退職給付引当金の「簡便法」とは 正しい仕訳と計算方法
退職給付引当金とは
従業員への退職金は給料や賞与と同様に、期間の経過に応じて費用が発生していると考えることができます。このことから、将来支払うことになる退職金の額やその準備のための積立金を見積もり、事業年度ごとに引当金として計上したものが「退職給付引当金」です。つまり退職給付引当金とは、退職金の適正な期間損益計算と、外部への開示を目的に行う会計処理になります。なお、取締役や会計参与、監査役、執行役など、役員に対する退職金は引当金として計上できないことに注意が必要です。
(参考)企業会計基準第 26 号退職給付に関する会計基準第3項
確定給付制度と確定拠出制度
退職金の制度には、大きく分けて確定給付と確定拠出の制度があります。確定給付とは、あらかじめ給付される金額が決まっている制度のことです。会社が退職金の原資を自社で用意する「退職一時金制度」や、年金として退職金を支払うために外部の機関に積み立てて準備する「企業年金制度」があります。
これに対して確定拠出とは、401kや中小企業退職金共済など、拠出金(掛け金)の金額があらかじめ決まっている制度のことです。加入者自身が掛け金の運用指示を行うことから、給付額が確定していないことに特徴があります。
確定拠出制度では会社は決まった掛け金以上の追加支払い義務を負わないため、その会計処理は拠出金(掛け金)を費用処理するのみとなり、引当金の計上は行いません。このことから、退職給付引当金で会計処理を行う退職金の制度は、必然的に確定給付制度を採用する企業ということになります。
なぜ退職給付引当金を計上するのか
企業が退職給付引当金を計上する理由は、企業会計基準上定義された「引当金」の要件を満たすからです。
具体的には、次の4つの要件全てを満たすような取引・事象は、必ず引当金として貸借対照表に計上しなければなりません。
- 将来の特定の費用又は損失であること
- 発生が当期以前の事象に起因していること
- 発生の可能性が高いこと
- 金額を合理的に見積ることができること
以下、1つ1つ定義にあてはめてみます。
まず、退職給付引当金の支給は将来における従業員の退職時点で実行されるため、「1.将来の特定の費用又は損失であること」を満たします。
次に、退職給付引当金の発生要因は、従業員が働くことにより生じるため「2.発生が当期以前の事象に起因していること」を満たします。
そして、退職金制度を採用している会社が退職金を踏み倒すような事象は通常起こりづらいと考えられるため、「3.発生の可能性が高いこと」を満たします。
最後に、支給する退職金額の計算方法についても就業規則等で定められることから、「4.金額を合理的に見積もることができること」を満たします。
以上、退職給付引当金は企業会計原則における「引当金」の要件を満たすことから、貸借対照表において計上することが求められます。
なお、例えば退職金制度がなく就業規則等において退職金の計算方法が定められていないような場合、「4.金額を合理的に見積もることができること」を満たさないため、退職給付引当金を計上することは義務付けられません。
また、この引当金に対する考え方の根底には、「発生主義の原則」の考え方があります。
発生主義の原則とは、「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。」とする考え方をいいます。(企業会計原則)
つまり、一会計期間内において実際の支出がなくとも、発生主義の原則に基づき費用を計上すべきとする考え方です。 これにより、引当金計上の相手勘定として費用が計上されることになり、退職給付引当金の相手勘定として「退職給付費用」が計上されることになります。
退職給付引当金の「簡便法」とは
退職給付引当金の会計処理には、原則法と小規模事業において使用できる簡便法があります。簡便法は、原則として300人未満の企業について「期末の退職給付の要支給額」を用いて、退職給付引当金の見積りを行ってよいとするものです。企業会計基準第 26 号退職給付に関する会計基準第26項、同適用指針の第47項において規定されています。
(参考)企業会計基準第 26 号・退職給付に関する会計基準第26項
(参考)企業会計基準適用指針第 25 号・退職給付に関する会計基準の適用指針第47項
簡便法による退職給付引当金の仕訳とは
簡便法によって見積もることができる期末の退職給付引当金は、「退職給付費用」で計上します。
例:期末に退職給付引当金500円を計上した
借方 | 貸方 | |
---|---|---|
退職給付費用 500円 | 退職給付引当金 500円 |
この500円を計算するためには、期末における「退職給付債務」を見積もることが必要です。ただし「退職給付債務」の見積もり方法については以下で違いがあります。
- 自社の資金を原資とする退職一時金制度
- 外部機関に積立を行う企業年金制度
したがって、会社が導入する制度に合わせて、退職給付引当金の計算方法と仕訳を確認することが必要です。
退職給付引当金の計算方法と仕訳<退職一時金制度>
退職一時金制度を採用する企業において、期末における退職給付債務とは「期末の退職給付の要支給額」になります。「期末の退職給付の要支給額」の見積もり方法は簡便法の中でもいくつかありますが、そのうちもっとも分かりやすいものは、期末において全従業員が自己都合で退職したと仮定した場合に支給しなければならない退職金の総額です。
期末に計上する退職給付引当金を計算するには、まず「期末の退職給付の要支給額」を計算し、その額と期末の退職給付引当金の簿価が等しくなるよう、計上金額を調整します。これは、貸倒引当金の差額補充法の計算をイメージすると分かりやすいでしょう。また、期中に退職給付の支払額があれば退職給付引当金の取り崩しとなるため、期首の退職給付引当金から控除することが必要です。
例:
- 期首の退職給付引当金 800円
- 当期に支払った退職金 100円
- 期末の退職給付の要支給額(期末の自己都合要支給額など) 1,000円
▼仕訳
借方 | 貸方 | |
---|---|---|
退職給付費用 300円 | 退職給付引当金 300円※ |
※計算方法:
期末の退職給付の要支給額1,000円-(期首の退職給付引当金800円-当期に支払った退職金100円)=300円
退職給付引当金の計算方法と仕訳<企業年金制度>
企業年金制度における退職給付債務の見積もり方法もいくつかありますが、もっとも分かりやすいものは、「直近の年金財政計算における数理債務の額」です。この「年金財政計算における数理債務の額」とは、簡単に言うと将来確定している退職給付年金を受取るのに、現時点で必要な積立金の額のことになります。
ただし、企業年金制度では拠出金(掛け金)を支払い、外部に退職金の年金資産を積立てている点がポイントです。引当金とは将来の費用の見積もりですから、退職給付引当金に計上できる額は、退職給付債務から既に外部に積み立てている年金資産を控除した額になります。
退職給付債務 | 年金資産 |
退職給付引当金 |
ややこしくなってきたので、一旦、計算式で整理しましょう。
- 退職給付引当金=退職給付債務-年金資産
- 退職給付債務=直近の年金財政計算における数理債務
ちなみに退職給付債務と「直近の年金財政計算における数理債務」の金額は、簡便法では一致しますが、原則法では計算が少し複雑となるため、両者には差異が生じます。
例:
- 期首の退職給付引当金 1,200円
- 当期に支払った掛け金 200円
- 期末の退職給付債務 1,500円
- 期末の年金資産 300円
期末に計上できる退職給付引当金は、期首との差額です。また、期中に支払った拠出金(掛け金)は退職給付引当金の取り崩しとなるため、期首の退職給付引当金から控除することが必要です。
▼仕訳
借方 | 貸方 | |
---|---|---|
退職給付費用 200円 | 退職給付引当金 200円※ |
※計算方法:
(期末の退職給付債務1,500円-期末の年金資産300円)-(期首の退職給付引当金1,200円-当期に支払った掛け金200円)=200円
より正確な退職給付引当金を計上するための会計処理
退職給付債務の見積もり方法は、簡便法の中でも複数あります。
もっとも分かりやすいものは、退職一時金制度では自己都合要支給額(期末において全従業員が自己都合で退職したと仮定した場合に支給しなければならない退職金の総額)、企業年金制度では直近の年金財政計算上の数理債務(将来の退職給付年金を受け取るのに、現時点で必要な積立金)です。参考まで、その他の計算方法もご紹介しておきましょう。
以下にその他の計算方法を記載します。
退職金一時制度
- 自己都合要支給額(期末において全従業員が自己都合で退職したと仮定した場合に支給しなければならない退職金の総額)
- 自己都合要支給額×比較指数(原則法により計算した退職給付債務の額と自己都合要支給額との比)
- 期末自己都合要支給額×平均残存勤務期間に対応する割引率の係数×昇給率の係数
企業年金制度
- 直近の年金財政計算上の数理債務(将来の退職給付年金を受け取るのに、現時点で必要な積立金)
- 直近の年金財政計算上の数理債務×比較係数(原則法により計算した退職給付債務の額と年金財政計算上の数理債務との比)
- 在籍する従業員については「退職一時金制度」の1か2を、年金受給者及び待期者については直近の年金財政計算上の数理債務の額を退職給付債務とする方法
まとめ
退職給付引当金は確定給付制度における会計処理で、その計算方法は原則法と小規模事業所に適用される簡便法の2つです。退職金の原資が自社の資産から捻出するか、外部機関に積立をしているかどうかで処理が変わります。そのため、まずは会社の退職金の仕組みを知り、その上で会計処理を行う必要があるでしょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。