繰延税金資産とは?回収可能性の判断方法と税務メリットを解説
税効果会計と繰延税金資産とは
企業会計と税務会計では収益・費用の計上時期や計上額に関する違いがあります。これは、企業会計が投資に資する情報の提供を目的とする一方で、税務会計が課税の公平性を重視しているためです。たとえば、企業会計においては会計上の見積もりによる費用計上を認めますが、税務会計においては「見積もり」という会社の意思が入る金額を損金に算入することを認めていません(たとえば賞与引当金。以下、賞与引当金を例に説明します。)。
企業会計において費用計上された賞与引当金繰入額は、実際に賞与が支給された事業年度の損金の額に算入されるため、期末における賞与引当金の場合は会計上の費用計上年度と税務上の損金算入年度が一年ズレます。このズレを「一時差異」といい、会計上の費用計上が先に、税務上の損金算入が後に行われるものを「将来減算一時差異」と言います。
将来減算一時差異は将来の税負担額を減らす効果があるため、企業会計上これを一種の「税金の先払い」であると考え、一定の要件の下に繰延税金資産として計上します。これを税効果会計と言います。
繰延税金資産の回収可能性とはどういうことか
回収可能性とは、将来、税金を減らす効果があるかどうか、ということを言います。回収可能性ありと判断され、将来の税金を減らす効果が認められるときは繰延税金資産を計上することができますし、そうでないときは繰延税金資産を計上することはできません。
たとえば、これまで赤字が続いていて、今後も赤字が続きそうな会社で、将来減算一時差異があったとします。そのような場合は、将来この一時差異が解消しても、そのタイミングでそもそも課税所得がなく税金が生じないのであれば、税金を減らす効果はないこととなります。このような場合には回収可能性がない、ということとなり、繰延税金資産は計上できません。
このように、赤字続きの会社であれば、回収可能性があるかどうかというのは比較的わかりやすいです。しかし、会社の事業は黒字のときもあれば赤字のときもあるというように業績に波があるのが通常ですし、一時差異がどれくらいあってどのタイミングで解消するかによっても回収可能性があるかどうかが変わってきます。将来を予測しないとわからないことが多いので、回収可能性を検討する、というのは非常に専門的で難しい作業です。
経理プラス:繰延税金資産の取り崩しで赤字が増える?効果と影響を理解しよう
回収可能性判断の指針
繰延税金資産の回収可能性判断は、企業会計基準委員会が公表している「企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」を拠りどころに行います。企業会計基準委員会は、公益財団法人財務会計基準機構の中に設けられた委員会で、日本における会計基準を設定している団体です。
参考:企業会計基準委員会 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
繰延税金資産の回収可能性の判断方法とスケジューリングの仕方
ここでは、繰延税金資産の回収可能性を判断する上での方法とスケジューリングの方法を見ていきましょう。
回収可能性の判断方法
繰延税金資産の回収可能性は、将来の税金の負担を減らすことができるかどうかで判断します。具体的には、将来に渡って十分な課税所得が出るかどうかを検討します。
将来に発生する課税所得に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたっては、①過去3年及び当期(以下、「計4年」)における課税所得の発生状況、②計4年における税務上の欠損金の存在、及び③近い将来経営環境に著しい変化が見込まれるかによって企業を5つに分類し、その分類によって繰延税金資産の回収可能性を判断します。
具体的な分類表と繰延税金資産の計上可能額を下表にまとめました。
要件 | 繰延税金資産の計上額 | |
---|---|---|
分類1 | 計4年について ・将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じていて、 ・近い将来経営環境に著しい変化が見込まれない | 全額計上できる |
分類2 | 計4年について分類1ほどではないものの、 ・安定的に課税所得が生じていて、 ・近い将来経営環境に著しい変化が見込まれず、 ・計4年について重要な税務上の欠損金が生じていない | 一時差異の解消計画(スケジュール)を立てられない一時差異以外について計上できる |
分類3 | 計4年について ・課税所得が大きく増減していて、 ・計4年について重要な税務上の欠損金が生じていない | 5年以内に解消する一時差異について計上できる |
分類4 | 過去3年または当期において ・重要な税務上の欠損金が生じている、 ・または過去3年において重要な税務上の欠損金が繰越期限切れになった、 ・または当期末において重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる | 翌期に解消する一時差異について計上できる |
分類5 | 計4年について ・重要な税務上の欠損金が発生していて、 ・翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる | 計上できない |
スケジューリングの方法
スケジューリングとは、一時差異の解消計画(スケジュール)を立てることです。スケジューリングは、一時差異が将来のどの時点で税務上の益金または損金の額に算入されるかを個別の一時差異ごとに確認する方法により行います。
回収可能性がなくなったときはどうする
繰延税金資産は一度計上したら、一時差異が解消するまでそのまま計上できる、というものではありません。会社の状況は毎年変わるので、決算の時点で回収可能性の検討を行います。これまで繰延税金資産を計上していたとしても、決算時点で回収可能性が見込まれなくなったら繰延税金資産の取り崩しをしなければなりません。
特に業績が変化したことにより、繰延税金資産の回収可能性の検討を行う会社区分(分類1~分類5)が変更となったようなときは、多額の繰延税金資産を新たに計上することとなったり、取り崩しが必要となったり、大きな変化が起こることとなります。
そのような場合、決算に重要な影響を与えることとなりますので、税効果会計に関する検討はできるだけ早めに行っておく必要があるでしょう。
まとめ
税効果会計をいざ決算で適用するとなったときには、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に従って、繰延税金資産の回収可能性の判断を行います。しかし、各企業の業績や態様というのは多種多様で必ずしもすべての企業が基準に従って画一的に判断できる訳ではありません。そのようなときは、税効果会計の基本的な考え方に立ち返って個別に検討しなければなりませんので、基本的な考え方をしっかりと理解するようにしてください。
参考:繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
経理プラス:税効果会計の概要とメリット
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