入前には、一定事項の記載がある利用明細書なら、仕入税額控除を受けることが認められていましたが、インボイス制度開始後は、会計処理の際、利用明細だけでは仕入税額控除は認められません。

利用明細はあくまでクレジットカード会社が発行している書類であり、取引相手からの適格請求書ではありません。利用明細は適格請求書の要件を満たしていないため、適格請求書の要件を満たしている領収書データの保存が必要となります。

年会費やカード発行手数料など、クレジットカード会社が相手となる取引には、クレジットカード会社から適格請求書の交付を受ける必要があるため、注意しましょう。

利用明細の記載情報を確認する

一般的なクレジットカードの利用明細の場合、領収書として利用できます。しかし、領収書の代わりにならない場合があるため、記載内容の確認が必要です。利用明細を領収書の代わりに使用する際は、領収書に通常記載される取引内容の記載が必要です。

取引内容の記載がない利用明細の場合、仕入税額控除が認められない可能性があります。クレジットカード発行会社によって、利用明細に記載される取引内容が異なる場合があるので、注意しましょう。

検索ができるように情報を記録しておく必要がある

電子データを保存するための条件のひとつに、検索ができるように情報を記録しておくことがあります。検索できるために記録する主な情報は、取引年月日、取引金額、取引先の3つです。

情報の記録方法はいくつかありますが、専用のシステムを導入しなくてもよい簡易的な方法として、規則的なファイル名を付けるか、表計算ソフトへの入力が推奨されています。また、その場合、データを保存するファイル形式は問われませんが、PDFとしての保存が一般的です。

参考:国税庁 電子取引データの保存方法をご確認ください

クレジットカード利用を含めた電子帳簿保存法の対応を検討しましょう

電子帳簿保存法の改正は、クレジットカードの利用明細や領収書へさまざまな影響を与えます。電子取引の場合、書面での保存が認められなかったり、インボイス制度の開始にともない、クレジットカードの利用明細では仕入税額控除が認められなかったりと、影響が大きいものもあります。

電子帳簿保存法の改正が自社にどのような影響を与えるのかをしっかりと理解し、対策を講じておくことが重要です。

電子帳簿保存法とクレジットカードの利用明細についてのQ&A

電子帳簿保存法とクレジットカードの利用明細について、よくある質問をQ&Aでご紹介します。

Q1.クレジットカード利用明細を電子データで管理するメリットは何ですか?

クレジットカード利用明細を電子データで管理するメリットとして、紙の領収書を保管するために必要な手間が軽減されることが挙げられます。

また、物理的な保管場所の確保も少なく済み、データとして保管されることでアクセスや検索が容易になって業務効率化が図れます。

Q2.電子帳簿保存法改正後のクレジットカード利用明細の保存期間はどれくらいですか?

電子帳簿保存法に則った電子保存を行えば、クレジットカード利用明細の原本の保管は不要です。

ただし、電子データとしての保存には期間が定められています。法人の場合、申告書の提出期限の翌日から7年間(青色繰越欠損金が生じている場合は10年間)です。また、個人事業主の場合、青色申告では原則7年間、白色申告では原則5年間の保存が必要です。

出典:国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間
   国税庁 記帳や帳簿等保存・青色申告

Q3.クレジットカードの利用明細だけでなく、領収書の保存も必要な理由は何ですか?

2023年10月1日から開始されるインボイス制度のためです。

インボイス制度において仕入税額控除を受けるためには、取引先が作成する適格請求書が必要になります。利用明細はあくまでクレジットカード会社が発行している書類であり、取引相手からの適格請求書ではありません。適格請求書の要件を満たしていないため、適格請求書の要件を満たしている領収書データの保存が必要となります。

Q4.電子帳簿保存法やインボイス制度に対応するまでの猶予期間はいつまでですか?

電子取引データをプリントアウトして保存することのできる猶予期間は、2023年12月31日までに発生した電子取引のものです。

また、2024年1月1日以後にやり取りする電子取引データについては、電子データとしての保存について、改ざん防⽌や検索機能などの要件について、新たな猶予措置が講じられています。

出典:国税庁 電子帳簿保存法の内容が改正されました

Q5クレジットカードの利用明細と領収書を電子データ保存する際、保存形式に制約はありますか?

電子データを保存するための条件のひとつに、検索ができるように情報を記録しておくことがあります。
検索できるために記録する主な情報は、取引年月日、取引金額、取引先の3つです。

情報の記録方法はいくつかありますが、専用のシステムを導入しなくてもよい簡易的な方法として、規則的なファイル名を付けるか、表計算ソフトへの入力が推奨されています。また、データを保存するファイル形式は問われませんが、PDFでの保存が一般的です。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 税理士 宮川 真一

税理士 宮川 真一さま

税理士法人みらいサクセスパートナーズ 代表 岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上。 現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティング、税務対応を行っている。 また、事業会社の財務経理を担当し、会計・税務を軸にいくつかの会社の取締役・監査役にも従事。 【保有資格】 税理士、CFP®

税理士法人みらいサクセスパートナーズ