直接原価計算とは?計算方法とメリット、全部原価計算との違い

直接原価計算とは?計算方法とメリット、全部原価計算との違い

企業が利益を出すためには、コスト計算の精度を高めることが重要です。特に昨今、円安による物価高の進行によって、販売価格戦略は難しくなっています。このような状況下で注目されるのが直接原価計算です。直接原価計算は、原価を大きく変動費と固定費に区分し、変動費のみを原価として扱う手法です。変動費と固定費を明確に区分することで、商品の最低販売価格や利益確保のための適正価格を判断しやすくなります。

この記事では、直接原価計算の基礎知識から計算手順、メリットと注意点を解説します。

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直接原価計算の基礎知識

正確な利益計算を行うには、直接原価計算の基礎知識が欠かせません。ここでは直接原価計算の基礎知識を解説します。

直接原価計算とは?

直接原価計算とは、製造原価を計算する方法の一つです。他の原価計算と違い、変動費のみを製造原価として計上します。変動費とは、製品の販売量や生産量に比例して増減する費用のことです。代表的なものとして、原材料費、運送費などがあります。固定費とは、製品の生産量に関わらず、毎月一定額発生する費用のことです。たとえば、オフィスの賃料や設備の減価償却費、管理部の固定給などが該当します。

直接原価計算の目的

直接原価計算の目的は、製品やサービスを作る際に直接かかる費用を正確に把握することです。

売上規模に比例しない固定費を原価計算に含めると、売上に対する原価率が不明確になりがちです。原価計算を変動費のみとすることで、製品やサービスを作る際に直接かかる費用だけを考慮できるため、売上に対する原価率を明確に把握することができるのです。

全部原価計算との違い

全部原価計算は、製品提供にかかるすべての費用を製造原価として計上します。直接原価計算との違いは、変動費だけでなく固定費もあわせて原価を計算する点です。通常、企業の損益計算書は全部原価計算の手法を用いて作成されています。売上に比例しない固定費が毎月同額で含まれてしまうため、売上に対する直接的な費用を正確に掴むことができません。

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直接原価計算の手順と計算方法

ここでは、直接原価計算の手順と具体的な計算方法について解説します。

直接原価計算のポイント

直接原価計算では、直接費と間接費の区分を明確にすることが重要です。

原価を変動費と固定費に分ける

直接原価計算では、発生した費用を、売上に比例して変動するかを判断基準として、変動費と固定費に分けます。このような、売上高(操業度)との関連に基づいた原価の分類方法を、固変分解といいます。固変分解には勘定科目法、高低点法、総費用法など複数の方法がありますが、最も一般的な方法は、勘定科目ごとに判断する勘定科目法です。

どの勘定科目が変動費または固定費となるかについては、中小企業庁編平成15年度調査「中小企業の原価指標」が参考になります。中小企業庁のサイトに同書の費用分解基準が転記されていますので参考にしてください。

参考:中小企業庁 5.4 直接原価方式による損益計算書の作成・計算手順

固定費の調整を行う

固定費の調整とは、直接原価計算により算定した営業利益から全部原価計算により算定した営業利益に修正を行うことです。直接原価計算を採用している企業は、固定費の調整を行う必要があります。なぜなら、現行の会計制度では、直接原価計算は財務会計上の正式な原価計算方法として認められていないからです。

CVP分析を行う

現行会計制度で財務諸表作成の手段として認められていないにも関わらず、直接原価計算が用いられている理由は、企業内部のCVP分析を行うのに有用であるからです。CVP分析とは、売上(Volume)と原価(Cost)、利益(Profit)の関係を分析し、利益を出すためにはどのくらいの売上が必要なのかを調べる手法のことです。CVP分析では、利益がゼロとなる損益分岐点売上高を求めます。損益分岐点は、売上がその金額を超えると利益が出るという重要な指標です。

直接原価計算の計算方法

直接原価計算の計算方法を解説します。また、直接原価計算によって算出された変動費・固定費を使い損益分岐点を求めてみましょう。

財務諸表は一般的に全部原価計算を用いて作成されるため、全部原価計算で作成された損益計算書のサンプルを使い、直接原価計算の損益計算書に組み替えていきます。

全部原価計算で作成された製造業A社の損益計算書

項目金額
売上高2,000,000
売上原価1,200,000
売上総利益800,000
販売費及び一般管理費400,000
営業利益400,000

まず、売上原価の内容を確認し、それぞれ変動費と固定費に分けます。

項目金額内訳
売上原価1,200,000変動費
 材料費:500,000
 労務費:200,000
 外注費:100,000

固定費
 減価償却費:150,000
 間接労務費:100,000
 保険料:50,000
 光熱費:50,000
 修繕費:50,000

次に、項目「販売費及び一般管理費」の明細をもとに、変動費と固定費に分けます。

項目金額分類
広告費100,000変動費
人件費150,000固定費
賃借料80,000固定費
通信費20,000固定費
減価償却費50,000固定費

勘定科目法の固変分解により原価を変動費と固定費に分類したら、変動費のみを原価に組み込みます。

これにより、直接原価計算で計算された損益計算書が作成されました。

項目金額
売上高2,000,000
変動費900,000
貢献利益 (売上高 - 変動費)1,100,000
固定費700,000
営業利益400,000

上記の損益計算書を使って損益分岐点の計算式に数字を入れます。

損益分岐点(売上高) = 固定費 ÷ 貢献利益率(貢献利益 ÷ 売上高)

損益分岐点(売上高) = 700,000 ÷ (1,100,000 ÷ 2,000,000)

計算結果から、損益分岐点は約1,272,727円になります。利益を出すには、1,272,727円以上の売上が必要ということが導き出せます。

直接原価計算のメリットと注意点

直接原価計算にはメリットがある一方、注意点も存在します。

直接原価計算のメリット

直接原価計算のメリットは主に以下の3つです。

1.利益状況を把握しやすい

直接原価計算では、変動費と固定費を明確に分け固定費を除外しています。そのため、売上変動に伴う利益変動を把握しやすく、貢献利益の算出が容易になります。貢献利益とは、売上高から変動費を引いたもので、一つの商品の販売によって得られる利益のことです。貢献利益を算出することで、どの商品が最も利益に貢献しているかを迅速に把握でき、意思決定のスピードを加速することができるでしょう。

2.損益分岐点を算出しやすい

損益分岐点とは、売上と費用が同額になり、利益も損失も出さずにトントンの状態になる収益点のことです。損益分岐点を算出するには、貢献利益(売上-変動費)と固定費を求める必要があります。直接原価計算では変動費と固定費を明確に分けていることから、損益分岐点を算出しやすくなり、製品の価格設定や販売計画の策定に役立ちます

3.計算方法がシンプル

費用を変動費と固定費に分ける直接原価計算では、各費用が売上や生産量にどのように影響するかを簡単に把握できます。一方、全部原価計算では、全ての製造費用を製品に配賦するため、計算が複雑になります。全部原価計算に比べて計算方法がシンプルな直接原価計算は、迅速な意思決定を手助けする計算手法といえるでしょう。

直接原価計算の注意点

直接原価計算を行う際には、主に以下の3つの注意点を意識してください。

1.在庫評価の正確性に気をつける

固定費を製造原価に含めない直接原価計算では、在庫評価額が低く見積もられる可能性があります。変動費と固定費の正確な分類や、定期的な在庫の棚卸を実施し、費用を適切に管理しましょう。

2.長期的な意思決定には向いていない

直接原価計算は短期的な利益分析に適した手法である反面、長期的な視点でのコストや利益を評価するには不向きな計算手法です。たとえば、固定費の回収期間や設備投資の効果を測りたい場合は、長期的な視点で効果を評価する必要がありますが、そもそも固定費の影響を把握できない直接原価計算では正確な分析ができません。長期的な意思決定には、他の原価計算方法との併用が有効です。

3.複雑な製品の場合は適用が難しい

製品が多くある場合や製造過程が複雑な場合は、それぞれの製品ごとに変動費と固定費を正確に分けることが難しくなります。特に共通の製造工程を持つ製品が複数ある場合、コストの配分も複雑になるでしょう。

直接原価計算が用いられる主な場面

直接原価計算が用いられる主な場面を解説します。

短期的な利益計画を策定するとき

市場の変化に迅速に対応するためには、短期的な利益計画を策定することが重要です。直接原価計算は、変動費のみを考慮することで、販売量の増減に伴う費用の変動を詳細に分析できるため、短期的な利益目標の達成度を測る際にも有効です。

製品の採算性を分析するとき

企業が売上計画を作成する際は、利益の最大化の観点から、最適な価格設定や製品ミックスを行う必要があります。製品ミックスとは、企業が提供する製品の組み合わせのことです。どの製品をどれだけ生産・販売するか、この組み合わせの決定が、収益に大きな変化をもたらします。どの製品がどれだけ利益をもたらしているかを明確に把握できる直接原価計算は、製品ごとの採算性分析に役立ちます。

損益分岐点を算出するとき

損益分岐点を求めるには、直接原価計算によって算出される固定費、変動費が必要になります。損益分岐点とは、売上額とコストが同額となる収益点で、企業が損失を出さずに、すべてのコストをカバーするために必要な売上高がわかる重要な指標です。そのため、販売目標の設定などに活用されています。

まとめ

直接原価計算は原価を変動費と固定費に分け、変動費のみを原価とする計算手法です。現行の会計制度では、財務諸表の作成には全部原価計算を用いる必要があるため、直接原価計算は必須ではありません。しかし、企業が利益を獲得するためには、直接原価計算による原価分析が有効です。

直接原価計算は企業内部の迅速な意思決定に役立つ計算手法です。本記事を参考に直接原価計算の理解を深め、利益向上に貢献していきましょう。

直接原価計算に関するQ&A

直接原価計算に関するよくある質問をQ&Aにまとめました。

Q1.直接原価計算と標準原価計算の違いは?

直接原価計算と標準原価計算の違いは、計算の目的が異なる点です。コスト管理を主眼に置く標準原価計算に対し、直接原価計算は売上数量や販売価格からどれだけの利益が出せるのかを分析し、利益を獲得することを目的としています。

標準原価計算は、標準原価を使って計算します。標準原価とは、製品を製造する際に目標とする原価の基準値です。あらかじめ原価の目標値を定めて計算することで、実際に発生した原価と比較でき、無駄なコストの特定や改善策を講じることができます。一方、直接原価計算は変動費に基づいて計算し、製品ごとの貢献利益や採算性を分析できるため、短期的な意思決定や利益管理に有効です。

Q2.直接原価計算と全部原価計算では営業利益に差額が生じる?

直接原価計算と全部原価計算では、固定費の計上のタイミングが異なるため営業利益が同じになるとは限りません。直接原価計算では、発生した固定費は費用として損益計算書に計上されますが、全部原価計算では、発生した固定費のうち、販売された分だけが損益計算書に費用として計上されます。

例:当月の売上額200,000円 当月発生した製造固定費100,000円 当月販売分に対応する製造固定費70,000円

直接原価計算の営業利益:200,000円 100,000円 = 100,000円
・全部原価計算の営業利益:200,000円 - 70,000円 = 130,000円
(※計算をわかりやすくするために、前月在庫なしで、変動費・一般管理費を0としています。)

まだ販売されていない分の製造固定費30,000円が、直接原価計算と全部原価計算の営業利益の差異になります。

Q3.直接原価計算における貢献利益の求め方は?

貢献利益は、売上高から変動費を差し引いて計算します。貢献利益が高いほど、利益性が高い商品になります。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 公認会計士 梶本 卓哉

Kajimototakuya

税務署法人課税部門(税務大学校首席卒業)、大手監査法人や大手投資銀行勤務等を経て公認会計士・税理士事務所開設。税務のみならず会計監査やIPO(新規株式公開)実務に強みを有する。