圧縮記帳で課税所得を相殺!適用できるケースや処理方法を解説
圧縮記帳とは
圧縮記帳とは、一定要件を満たす資産の取得があった場合にその政策的背景から一時に課税することが適当でないものについて圧縮損を計上し、課税所得を相殺する処理をいいます。圧縮損は圧縮記帳を適用した後の減価償却費を減少させるため、トータルの課税所得は同じです。したがって、圧縮記帳とは課税の繰り延べであって、節税ではなく税負担を平準化させるための処理になります。
圧縮記帳を適用できるケース
圧縮記帳を適用できるケースは、法人税法上では以下の通りとなります。
- 国庫補助金等で取得した固定資産等
- 保険金等で取得した固定資産等
- • 交換により取得した資産
その他、租税特別措置法によって認められるものもありますが、主なものは上記の3つです。国庫補助金等で取得した固定資産の適用要件等は、下記の記事をご覧ください。
経理プラス:補助金・助成金を受けたときの会計処理と注意すべき点
圧縮記帳の経理方法 直接減額方式・積立金方式
圧縮記帳の経理方法には、「直接減額方式」と「積立金方式」があります。ここでは、2つの処理方法を、保険金等で取得した固定資産を例に確認しましょう。「直接減額方式」と「積立金方式」で違いが生じるのは、決算処理以降です。
・4月1日 事業用建物が焼失した。(建物簿価1,000万円、減価償却累計額600万円、火災保険に加入)
・6月1日 火災保険金900万円が振り込まれた。
・3月1日 保険金で、代替の建物2,000万円(耐用年数50年)を購入した。
・3月31日 決算を迎えた。なお、代替の建物は未使用である。
4月1日の処理
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
減価償却累計額 | 600万円 | 建物 | 1,000万円 | |
火災未決算 | 400万円 |
火災未決算とは、火災保険の支払額が確定する前の仮勘定のことです。
6月1日の処理
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 900万円 | 火災未決算 | 400万円 | |
保険差益 | 500万円 |
保険金額の確定により、保険差益500万円が計上されます。
圧縮できる課税所得は、この保険差益です。
場合によっては、保険差益の全額が圧縮記帳の対象にならないこともありますが、今回はこの500万円すべてを圧縮記帳の対象とします。
3月1日の処理
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
建物 | 2,000万円 | 普通預金 | 2,000万円 |
ここまでの処理に、「直接減額方式」と「積立金方式」で違いはありません。
続いて、決算時におけるそれぞれの処理方法を確認します。
直接減額方式
直接減額方式による決算処理
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
建物圧縮損 | 500万円 | 建物 | 500万円 |
直接減額方式は、圧縮記帳の適用額にあたる建物の簿価を、直接圧縮する方法です。建物圧縮損の計上によって、保険差益による課税所得500万円は0円となります。
直接減額方式による減価償却
直接減額方式では、減価償却費が減少します。仮に4月1日から代替の建物を使用する場合、圧縮記帳が行われていなければ減価償却費は年40万円ですが、直接減額方式による圧縮記帳を行った場合の減価償却費は年30万円となります。これは、減価償却費の計算の元となる建物の簿価が、圧縮記帳によって2,000万円から1,500万円に減少するためです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
減価償却費 | 30万円(※1) | 減価償却累計額 | 30万円 |
(※1)1,500万円×0.02(耐用年数50年の償却率)=30万円
したがって、課税所得の合計は保険差益(+500万円)、建物圧縮損(△500万円)、減価償却費(△1,500万円)で△1,500万円となります。
積立金方式
積立金方式による決算処理
積立金方式とは固定資産の簿価を直接圧縮せず、「圧縮積立金」を計上して繰越利益剰余金を減少させる処理になります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 500万円 | 圧縮積立金 | 500万円 |
建物の取得価額が減額されないため、正しい貸借対照表の表示という観点からすると、積立金方式の方が会計上好ましい処理と考えられます。
「繰越利益剰余金」と「圧縮積立金」はいずれも損益科目でないため、課税所得は変わらないのではと心配になるかもしれません。しかし、圧縮積立金の計上は法人税の申告書で課税所得の減算調整(減算・留保)の対象となり、課税所得からマイナスされる仕組みです。
直接減額方式が「会計上の損益」の調整によって課税所得を圧縮する方法であることに対し、積立金方式は「税務上の損益」の調整によって課税所得を圧縮する方法となります。
積立金方式による減価償却
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
減価償却費 | 40万円(※2) | 減価償却累計額 | 40万円 | |
圧縮積立金 | 10万円(※3) | 繰越利益剰余金 | 10万円 |
(※2)2,000万円×0.02(耐用年数50年の償却率)=40万円
(※3)500万円×0.02(前同)=10万円
積立金方式では、建物の簿価が減額されていないため、会計上の減価償却費は、建物2,000万円から計算された40万円となります。しかし、税務上の簿価は1,500万円で考えなければならないため、償却限度額の超過分は500万円の圧縮積立金を耐用年数で取り崩し、課税所得の加算調整(加算・留保)を行います。
積立金方式の課税所得の合計は、保険差益(+500万円)、圧縮積立金(△500万円)、税務上の減価償却費(△1,500万円)です。そのため、トータルの課税所得は直接減額方式と同じとなります。
積立金方式に税効果会計を適用する場合
圧縮記帳の積立金方式は会計と税務で一時的差異が生じるため、税効果会計の対象となります。税効果会計の適用が必要な企業については、以下をご覧ください。
経理プラス:税効果会計の概要とメリット
圧縮記帳による課税所得の調整では、「今期は払ってないけれど将来払う法人税等」を負債として計上する税効果会計を適用します。一時差異の金額は圧縮積立金の額となりますので、圧縮積立金500万円のうち、実効税率に相当する額を「繰延税金負債」として計上します。
決算処理(税効果なし)
積立金方式の税効果会計を適用しない処理です。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 500万円 | 圧縮積立金 | 500万円 |
決算処理(税効果あり)
上記処理に税効果会計を適用すると、次のようになります。(実効税率30%の場合)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 350万円 | 圧縮積立金 | 350万円(※5) | |
法人税等調整額 | 150万円 | 繰延税金負債 | 150万円(※4) |
(※4)500万円×30%=150万円
(※5)500万円-150万円=350万円
一時差異は、減価償却時(圧縮積立金の取り崩し時)に少しずつ解消されます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
減価償却費 | 40万円 | 減価償却累計額 | 40万円 | |
圧縮積立金 | 7万円(※7) | 繰越利益剰余金 | 7万円 | |
繰延税金負債 | 3万円(※6) | 法人税等調整額 | 3万円 |
(※6)500万円×0.02×30%=3万円
(※7)500万円×0.02-3万円=7万円
圧縮記帳を適用しなかった場合
圧縮記帳は、必ず行わなければならない処理ではありません。もし圧縮記帳を行わなかったとしても、保険差益(+500万円)と減価償却費(△2,000万円)でトータルの課税所得は△1,500万円です。そのため直接減額方式、積立金方式と結果は同じになります。
まとめ
圧縮記帳は経理が複雑に見えますが、目的さえ把握すれば初年度以降は同じ処理の繰り返しです。しかし、積立金方式を採用する場合は、税務申告書での圧縮積立金の管理が必要となります。そのため、対象資産が複数ある際は別途一覧表を作成するなどの工夫が求められるでしょう。
なお、圧縮記帳ができる額には限度額があり、計算方法が決められています。必要に応じ、顧問税理士などに確認してください。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。