増資時に行う仕訳(会計処理)のポイントを解説!

増資時に行う仕訳(会計処理)のポイントを解説!

増資とは

増資とは会社が資本金を増やすこと。その元手の違いから、「有償増資」と「無償増資」の2種類に区別されます。
このうち有償増資とは、株式会社における資金調達方法の一つです。期間を設けて出資者を募り、出資者から払い込まれた額に対して新株を発行したり、自己株式を処分したりすることで行われます。

この他にも、資金調達には金融機関から融資を受ける方法や社債の発行等があります。ただし有償増資では、返済不要な資金調達が行える点がメリットです。有償増資の方法には「公募増資」「株主割当増資」「第三者割当増資」があり、それぞれ以下のような違いがあります。

  • 公募増資:不特定多数の一般投資家に対して新株を取得できる権利を与えて行う増資
  • 株主割当増資:従来からの株主に対して新株を取得できる権利を与えて行う増資
  • 第三者割当増資:取引先等や自社の役員、職員など特定の第三者に株式を引き受ける権利を与えて行う増資

一方、無償増資とは会社の他の資本を資本金に振り替えて、株主に新株を割り当てることをいいます。会社の資本構成を是正する目的や、株主への利益還元を目的として行われます。無償増資には株主からの払込みがないため、会社の資金自体は増えません。

資本金の基本事項

増資を行うことによって「資本金」が増加します。この資本金とは、貸借対照表の純資産の部に表示される「Ⅰ.株主資本」に属する勘定科目です。

純資産の部Ⅰ.株主資本1.資本金
2.新株式申込証拠金
3.資本剰余金資本準備金
その他資本剰余金
4.利益剰余金利益準備金
その他利益剰余金
5.自己株式
6.自己株式申込証拠金
Ⅱ.評価・換算差益等1.その他有価証券評価差額金
2.繰延ヘッジ損益
3.土地再評価差額金
Ⅲ.新株予約権

有償増資の仕訳

まずは有償増資の基本パターンのうち、払込期間を設ける増資と自己株式を処分する場合をご紹介します。

1)払込期間を設ける増資の場合

ほとんどの有償増資では払込期間を設けます。仕訳のポイントは、払込期限後に資本金への振替が必要となることです。

<例1>
株式100株を1株あたり5,000円で発行することとなり、払込期日までに全額の払込みを受けた場合

借方金額貸方金額
別段預金500,000円新株式申込証拠金500,000円

別段預金は通常の預金口座とは異なり、会社が任意に引き出すことができない銀行預金になります。
払込期日到来前に払い込まれた出資額は、申込み数の調整等から後に返還する場合があることから、会社の資金として使用できない状態です。そのため、現金預金や当座預金ではなく、別段預金勘定で処理します。
これに対して、貸方は「新株式申込証拠金」を使用します。払込期日到来前の株式発行による払込額は、まだ会社の資本にできないため、こちらも資本金勘定は使用しません。

<例2>
払込日が到来し、資本金に振り替えた

借方金額貸方金額
新株式申込証拠金500,000円資本金500,000円
現金預金500,000円別段預金500,000円

払込日が到来して増資額が確定したことから、別段預金と新株式申込証拠金を、現金預金と資本金に振り替えます。なお、資本金は払込額の2分の1までは、資本金に組み入れず「資本準備金」とすることも可能です。

(例)

借方金額貸方金額
新株式申込証拠金500,000円資本金250,000円
資本準備金250,000円

2)自己株式を処分する場合(自己株式処分差益が生じた場合)

自社の発行する株式は自己株式として取得することができます。取得した自己株式は新株の発行時などに処分し、資金調達に利用することが可能です。

<例1>自己株式50株を10,000円で取得した

借方金額貸方金額
自己株式500,000円現金預金500,000円

<例2>
募集株式200株のうち、160株は新株を発行し、残り40株は自己株式の処分を行うこととした。

  • 払込金額:2,500,000円
  • 処分する自己株式の帳簿価格:400,000円
借方金額貸方金額
現金預金2,500,000円資本金2,000,000円
自己株式400,000円
その他資本剰余金100,000円

自己株式を増資に充当する場合は、貸方の計算手順がポイントです。
まず、先に自己株式の処分差益を求めます。自己株式の処分差益とは、自己株式の取得価格と払込金額の差のことです。

自己株式の取得価格は帳簿価格の400,000円になります。自己株式の払込金額は払込金額2,500,000円のうち、自己株式の割合に相当する金額を導き出さなければなりません。自己株式は、募集株式200株のうち40株ですから、自己株式に相当する払込金額は以下のようになります。

  • 2,500,000円×40株÷200株=500,000円

よって、自己株式の処分差益は以下の通りです。

  • 500,000円-400,000円=100,000円です。

なお、自己株式処分差益はその他資本剰余金で処理します。

最後に、増加される資本金を計算します。増加される資本金は、払込金額のうち新株の割合に相当する金額なので、以下となります。

  • 2,500,000円×160株÷200株=2,000,000円

3)自己株式を処分する場合(自己株式処分差損が生じた場合)

自己株式の処分で処分差損が生じた場合は、資本金から減額します。前記の例で、自己株式の帳簿価格が700,000円だった場合の仕訳は次のとおりです。

借方金額貸方金額
現金預金2,500,000円資本金1,800,000円
自己株式700,000円

700,000円-500,000円=200,000円の処分差損が発生したため、以下の計算方法でこれを資本金から減額します。

  • 2,500,000円×160株÷200株-200,000円=1,800,000円

無償増資の仕訳

続いて、無償増資の仕訳をご紹介しましょう。無償増資は、出資金を受けることなく他の資本を振り替えて資本金を増加させる仕組みです。資本剰余金や利益剰余金を資本金に振り替えることで行われます。

<例1>
備金100,000円を資本金に組み入れた。

借方金額貸方金額
資本準備金100,000円資本金100,000円

<例2>
利益準備金200,000円を資本金に組み入れた。

借方金額貸方金額
利益準備金200,000円資本金200,000円

増資を行った後

増資を行った後の手続きや、書類作成も重要です。

登記事項の変更

会社の資本金は登記事項となるため、増資を行った場合は変更登記を行わなければなりません。資本金額の変更登記には、株主総会議事録、取締役会議事録、株式の引受書、払込証明書などの書類が必要です。必ず事前に確認しておきましょう。
また、変更登記には登録免許税が必要です。登録免許税の金額は3万円、もしくは増加した資本金額×0.7%のいずれか高い方。そのため、たとえば約428万円を下回る増資であれば、税額は3万円になります。

株主資本等変動計算書の作成

株主資本等変動計算書とは、純資産の部における各項目の変動事由と金額を報告するために、会計期間ごとに作成される計算書です。増資を行った場合、仕訳に沿ってその増減を記録しなければなりません。

別表5への記入

増資は会計処理だけでなく、法人税申告書の別表5「利益積立金の計算に関する明細書」「資本金等の額の計算に関する明細書」において、株主資本の増減を所定の欄に記載しなければなりません。

まとめ

増資の仕訳についてまとめると、以下の通りとなります。

  • 資本金の出元が異なる有償増資と無償増資では、仕訳も異なる
  • 有償増資の払込期日期間を設ける増資の場合は、科目振り替えに注意
  • 有償増資の自己株式の処分を含む増資の場合は、計算の順番がポイント
  • 無償増資では、資本剰余金や利益剰余金を資本金に振り替える

また、増資を行った後の変更登記手続きや、株主資本等変動計算書と法人税申告書に反映させることも忘れないようにしましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。